少女は機械に蹴りを入れる
幾何学的、悪く言えばごちゃごちゃした街。
最大都市キッカーシティ。
その商店街のど真ん中で、白髪の青年がぼんやり突っ立っていた。
黒い目に映るのは、様々な種族の人々。通りに向かって陳列された色んな商品。貫ける様な青い空。
それでもやっぱり、青年はぼんやりしていた。
(ああ、ここ、どこだっけ?)
首を傾げるも、記憶は転がって出てきはしなかったようだ。
『動くと余計迷うから、道に迷ったらその場に留まりなさい』
いつも傍にいる少女の言葉。
よって、彼は商店街のど真ん中、行き交う人々に邪魔に思われながらも突っ立っているのである。
暇になった青年が指折りで四十五まで数えた頃。
その腰に、何処からそんな力が出るのか、とてつもない威力の回し蹴りが炸裂した。
青年はそこをさすりもせず振り返る。
「見つけた。 目を離すとすぐこうなるんだから。 早く戻るわよ」
「分かった、で、君の名前は何だっけ?」
商店街に再び、脚蹴りの炸裂音が響き渡った。
*
「ほとほと呆れるわ。 機械人の癖してなんにも覚えられないのだもの」
熱いピーチティーを口に含み、ため息をひとつ。
向かい側に座る青年は頬を掻いてまた首を傾げた。
それ以上は何も言わない少女と、自分から話す内容を持ち合わせていない青年の間には、騒がしいカフェの中でも際立つ沈黙が流れている。
少女がティーカップを空っぽにした頃、少女等のテーブルに一人の男が現れた。
そう、文字通りテーブルの上に。
「ハーイ! 仏頂面のレディ、それとしけた顔した機械人!」
真っ赤な髪の毛、ピンと立った獣耳、髪同様真っ赤な瞳の猫目。それに豪奢な貴族風の服装。
顔を半分覆う仮面がうさんくささを際立たせている。
「いつも通り鬱陶しいわね、クロノス」
少女は不快さに顔を若干歪めた。
「あんらあツレないねえお嬢さんは。 まあまあ、そんなこと置いておいて! 取引に呼んだのは、貴方がただしさあ」
華麗にテーブルから飛び降り、くるりと振り返る。
赤い尻尾をくねらせながら、獣人のクロノスはにんまりと笑って見せた。
続く?