冷海
無事に神殿を後にし、人のいる集落をめざして歩を進めている途中、魚を大きくしたようなエネミーを見かけた。しかし、こちらを確認するやいなや、あっという間に逃げて見えなくなる。
「…本当によく逃げられるな」
感心しつつも、腹の虫が抗議し始めた。
神殿では簡素な食事が出されていて、文句は言わずにいただいたものの、飽食と言われた時代にいたものだから、少しつらい。
レトルトやカップメン等が懐かしく思えてきた。
「まだそんな日数経っていないはずなのにな…」
鬼の洗濯岩みたいなところに出ると、波が高くなっていた。
神殿を出た直ぐより水位が上がっているから、潮が満ちているのかと思うも、違う。違った。
逃げていったエネミーが、仲間を引き連れて戻って来た。それもたくさん。
襲うのかと思い、槍を構える。波飛沫がかかり、しょっぱい。目に入りそうになったし。
整列したかと思うと、じっとしていた。
「なにこれ」
確か神話に在ったな、こんな感じなの。あれは数を数えると騙して踏み石にしたんだっけ。最後に原因は自業自得だが全身から生皮剥がされたとかなんとか。
おお怖。なんて思い、通り過ぎようと右向け右すると、列になったエネミーが騒ぎ出したように思えた。
「もしかして、もしかすると」
そーっと見ると、進んでくれ!と言いたそうな眼をしたエネミーしかいなかった。
「…ドMか」
ただ一言感想。それしか出なかった。
*
エネミーの背を踏み、飛ぶように走って行くと、漁港のような場所に出た。正確にはその隣に着いたのだが。漁師たちに自分らが狩られないようにと思ったのだろうか。
隣の島までは自力で泳ぐことになった。
日が出ない東の海。そりゃ冷たい。大袈裟だろうが、凍りそうになった。足や手の感覚がわからなくなったまま泳いで、隣の島に着く前に唇と顔が真っ青になった。
全身が重い。筋肉痛になるだろうと思うね、絶対。治ったばかりなのに。
ひ―こら言いつつ海岸に打ちあがる。立てない程体力を消耗していたのだ。
これって2度目だよなと思いつつも、意識は深く落ちていく。
深い深い、意識の底へ。
恐らく、また前回と同じようにヒカリに呆れられたような声をかけられ、ウサギには蹴飛ばされるのだろう。たった今思い出した…。何で蹴飛ばしたんだ、ウサギは。ものっそ痛かったんだぞ。
―そうか。ならばホーリーの説教の方が好ましいとでもいうか。
意識の底で目を開けると、笑顔が妙に硬いウサギの顔がそこに。
寝転がったままの状態だったため起き上がると、近くにヒカリとホーリーと、
「……どちら様?」
青い装束をまとった美人がいた。




