表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/100

序章 五


 もしかして薬草を求めて久しぶりに収穫者〈ハーヴェスト〉が来たのかもしれない。


 私は、はやる心を抑えながら本殿横まで駆けて行き、そこで一度立ち止まり深呼吸をした。


 上手くいけば食糧が手に入る。


 し、しかし私は人と話すのが、いや人と接する事自体が苦手なのだ。いくら「これで貴女もおしゃべり上手!雑談力向上講座」を熟読しても、だ。


 人と話すのは実に半年ぶりだが、上手く話せるのだろうか。


 私は出来るだけ平静を装い、宮の境内に進み出た。


 雑草が生え放題の荒れ果てたそこには、一人の旅人が倒れていた。

 荷物はほとんど持っておらず、薄汚れた外套をまとい、ゴーグルとマスクで顔を隠していて、かろうじて男とわかる。


 試しに私は遠くから木の実を投げてみた。 


 てん、と頭に当たるが、反応は無い。


 もう一度投げてみる 


 てん、と頭に当たるが、またもや反応は無い。


 勇気を振り絞り、男に近寄ってその身体を揺らしてみる


……


 話す以前の問題。


 男は既に事切れていた。


 まあ旅人が訪ねて来たところで、この顔に、この腕に、角だ。十中八九逃げ出すに決まっている。


 さっきまでの幸せな朝の空気が一気に重くなり、薬師宮の静謐は寂しさを演出するだけのものになり下がった。


 私のねじれた性根にとっては、食糧入手の好機をふいにしたという心残りよりも、人と話さなくて済んだという安堵感の方が大きかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ