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夜のお仕事

少年少女は学生である。高校生である。琴音と悠真は一年生。奏太と雪乃が二年生。

なんやかんやあったせいか、すでに夏休みも終わって九月が終わろうとしている。

そんな秋の空気が押し寄せてきている薄ら寒くなってきた一年生の教室で、今日も仲良さげに琴音と悠真は喋っていた。いや、正確には琴音が悠真に喋っていた。


「寒くなってきたけどさ、そろそろ秋だよねー」

「……うん」

「秋といえば食欲の秋、運動の秋、紅葉の秋、芸術の秋、読書の秋……あとなんかあったっけ?」

「……紅葉はちょっとち」

「あっ、落ち葉の秋! 落ち葉とか拾って焼き芋とかもいいよねー。栗ご飯も食べたくなってきた。今日の夜ご飯、栗ご飯だったらいいなー」

「今日はカレーってグランマが」

「でもやっぱり秋といえば秋刀魚よね! 秋刀魚はこの時期が脂のっててジュワーっていうかジューシーっていうか」

「……」


悠真は、琴音とキャッチボールをするのを諦めて、いつものように頬杖をついて外を見た。

寒くなってきて空気が澄んでいるのか、空が綺麗な青色をしており、白い雲もはっきりと見えた。いわゆるいい天気というやつだ。

悠真は琴音に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


「今日もオゾン層が綺麗だ」


ロマンの欠片もないメタ発言だった。



その頃二年生の教室では、雪乃がいつものように文庫本を広げていた。

隣では奏太がつまらなさそうに、雪乃が読んでいる文庫本の表紙を見ていた。


「なぁ雪乃」


その声に雪乃は目線で応える。


「それ、面白いか?」


コクリと小さく首を縦に振り、肯定の意を伝える。


「ふーん。どんな話?」


表紙に書かれた『月面宙返り』というタイトルを見ながら尋ねる。

雪乃は一度表紙を見て、奏太の机辺りを見ながら話し始めた。


「主人公がムーンサルト殺法を駆使しながら敵と戦う話」

「ん?」


雪乃があまり見せない小さな笑顔を見せながら、頭の後ろ辺りに『ドヤァ』という擬音が見えそうなくらいの自慢顔をしている。その顔を見た奏太は、相変わらずの雪乃のセンスに『?』を浮かべて首をかしげた。



そんなのんびりとした学校での生活を送っている四人だが、夜なると現れる別の顔があった。


「さーて今日もやりますかー!」

「グランマー」


四人は動きやすい格好に着替え、夜の十時過ぎという、良い子が外を出歩いてはいけない時間になってからグランマの部屋の前へとやってきた。

そして奏太が部屋の前でグランマの名前を呼ぶ。


「お入り」


小さく開けられたドアの奥からグランマの声が聞こえ、四人はズカズカと部屋の中に入っていく。

まるで学校の校長室のような作りになっている部屋には、対面式のソファに挟まれるようにテーブルがあり、その先に校長先生が座っていそうな椅子と机が置かれている。その椅子にグランマがどこぞの司令官のごとく鎮座していた。


「じゃあ今日も頼むよ」

「今日は?」

「五丁目の電信柱のところを強盗団が通るらしい。それをとっちめてきておくれ」

「久々に大きい相手だね!」

「だな!」

「……雪乃。本は置いていくんだよ」


グランマが困ったように向けた視線の先には、立ったまま本を読んでいる雪乃がいた。雪乃は渋々といった具合で、肩にぶら下げていた小さなショルダーバッグにその本を入れた。


「時間は今から二十分後。仮面は一人一つ持っていっていいよ。いつも言ってることだけど」

「「ケガをしないように」」


グランマの言葉を奏太と琴音が先読みして言った。いつも口を酸っぱくして言われていることだ。覚えてしまうのも無理はない。


「まぁわかっているならいいんだよ。だからアタシの手を煩わせないようにするんだよ。いいね?」

「「はーい!」」


元気に返事をするのは奏太と琴音の役目。隣で了解の意を片手を上げて表す悠真と、名残惜しそうにさっきしまった本をバッグの上から撫でる雪乃。


これから四人の『正義の仕事』が始まる。

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