チェンジ
キャラクターもののお面をつけた集団は、まるで打ち合わせをしていたかのように、二対三の形を作るように二つに分かれて右と左から四人に向かって走っていった。
前に奏太と琴音、後ろに雪乃と悠真。そのまま向かってくる相手に合わせるように、奏太と雪乃は左へ、琴音と悠真は右へと分かれた。
左に分かれた二人は、挨拶代わりとばかりに、奏太が突っ込んでくる赤いモモタロスのお面の男に向かって飛び蹴りをかました。もちろん顔面めがけて。
「ざまぁ!」
空中で態勢を立て直そうとしてモモタロスのお面に直撃した足を離そうとしたとき、ガシッと足首を掴まれたのだ。まさか自分の蹴りを堪えられるとは思わなかった奏太は、足を振りほどくのが精一杯で、そのまま地面に音を立てて落ちてしまった。
そこへ平成ライダーフォーゼのお返しのライダーキックが奏太めがけて飛んできた。テレビならジェットとドリルを使っているのだが、そんなものが出てくる様子もなく、ただの飛び蹴りだった。
さすがにマズイと思ったのか、得意の跳躍力を活かして、雪乃がその飛び蹴りの態勢をとっているフォーゼの上に乗り、下へ向かって蹴りつけた。フォーゼは、奏太の元へ届くことはなく、同じように地面に落ちた。
しかしライダー組の攻撃はそれだけでは終わらず、残った一号の元祖ライダーキックが、モモタロスの頭を超える高さから雪乃に向かって飛んできた。
空中で伸びきった態勢の雪乃に避けるすべはなく、腕でガードした上にキックを叩き込まれた。
飛ばされながらもなんとか空中で態勢を立て直し、地面を滑りながら着地した。
この間、わずか十秒の出来事だった。
奏太も立ち上がって雪乃の元へと駆け寄る。
「なんだ、あれ?」
「きっとお面のせい」
「お面?」
「みんなライダーキックしてた」
「は?」
「ライダーキックはライダーに伝わる必殺技。あのお面をかぶって、その力を得ているんだとしたら、納得がいく」
「つまり俺たちの仮面と同じ効力があるってことか?」
「似たような、ね」
「それ、ヤバイじゃん」
服についた土を手で払いながら、奏太は敵の三人を見て、初めて対峙する自分たちと同じ力を持った相手に、身体に緊張が走るのを感じた。
そして右の相手に向かっていった琴音と悠真。
二人は距離を縮められる前に立ち止まり、琴音が出した糸で動きを止めようとした。相手に指先を向けて、そこから糸を出して絡みつかせる。しかしピカチュウのお面をかぶったやつが前に出てきて、それぞ全て受け止めた。
「一人だけ犠牲になろうって? ナメないでよね!」
そう言ってピカチュウのお面の男を取り押さえた糸をさらに伸ばし、後ろの二人へと糸をさらに伸ばす。
しかし。
「痛っ!」
突然指先に刺激を感じ、指先から出していた糸を切り離してしまった。
突然でなんのことかわからなかった琴音は、自分の指を見て首をかしげる。
そこへ、ウルトラマンのお面をかぶった男が距離を縮めて突っ込んできた。それに気づいた悠真が、どこからともなく取り出した赤い大きな布をウルトラマンの前にヒラリと向けて、闘牛を受け流すかのように身を翻した。ウルトラマンは視界を布に隠されてバランスを崩し、よろけながらあさっての方角へ進んでいった。
そのウルトラマンの後ろからピカチュウとプリキュアが続いてきており、ピエロの能力のための動作が追いつかない悠真の前に琴音が立ちふさがり、ピカチュウの両腕を掴んだ。しかしその瞬間、またビリッという刺激を感じ、手を離してしまった。
残されたプリキュアは、真っ直ぐに悠真のほうへとやってきたのだが、悠真は素早く後退し、少し余分に距離を取った。プリキュアは悔しそうに両手をブンブンと振っていたが、その動作を行った直後に、お面が蛍光塗料で塗られたように光り、両腕を前に伸ばし、指全部を使ってハートの形を作ると、そこからピンク色のビームを悠真めがけて放った。驚いた悠真は、慌てて持っていた赤い布を前で広げて、それをピエロの能力で固くしてビームを防いだ。
「悠真ぁ、なんかあいつ、静電気でビリビリするぅ」
寄ってきた琴音と会話が必要だと思った悠真も仮面を外す。
「静電気? ってことは、あのお面のせいかな?」
「あ、電気タイプ!」
「きっとあのピンクのお面もそうだと思う。きっとあのウルトラマンもそうかも」
「厄介だね」
「うん」
少し離れた位置で、膝をついている奏太を見て、向こうも苦戦しているということ察した悠真。
一応リーダーとして、落ち着いていると言われる自分の取るべき判断はどれか。
そして考えた結果。
「仮面、変えてもいいよ」
「えっ? いいの?」
「うん。緊急事態だし」
「やった!」
仮面を勢いよく取って琴音が大声で言う。
「奏太! あんたの仮面貸して!」
「マジで!? いいのかよ!」
「悠真が許可出した!」
「よっしゃ!」
奏太も同じように仮面を外し、琴音めがけてフリスビーの要領で投げた。それをガッチリと受け取った琴音は、阿修羅の面を付けて気合を入れた。蜘蛛の面は、悠真がピエロの代わりにかぶり、蜘蛛の糸一本を小指から出して、服の中から身体にピエロの面をくっつけた。
そして仮面を渡した奏太は、雪乃に向かって言う。
「雪乃。猿、持ってきてるか?」
答える代わりに、持っていたポーチから『猿』の面を取り出して渡した。
「ひっさしぶりだなぁ。雪乃を痛めつけた奴は初代だったな……」
『猿』をかぶった奏太は、キッと一号を睨んだ。
そして猿の面を渡した雪乃は、同じくポーチから『狐』の面を取り出して、それをかぶった。使わなくなったうさぎの面は、そのポーチにしまった。
『猿』と『狐』。
『阿修羅』と『蜘蛛』。
それぞれ違う仮面をかぶった二組は、先ほど対峙した相手をじっくりと見やってから戦闘を再開させた。