次元移動
拙いですが、楽しめたらと思います。
とある神社
もうすぐ就職試験間近ということもあり合格祈願の為、近所の有名でそこそこ大きい神社に参拝しに来ていた。
今日の予定は祈祷参拝し、少し歩いてから帰宅というゆるーいもので、
「この後どこに行こうか」
と考えつつ、青々と深緑の生い茂る境内を歩いていた。
若葉の匂いのする風が鼻孔をくすぐる。そのまま一緒に砂埃も入ったのか、
くしゃみ (くしゃみの音)
をしてしまった。しかし偶然か、自分以外の誰かのと同時に聞こえた。
「え」
顔を上げ振り返ると、周りの景色は一変していた。
くしゃみと同時にしてしまった瞬きの間に、境内の中で木々の緑だったはずが、一転して今は何もない真っ白な空間にいた。
「どうなってんだ…」
呆然となっていたところに、いきなり反転したような黒色に変わった。
少しのぬめり気と湿度があった。
『ぶえっくしゃい!』
誰かのくしゃみと衝撃と共に、俺の視界は明るいところへ吐き出されるように転がり出た。何故か粘性のある水にまみれていたが。
先程くらいの真っ白とは言い切れない生成りに近い空間に黄色や赤、朱色の光の粒が漂っていた。
『なんとまぁ、すまない』
ふと後ろから声をかけられ、斜め上を振り返るとそこには鼻をすするでかい鳥がいた。
『何かが鼻かのどの奥の方に詰まったと思ったら、とんでもないものまで出してしまったようだな』
「いや、ここ何処だ。」
それが最初の感想だった。
*
「つまり?」
俺、深沢一真は、生きたままでは簡単に越えられない次元の壁を「生きたままそのままの状態で」超えてしまったそうだ。
地球でよく見かけた他の異世界物語でよくある現世で死亡後異世界へ、なんてのはここにはなかった。
「実感がいまいち沸かねぇ…」
手を何度もにぎったり開いたり繰り返すとその感覚がたしかにある。夢じゃない。
『すまない。本当に』
「いや、あんたのせいじゃないだろう。偶然に偶然が重なっただけだろう」
元いた地球のある次元(?)に帰れるかと尋ねたら、鳥はそっぽを向いてしまった。
「どした」
『次元を超えて元の次元に戻すことはできるが…なんというか、その』
歯切れが悪い。
「この…今ここの次元の、カミサマだって言うならもうちょいはっきり言ったらどうなんだ」
ちらとこちらをうかがうように見る。
『本当に言ってもいいのか?』
「おうよ」と応じ、聞いた言葉は耳を疑った。
『返すことはできるが、生きて戻れるという保証はほとんどないと言っていい。むしろ今この状態で会話ができていること自体本来の「人間」という規格から外れているのだ。』
プツンと緊張の糸が切れた。自分で言うのもなんだがこんな体験しているからか緊張していたんだな。
次に目が覚めたときは自宅のベッドの中、というはずも無く。
『ずっとここに居させるわけにもいかなくなった』
本当は好きなようにさせてやりたいのだが、前例のない次元超越生存者である君にしかできないことができてしまった。
内容はいたって簡単なのだが、移動距離や、目的地のある場所が常人では一生かけても到底無理な話とのこと。
「なぜ俺だ。こんな面倒なこと…いや、俺も人間の筈だが」
『次元超越した際に人ではあるが、人間ではないという曖昧な存在になったようでな。あと、目的地の内部での調査もしてもらいたいのだ。中は神力で満ちていて、一般の人間は1分ももたないまま崩壊してしまうからな。』
「そんな危険な所に向かえと」
『危険ではないはずだ。ここはほかの神域と大差ない力であるからな』
*
餞別として、武器防具になら質量保存の法則完全無視して何でも変形できる槍と、ある程度の金銭、生活に必要最低限度の物、あと謎のお守りをいただいた。
あの神の鳥、当分は会えなくなるからと本来の姿を見せてもらったが、超巨大な焔の鳥だった。朱色というか鴇色に近く、孔雀の様な飾り羽に金の縁取り模様。とにかく立派、としか言えない。
どうやってあの狭い空間にいたのか…いや神域ならば空間がねじ曲がっていたり認識がおかしくなっても些細なことか。
そんな話の後、神域から、人のいる地上に送り出す方法がちょっと、いや、とんでもないやり方だった。
焔の鳥は見た目と名の通り、赤と火と南を示す存在で、火山の噴石に混ぜて近くの島へ送るとのこと。
鳥のまつられている島には活火山があり、たびたび噴火しているおかげで慣れている島民にはよっぽどのことが無い限り死者を出すことは無い。
「こっちが地上に着くまでに先に死にそうなんですけどー!」
…火口から飛ばされて地上に噴石ごと叩きつけられる直前までの間、そんなことを叫んだ。