第二章 四
もしも私が門下生をかかえる身になったとしても、とても払えるような金額では無かった。叔父は一体どのようなそんな大金を捻り出しているのだろうか……詳しくは聞きたくないが。
「お前も知っての通り、植物には人を襲う危険な種類もいると聞く。薬師がそいつらと戦いながら、良質な薬草を手に入れるのは並大抵な苦労ではないそうだ。その分、薬草も高くなる。当然な」
そんな努力オレにはできないがね、と腕を組み背を丸くする。
何十年か前までは、薬師による霊薬なんてのは一般的ではなくて加持祈祷に近いものだったそうだが、植物の異変がささやかれるようになって、急速に広まったらしい。
病弱な人間にとってはありがたい話ではあったが、しかし皮肉な事にそのおかげで霊薬に対する関心が高まり、その価格の高騰を招いた事も確かだった。
庭にある草木はあんなに穏やかなのに人を襲う植物とはいったいどういうものだろうか。普段よく口にしている野菜も、それを狩っている者がいる。そんな事考えたこともなかった。
私は急に自分が無力で矮小な存在に思えて、恥ずかしくなってきた。命がけで懸命に生きている人もいると言うのに……
「そういったワケだから、フィーゴの事が落ち着くまでは、続けるしかないのさ」
「こんな回りくどい事をしないで、私に良い縁談を世話して下さいよ。二枚目三男お金持ちとか、美形剣豪とか。そして道場を継いでもらえばよいのではないのですか? 」
「それは良い考えだ! お前はオレの目から見ても十分眉目秀麗の範疇に入っている。世間的に見ても美人と言っても差し支えないだろう」
「はあ、ありがとうございます」
「そこで確認なんだが、オマエ料理は得意か? 」
「い……いえ、料理は塩の量を加減するのが難しくて……」
「では、華道はどうか? 」
「刃物の扱いは得意ですが、生け方が個性的すぎると」
「茶の湯は? 」
「手順が細かくてダメなんですよねアレ。お茶なんて飲めれば良いと思いません?」
「そんな武士の娘として魅力満載のお前が、過去何人の男に縁談を蹴られてるか知っているか? 」
「……タイヘン申し訳ございませんでした」
ぐうの音も出ない。