第二章 八
数人の役人に囲まれてなお、少女を守ろうと背に隠し、周りを威嚇していた。
「子供二人に対して大人数人で取り囲むとは穏やかでないな。この二人が何をしたというのか 」
「剣士様には関係のない事です。こいつらは奉納料をきちんと納めなかった。それなのに迷宮内に入れろと騒いでいたのですよ」
「ウソをつくな! オレはちゃんと二人分出した。なのにお前達は、ルルディが小さいだの牛は大きいからもう一人分だの、言いだしたんじゃないか! 」
「その手に握っている物を見せてみろ」
私は奉納料を徴収しているとおぼしき役人の手を指差した。
そいつは、周りの者と顔を見合わせて戸惑っていたが、やがておずおずと手を開いて見せた。その手には二人分の奉納料が確かに握られていた。
「ここでの掟を教えてもらおう」
……
「……収穫者は奉納料を納めること」
……
「この娘とこの牛は収穫者に見えないが、それでも奉納料とやらが必要な訳は? 」
……
この問いに役人どもは、うつむいたまま誰も答えようとしない。
……!
私はわざと聞こえるように半歩立ち幅を広げ、腰の刀に手を掛ける。無論こんな所でわざわざ騒ぎを大きくするつもりはないが、こういった輩は公に不正を認めたがらない。多少強引だが、今引き下がるなら不問にするぞとの意思表示が必要だ。
役人のうち、一番歳をとった責任者の男が、前へと進み出て徴収係の持つ奉納料を引ったくり、少年へと返した。
そして醒めた表情のまま、首だけで進行方向を示す。
「行っていいぞ」
二人と一頭の脚が動きだし、刀に手を乗せたまま私がそれに続く。
チッ
「調子に乗るなよ小娘が」
すれ違いざまその男が舌打ちとともに負け惜しみを吐いた。
フッ
「そういう掟があればそうするさ」
私は掟通りの役目を果たした立派な役人どもの敵意の視線を背中で浴びながら、悠々と迷宮へと通じる坂を降りていった。




