見え見えの見栄。
チャイムの音が響く中、俺達は教室に入った。
「全然間に合ったな!」
翔太がロッカーにボストンを投げ入れながらこっちを見た。
俺は頷き席に着こうとしていた。
「正夫!」振り向くと担任の吉田が何かを手にして近づいてきた。
俺はその何かが見慣れすぎてもうそれが何かを知っていた。
黄色い封筒。あれは…
俺はその封筒を当たり前のモノを受け取る自然な感じで机にしまった。
「お前んち学費毎回引き落とせないのか?」
前髪をふざけたゴムで結んだ奴が言った。
野田だ。
クラス1のお調子者で家が金持ちな奴だ。
俺は答えた。
「今回さ、あのゲームでただろ?ハンターの最新版!あれ我慢出来なくてさ、学費くすねて買っちまったんだ!」
俺は笑いながら、そしてどこか余裕のあるふざけを見せるような仕草で野田にそう言った。
野田は天井を一瞬見て、それから仲良くしている笹野と目を合わせてから俺に言った。
「ほー。それは羨ましいわ!貸せよ。すぐ返すからさ。」
「うん。いいよ、今翔太に貸してるんだ、来週な!」
「おう!ありがと、楽しみだわ。」
俺は笑いが余ったまま席について黒板を見てた。
翔太がこっちを見ているのは知っていた。
おい、そんな不安そうな顔すんなよ。
お前のその顔、好きじゃないんだ。
お金が無いわけじゃないんだ。
惨めでもないんだ。
俺が悪いんだ。
家族が惨めな訳じゃないんだ。
そう見えないかな?翔太…。
その日の授業は淡々と過ぎていった様に感じた。
今日は翔太と帰りたくないな。
保健室寄ろうかな。そんな事を考えていた。
廊下の白線を見ながら歩いていると後ろから大きい声が飛んできた。
「正夫〜!!
あのゲームの攻略の話しなんだけどさ!
とりあえず…一緒に帰ろーぜ!」
振り向くと翔太。
その数メートル後ろに野田と笹野が見えた。
野田と笹野は別にこっちを見ていなかった。
俺は翔太を通り越すような声で、
「りょーかい!」とだけ答えた。
翔太は笑ってた。
後ろを振り返ってまたこっちを見て
また笑った。