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君の世界  作者: 円満紫黒
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あるところに世界が左右反対に見える男がいました。

文字や数字は暗号のようで、太陽は西から上がり東に落ちます。

彼は勉強熱心で、本を通して自分が人と違うことを知りました。

彼は頭が良かったのです。

人と違うのは恥ずかしい、笑われてしまう、と誰よりも努力し『普通の人』になりすましていました。


ある日、左右反対の男はいつものように図書館に行くとある男がおかしな事をしているのに気づきました。

その男は上下逆に本を持ち読んでいたのです。

左右反対の男はたまらず話しかけました。

「何故本を逆に持っているのですか?」

するとその男は答えました。

「何を言っているんだ?私は普通に本を読んでいるぞ」

左右反対の男は不思議に思いました。ただその男は『普通の人』から見ると明らかに逆さまです。

左右反対の男はこれはまさかとほんの少しの可能性を尋ねるとこにしました。

「もし、あなたは『普通の人』からすると本が逆さまです。私がおかしな事を尋ねていると私の頭を疑う気持ちは良く分かります。ただ一度、騙されたと思ってこちらの医学書をご覧になるのは如何でしょうか」

その男は左右反対の男を怪訝な目でジロジロと見ながら渋々医学書を手に取りました。

左右反対の男はその男が医学書を読み、コロコロと表情が変わっていくのを見て確信がつきました。

その男は世界が上下逆転して見える男でした。


「何故お前は俺にそれを教えたのだ」

上下逆転の男はまだにわかに信じられませんでした。

今まで生きてきたことを丸ごと否定されている気分で仕方がなかったのです。

約60億人いると言われているこの世界でただ一人孤立をしていたこと、誰も何も教えてくれなかったこと、自分は非常識だったこと。

それらをひっくるめて結局は左右反対の男を攻めるとことしか今の彼には出来ませんでした。

「それは貴方と私は同じだったからです。私は世界が左右反対に見えています」

左右反対の男は今までの人生を上下逆転の男に話しました。

それを聞くと今度は新しい疑問が生まれました。

「なら何故お前は『普通』に過ごせているのだ」

「私は努力をしました。『普通』に過ごすために人よりも何倍もです。これまで見えていた文字を全て反対に覚え、世界をそのまま見るのを止めました」

それを聞くと上下逆転の男はそうかと、小さく呟きました。

空気のようなそれはそれは薄い返事です。

上下逆転の男は自分の見えていた当たり前の世界を気に入っていました。

一人だけ空を歩き、星に座り重力というものがあるのかないのか分からない世界が。

ただそれを否定され笑われるのかと思っていたのです。

事実彼は今までのそうでした。何を言っても信じてもらえない、その孤独は自分しか分からない。

彼が人間不信になるのにはそう時間はかかりませんでした。

ただ目の前にいる男は違った。

こいつは自分と同じ立場の人間だ、孤独な人間は二人を居たのだと男は何故か安心していました。

「お前は自分の世界が好きか?」

「私はただ、『普通』でいたいです。貴方にも分かるでしょう。この世界に異端は要らないことを」

上下逆転の男は本当に彼が自分と同じことをされていたのが分かりました。

彼もまた、虐められていたことを。


「私には夢があります」

左右反対の男は太陽が東に沈む空を眺めていました。

「何だ?」

上下逆転の男は太陽が上へと登っていく空を見つめています。

「この世界をただ『普通』に見てみたいです」

「今できているじゃないか」

「これはわざとです。本当は気持ち悪くて頭が混んがらがっています。このままだといずれ私は狂ってしまうでしょう」

感覚的には30年地球に住んでいたのが突然宇宙人と暮らすことになるのと同じだろう。

文字、数字という概念すらあるのか無いのかわからない世界が当たり前と言われ、明日から地球にいた時と同じように過ごせと言われている。

いちいち言葉を母国に直しながらの会話、読み物。

そもそもこの形は何て読むのか、これは文字なのか、ただの落書きなのか。

それすらも分からないのにどうやって生きてきたのか。

上下逆転の男はそれらの恐怖と同時に左右反対の男に対して途方も無い悲しさを感じた。

この男はどうしてこうも救われないのか。

普通に生きたいと思うのは自分が普通ではないと言っているのと同様である。

左右反対の男の努力が上下逆転の男にはそれはそれは痛いものだった。

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