第二章 十
聖薬師ニエべは多忙ゆえ直接面会出来なかったが、私の申し出に対しての返答は"森の人"に調査であった。
迷宮内に住むと言われている"森の人"は、詳しい事は何も分かっていないという正体不明の生き物で、ほとんど人の前に姿を表すことが無いらしい。
そんな雲をつかむような状態だった私にとって、ハイドラの存在は"森の人"へと繋がっているかも知れない細い細い希望の糸に思えた。
「ハイドラ。一度剣を構えて私に見せてくれないか」
「はい……これでいいですか? 」
ハイドラの武器は小太刀と小刀の二本、小太刀の方は古いがかなりの業物と見た。
防具は軽装、手甲、脚絆、ゴーグル。白磁色の道着に藍の短袴。
「よし。もういいぞ」
訳もわからず戸惑ってはいるが、これから起きる困難よりも、これから起きる翼望しか見ていない純粋な瞳。
今まで意識はしていなかったが、私はどうもこういう真っ直ぐな年下に弱いらしい。
合理的に目的を達成しようとするならば、この無垢な少年から情報だけ貰い、一人で調査をすべきだろう。それが最も早くフィーゴの元へ帰れる近道だ。
しかし今のハイドラの腕では、一日も経たずに怪我をして、直ぐに戦えなくなるだろう。だとしたら、あのルルディという娘だけでは死の危険すらあり得る。
正直、自分の我欲を都合よく解釈しているにすぎないのではと思う。
父は死に、がらんとした誰もいない道場で、一人剣を振る日々。元気になった弟と切磋琢磨し、一緒に汗を流すという淡い夢。
私とて剣士の端くれだ。
種をまき、育ててみたい。




