第二章 六
通称〈永久迷宮〉と呼ばれる大薬師神宮は、翠塔山のふもとの入り口から山頂の大薬師本殿への大空洞が、文字通り迷宮と化している。その中は一年を通して温暖な気候が保たれており、多種多様な植物の宝庫となっていた。迷宮内は一部の場所を除いて常に植物の盛衰が繰り返されているため、人や動物が利用する道が固定されておらず、刻々と変化をしていく。まさに迷宮の名に相応しい構造となっていた。
ここを訪れていく日かの時を過ごしたが、晴天の空を見た覚えが無い。今も曇天の雲が低く覆い被さり、翠塔山頂はおろか大鳥居の頭さえみえない。
新たに白く塗りつぶされた参道には、早朝から大勢の人々が、同じ方向へと歩を進めていた。
参道の両側には、道具や武器防具が売っている店が立ち並びどの店も客で賑わっており、その中の一つに目的の店があった。
「御主人、ちと尋ねるがよろしいか」
「いらっしゃい! どういったご用件で? 」
「迷宮に入るには、〈ごーぐる〉と〈ますく〉という物が必要と聞いたが相違ないか? 」
「へいっ! 取り揃えてございます。お待ちを。」
主人は慣れた様子で言葉を交わし、店の奥に消えていった。
間口一間ほどの店には様々な武器や防具が所狭しと置かれ、何に使用するのかよく分からないモノまである。
店の外を見ると、のれんの下では人の脚が途切れることなく流れている。
ふと、一人の無表情な少女と目が合った。
彼女は自分の何倍もの巨大な毛長牛を連れていて、この辺りでは珍しい柄の外套を羽織っている。そして片目を包帯で隠し、頭に角があるように見え……いや、恐らく飾りだろう。
あんな幼い娘まで迷宮に入るのか。毎日のように、死者も怪我人も出るような危険な場所に出入りすることが、ここでは日常なのだな。
「お待たせいたしやした。コレがゴーグル、コレがマスクでさあ」
店主から声をかけられ、手渡された品を受け取ってそれらを見定めて見る。