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第二章 二十二


 ハイドラの背にいるルルディは、ブブキの言葉に反応し顔面蒼白のまま震えている。


 まさかそのような事が真実なわけがあるまいが、ルルディの顔は図星と取られても仕方がない表情をしている。    

 ハイドラの道着を握った手は、しっかりとしわを掴んだまま、離そうとはしない。


「ハイドラちゃんがアタシを信用できないのは理解できるわ。アタシは汚れた大人ですもの。なら、本人に聞いてみればいいじゃない」


 ルルディの挙動がおかしいのは誰の目にも明らかだ。それを感じ取っているからこそ、ハイドラは、背の彼女に問いを投げかけることが出来ない。


もしも返事が無かったら……


「ああああっ!ああ‼ 」


突然、ルルディは声を上げて暴れ始め、ハイドラの背中から半ば崩れ落ちるように逃げ出しす。足がもつれ、転びそうになりながらも、ロバロの元へと走る彼女の目からは、確かに大粒の涙がこぼれ落ちていた。


前脚を大きく振り上げ、今まで聞いたことのないような咆哮をあげるロバロ。


ルルディの不安定な心に反応して彼女を守ろうとしているのだろうか。


しかし私は、一週間以上も一緒に旅をしながら、毛長牛のロバロがどういう時に唸りを上げるのかすっかり忘れていた。


ルルディの元へ。


そう思った時、桟橋全体を揺らす轟音を立てて、黒い塊が降ってきた。


「かあああああれええええええっ!」


奇声を上げる塊からは 四本の触手が飛び出し、ブブキが座っていた椅子が床板ごと吹き飛ばした。


「"森の人⁉ "」


 寸前で身を躱したブブキの口からもれた言葉。


 私の、ハイドラの、ルルディの、旅の目的の名前だった。


嵐の如く暴れまわる緑の塊は、空船を叩き落とし桟橋を粉々に撒き散らしていく。

耳をつんざく嵐の中、触手に捕らえられるハイドラの姿を見た。


「ハイドラああああっ! 」


 腰の双剣を引き抜きながら木っ端を蹴散らし、全力で駆け抜ける。襲い来る触手は一撃一撃が重く剣で弾く度に体勢を崩し目指すハイドラに近づけない。


 目の端ではルルディがロバロにしがみつき、傾く桟橋に耐えようとしている。軋む音は何重にも重なり合い、崩壊に向かって突き進んでいる。


「ルルディ!逃げろ!早く」


 ロバロが大きな体を揺らし、床板に滑る蹄を必死に掻き上へと登ろうとしている。しかしその背には、風に揺れる木の葉の如く少女が翻弄されている。


 視界が傾き、全てが下へ下へと引かれて行く。


 私自身も剣を床に突き刺し、しがみつくだけで精一杯の状態だ。


 黒い塊は、火口への落下など関心が無いかのように、なおも咆哮を上げて周り全てを叩き潰さんと暴れまくる。

下降して行く半壊状態の空船の陰から、引力に耐えられなくなったロバロが呻き声を上げて滑り落ちて来た。


「ルルディ!手を伸ばせ!」


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