おもてなしには裏がある
「え、暇というか、部屋の片付けとかをしようかと。」
「なるほどなるほど。外出する予定はないんだね。」
晶さんがなにやら悪い顔をしています。
「五十部くん、今日1日ウェイターしてくれないか?」
「……はい?」
引っ越してきたばかり、というかまだ引っ越しも済ませていない人に対していきなり何を言っているんでしょう、この人は。あ、人じゃなくて付喪神でした。
「昨日の夜にこの近所一帯で停電が起きていたんだよ。そのせいでティータの充電が終わっていなくてね。」
「現在の充電率27%デス。」
もし朝起きてスマートフォンのバッテリーが27%だったら、天の声は絶望にむせび泣きます。……すみません、少し盛りました。
「というわけなんだ。ちゃんとお給料も出すし、助けると思ってさ。ほら、朝ごはんもおごってあげたじゃないか。」
タダより高いものはない、とはよく言ったものです。五十部くんは後から知ることになりますが、クリムゾンの住人は一食200円でごはんを食べさせてもらえます。
「いや、でも……そうだ、亜久津さんは暇じゃないんですか?」
「ごめんね、もう出勤しないといけないんだよ。」
亜久津さんは食器を厨房へ運びながら申し訳なさそうに言いました。それにしてもお行儀いい人です。
「松樹さんは……中学生だもんね。ライラは出かけないよね?」
そんな格好だし、というセリフは飲み込んだようです。
「私はこれから寝るぞ。」
そう言うとライラさんは大剣を片手に2階へ行ってしまいました。
え、大剣じゃなくてちゃんと名前で呼べ?……ふぇ、フェアリーレガリア、でしたっけ?違う⁉︎ごめんなさいごめんなさい、いま見返してきます!
「五十部さん、諦めてください。お師匠がいきなり豪華なごはんを出してくる時は、ほぼ間違いなく頼み事がありますから。しかも、あらかじめ暇があって断らなさそうな人を占っているんです。」
「自分が使えない手を羨んでいるようでは、まだまだ魔女っ子だよ松樹くん。」
「魔女っ子じゃなーい‼︎」
あ〜、だから皆さん五十部くんの朝食について何も言わなかったんですね。
1時間後、白シャツに黒いカフェエプロン姿の五十部くんがクリムゾン店内のテーブルを拭いていましたとさ。
読んでくださった方、ありがとうございました。
ここで第1章終わりになります。
第2章はライラ・モーリャのメイン回です。