蒼島
アンノウンを見、そして、船に追いつけず意識を海中で失った俺が次に見た景色。
ガラス細工のような淡い青というより青藍に近い色を基調とした部屋。
意識のない間、ウサギとヒカルの声が聞こえた気がしたものの、記憶はない。
起き上がろうとし、全身に痛みが走った。こうなったのって、この次元に来て炎の鳥に飛ばされた後以来だと呑気な思考に行っていた。
あ、と思い出し、手で自分の付近を探る。鳥にもらった鞄と槍はあった。しかし、それだけ。
「船の皆は無事に目的地に着けたかな」
ぼそと独り言をすると、ガシャンと何かが落ちる音がした。
鈍い痛みのする首を動かし、音のした方を見る。そこには白と青でおられた服、というより装束と言った方が似合う格好をした人物が立っていた。
「目が覚めたのですね…」
その声は透き通ったものだが、何所か冷ややかで、蔑む言い方が混じっているようだった。
―火と水は相対するものだヨ。
そんなヒカリの声が聞こえた気がするが、気のせいだろうな。
「何日も前に表の浜に打ち上げられていたのですよ」
そう説明し始めた彼女、東の神殿に仕える身だそうだ。
アマネと言う名と教えてくれた。そして数日前に、無事に隣の島にある港に貨物船が到着できたことも聞いた。よかったと安堵した俺を、優しい目で見ていたが、目が合うと一瞬にしてもとの引き締めた無表情に戻ってしまった。何故だ。
*
この一室は龍の祭壇のある神殿の一部という。ややこしい。
そして、海水でずぶぬれになった俺を浜で発見し、運び込んだのが、神殿神子と称される職に就くキリコだと。一瞬、闇医者の一人を考えてしまった。
起き上がれそうにない俺を見に来たのだと。
「貴方は、人とはかけ離れた「力」をお持ちなのですね」
「いや、一応人ですからね、俺。誤解しないでください」
キリコさんは修道女のような衣装をまとっていた。こちらも白と青を主とした配色。
「それはそうと、俺を襲ったあのアンノウン…海獣?はもしかして」
「疑問は判ります。私が召喚した使徒が襲ったのではないかと仰いたいのでしょう」
そう。部屋から外に案内される間にいくつもの絵画や壁画が飾られていた。龍神と称される大きい青い龍と、随伴する眷属らしき白色の龍の物がその全てに共通していたのでそう思ったのだ。
「主より御言葉を賜り、それに沿う形にしたのですが、もしや、貴方は何処かの神殿からの刺客なのでしょうか」
そんなんじゃない。と強く言えない。火の鳥の住処が神殿だとしたらその通りだから。刺客ではないがな。
だが、「お使い」で来たことは話した。
火の鳥が、こちらの次元に俺を引っ張ってしまったのは「境界」を支えてきた四方の神の力が弱体化して綻びができてしまった結果なのではないか。と言っていた。
お使いの話をした後に、鞄の中の人形からぶつぶつと聞こえたため出してみたところ、火の鳥がまた憑いていたのだ。
『おい、紺。いい加減出てきてみたらどうだ』
一段落ついた、という所で鳥が急に何もない空間に向かって話し始めた。
キリコさんも何が何やらといった顔をしていたが、鳥は気にも留めず、
『いつも『最年少めが』などと言うて来るくせに、会いに来ると『帰れ』と言う。だから、直には会わずともよい手段をとったというのに顔も見せぬか。白や玄に言いつけてやろうか』
言っていることが少々大人気ない気もするが、隣のキリコさんがハラハラし始めている方が心配に思えてきた。
なおも挑発を続ける鳥。数分後くらいに、地震かと間違えそうになる揺れが、足の真下から発生した。
転ばないようかがみ、頭上確認のために見上げた俺は、驚いた。
そこには透けた青の龍の姿があった。
『朱、貴様、我を愚弄するか』
『舐められるような力しかないからだろう?』
『なにを言うか!』
クリアな龍は、俺に抱えられた人形相手に喰ってかかっていた。
カッと口からブレスのようなモノを出したかと思った次の瞬間、別の場所にいた。
キリコさんがいない。と周りを見渡すと、どこかで見た覚えがある。
*
『ここに入って生きておるということは、やはり、貴様、「人」の規格から外れた者か』
頭上の声に振り向くと、先程のクリアなバージョンじゃない龍がいた。
『得物を獲れ』
「は?」
『貴様が真に我の力を受け止められるか、「直に」見極めると言っておる』
「はぁ!?」
手に抱えられた人形はいつの間にかなくなっており、代わりに握られていたのは槍。
赤い槍。なのだが、少し変化している。
「炎が、溢れてる?」
『構えよ!』
槍の変化に呆然としている所に、龍はその牙を向け、噛みかかろうとしていた。
※これから毎週日曜更新にします。




