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第二章 弐


「あんな茶番はもう金輪際お断りです。叔父上」


うららかな日差しが降りそそぐ穏やかな午後。屋敷の周りの木々は若芽が芽吹き、緑が時と共に深くなって行く。屋根の上では小鳥が仲良く並ぶ姿があった。


私は努めて静穏な言葉を発したつもりだったが、その裏に潜む激しい怒気に、屋根の小鳥は慌てて飛び立ち、近所の犬まで騒ぎ出す始末。


「落ち着けオルヒア。修行が足りんぞお」


たった今そのように痛感したばかりですが、あなたに言われたくないですよ叔父上。


「あんな事をして何になります。私の剣は見世物ではありません」

「意味は十分ある。金になるだろう金に、見料におひねり、関連品の商い」


 見料まで……取る方も取る方もだが、払うかフツー。


「自信を持てよ。世間じゃお前の事を天下無双の剣士だと噂しているぞ? 」


「天下無双の"乳"剣士の間違いでしょう?」


 私としては、決してけっっして自慢などでは無い。むしろ羞恥の事実であるが、胸部がほんの少しだけ人より大きい。


我が剣は中条螺子捲〈ねじまき〉流、螺子捲自斎を祖とする小太刀の流派だ。私は元より開祖自斎もそのようなつもりは全くないのだが、立合う技の一つ一つを繰り出す度に非常に大仰に動いてしまうのだ。


ーーその……胸が。


今朝立ち合ったあの場面でも、私の技が優れていたわけではなく、ただ相手が勝手に揺れる胸に見惚れて棒立ちになっただけの話だ。


今まで行った立ち合い全てがそうだった。負けて悔しい態度を示すのはまだいい方で、負けても満足そうに"非常に良かった"だの、"負けて悔いなし"などとほざく不心得者ばかり。中には開始の合図前に鼻血を噴き出して倒れる者や、まともに私の顔を見れない者までいる。


同じ武士道を志す者として憤懣ふんまんやるせない限りだ。


「父上が御存命ならこの様な事態を許すはずがありません」


「兄上はもう死んじまったから金の心配はしなくていいけどよ、オレらは金が無えと生きていけねえ。だろ? 」


 今日の様な状況に陥っているのは、この叔父のせいでもある。

 父が死に、未熟者の私では中条螺子捲流を教えるに至らず、我が道場は寂れる一方だったが、一族の穀潰しだった叔父が意外な商才を発揮した。


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