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キスキス@チョコレート  作者: 机椅子
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プロローグ「始まりの口づけ。」+第一話「春のお月さま。」 

文字数の関係上プロローグと第一話をまとめております。

 高校一年生のバレンタイン。

窓から見える夕焼けが私達を見守っている。

そんなオレンジ色の教室で、彼女は私にキスをした。

手紙でこの教室に呼び出され、そして何かを話して。

すると、いつの間にか。

繋いだ彼女の手は小さく震えている。

大胆な行動とは裏腹に怯えているのだろうか。 

分からない。何も分からない。

私には、なにも。

彼女とのキスは、ほんのりと甘く、少しだけ苦い。

そんな気がした。



 教室の窓から入ってくる温かい風が私の頬を優しく撫でる。その風は私の髪を揺らした後、教室全体を通り抜けていく。それはまるで、新たにこの学校に入学してきた私達を歓迎しているようだった。そのおかげか、まだ入学式が終わったばかりなのに、クラスの雰囲気は不思議と和やかな空気に包まれていた。そして今はクラスの皆が一人一人自己紹介をしている最中である。そろそろ私の出番だ。


「では、次は小川さん。簡単な自己紹介をお願いできますか」


 担任の女性教諭の合図に合わせて、私はその場を立って黒板の前へと向かう。軽快にチョークの音を響かせて黒板に名前を書いた後、パッパッと手についたチョークの粉をはらう。そして皆の方を見渡して自己紹介を始める。


「皆さん、こんにちは。私の名前は小川 咲と言います。小さな川が咲くと書きます。初対面でも気を使わずに咲と呼んでくれて構いません。一年間共に過ごす仲間として、よろしくおねがいします」


 無難に自己紹介を済ませて黒板を綺麗に消した後、私は窓際後ろの方の自席へと向かう。授業中疲れたときでも景色を見て気晴らしができる特等席だ。

 丁度その特等席に辿りついたとき、私の後ろの席に座っているとある少女に気がついた。その少女は、頬杖をついてどこか憂いを帯びた目つきで外の景色を眺めている。風がカーテンを揺らすと、それと同時に彼女の背中まで延びる黒い髪もゆっくりとなびく。その姿は、私と同じ高校一年生とは思えない程、どこか大人な雰囲気を醸し出していた。

 私は、彼女の雰囲気に目を奪われつつも前を向いてゆっくりと座る。彼女は入れ替わるようにして前へと向かう。流れるように黒板に名前を書いた後、こちらの方へと振り返る。その立ち振舞いは皆がはっと息を呑むくらいに美しく、彼女の端正な顔立ちが尚更それを際立たせていた。


「皆さんはじめまして。織宮 月です。どうぞよろしくお願いします」 


 と、あまりにも簡単すぎる自己紹介を終えて、彼女は後ろの自席へと座った。皆、あまりの短さに少し動揺している。そしてちらりと後ろを伺うと、またさっきと同じように外の景色を眺めていた。その端正な横顔は、やはり美しかったが、どこか気だるそうな印象を私に抱かせた。


 その後、部活見学会等を含んだ放課後では、彼女の周りに多くの人が集まって私はあえなく退散することとなった。大勢の人の隙間から一瞬見えた彼女の微笑んだ表情には未だに気だるさが残っているような気がした。

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