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ファンタジー

イレギュラーテンプレート

作者: 紅藤



目映い光に包まれ…、眼を見開くとそこは、眩しっ!

まだ終わってないのかよ!

こういうのって目覚めた頃には、召喚終わってて建物の中で周りは神官ばっかで…みたいなのがセオリーじゃないの!?


「あっちゃ〜…」


あ?

誰かの声がする。

ずいぶんと感動的じゃないな…。ウワアアア!とかやりましたね!とか勇者さまだ!とか言うんじゃないの?ねぇ。


オマケに男の声ってどうなの?姫とか巫女とかが召喚してくれるんじゃなかったの?おれ童貞だけど知ってるよ。なのにこれはどうなのよ?おっさんなら…国王ってことでまだしも…。いや無理だろ、うん。これ若い声だし。なんとなく分かる、イケメン的な声。


「やっば、どうしようコレ。成功したのはよかったけど」


不安過ぎる。何が起こってるんだ?やっぱりこの事態はイレギュラーなんだろうな。こんな道を外れた召喚は困るし。うん、おれが困るし。


「起きてる?死んでたらヤバい怒られる」


どうしよう…返事。ええい、テンプレだ!テンプレが悪いんだ!そうゆうことだ!そうに違いない。(錯乱中)


「こ…ここは…」


「あっ、生きてた!」


失敬な。始めから失礼な奴だな!こいつ誰よ?下っぱだったら偉い人に頼んでクビにしてもらお。


「あのね、ごめんなさい」


「は?」


「ぶっちゃけるよ、うっかりなんだ。異世界の住民(ゆうしゃ)さん」


あぁ、おれは勇者だったのか。心の奥で安堵が広がっていく。何をぶっちゃけたのか知らないけど、いいことじゃないか。他人とは違う…それがどんなに気持ちのいいことか、今理解した。ありがとう、見知らぬ人。うっかりでも許すさ。………うっかりだと!?どういうことだ!


「そんな憤怒の形相で迫らないでよ。そんなことするとボク…」


まてまて!キャラを作るな!シナを作るな!ネコを被るな!何かを間違えちゃったみたいだろ!おれは、そんな特殊性癖はステータスにしてないぞ!


「ようこそ、勇者さん。ここは魔法とエルフの世界『ジャーツ』。そして我が国はクリムゾンエルフ公国!えーと、君を呼んだのはまさしく勇者として!この国の王子、わたくしトールが召喚させてもらった。出来るだけの待遇をしようではないか。ではごゆるりと」


そして流した!?流されたのおれ!悲しっ!そして説明イベント来たよ!wktkしてたのにこれだよ!えーとで台無しだよ、分かってんのか!しかも王子だよこの人!全然下っぱじゃないし!さりげなく言い方も威厳に溢れた感じになってるし。最初からそうしろよ!


「あー、やっぱり怒ってる?一から説明するから聞いてほしいんだ」


かくかくしかじか。


なるほど…。

明日行われる召喚の儀のために、魔法陣のメンテナンスとして試運転を試みたところ、うっかり召喚してしまったこと。

うっかりだったからアフターケアは万全でなかったこと。

召喚は滅多に行えるものではないため、国民みんなで楽しみにしていたこと。

「この美形だから(本当に言った)言い寄られるのには慣れている」こと。

さっきの棒読みの説明は、今夜徹夜で覚えるつもりだったので、グダグダになってしまったこと。

この世界は約8割がエルフで魔法使い以外の人材を欲していること。

それが勇者というシステムであること。

今回の勇者の仕事は姫を連れ戻すこと。

しかしイレギュラーのことなので、召喚を拒否し、元の世界に帰れること…。


マジで!?

最後のめちゃ重要!こんなことってあるのか?やだ、嬉しい( ´艸`)。惚れちゃう…はっ?


「まあ、実際に召喚できたんだし、勇者なことは間違いないと思うよ。君、一般人じゃないでしょ?」


いや、バリバリ一般人ですけど。日本にありふれる学生の一人なんですけど。ただの男子高校生ですよ?あ、でも…いや…だがしかし。


「そうですね、せっかく来たんだし帰らなくてもいいかな」


「へっ?あ、ああそうなんだ。それじゃお祖父様に報告するからついてきて」


なんでこの人は動揺したんだろ。しばらくまったりしようと思っただけなのに。こんなとこ二度と来れないだろうしね。おれはモブ顔だし、うん。


「お祖父様?」


「そう、今この国を指揮しているのはお祖父様なんだ。エルフは寿命が長いから…知ってるよね?」


「ああ、それくらいは」


「だから僕が王座に就けるのはまだまだ先なんだ。だからこんなにフリーダムな生活が出来るんだ」


フリーダムて。そうか…忘れてたけど、この人王子だったんだな。全然、ナルシストな感じとか陰湿なイメージを持たないのはそのせいかも。


「はい、着いたよ。お祖父様、トールです。報告にまいりました」


「入りなさい」


若い…。覚悟はしてたけどやっぱり若い声だ。そして歳を重ねた穏やかさを感じる。……いや、きっと"お祖父様"の補佐官に違いない。そうだ、とにかく若くて優秀な人がやってるに違いない。そうでなければ困る。切実に。


「トール、どうしたんだい。魔法陣の手入れは?」


「それが…」


トール王子がおれを手招きしている。ほいほい着いていき、ようやくお祖父様の顔を拝めた訳だが。おれはその場に崩れ落ちた。


「魔法陣が稼働してしまい、彼が召喚されてし…えぇ!?ちょ、何?大丈夫!?」


「ただのカルチャーショックだろう。ご苦労だった。この件についてはわたしが誤魔化しておくから、トールや、お前は反省文でも書いていなさい」


「ぇ………!」


口を『え』の形にしたまま、王子は出ていった。ようは追い出されたのである。

王さまと二人っきり。どうしよう、この事態。もっときっちりとした服装にしておくんだった。

もそもそと服の裾を直すおれを見てかは知らないが、王さまは自ら椅子を取りだし、さらに勧めてきた。


「辛くないかい?座りなさい」


「あっ、ありがとうございます」


「わたしはクリムゾンエルフ公国の国王をしている、ナインツ・クリムゾンという。何か質問があるならわたしがお答えしよう」


し…質問?ツッコミ処は満載だけど、それは質問じゃないだろうし…。もしかしたら、この世界では当たり前なのかもしれない。


とりあえず、向こうが挨拶したんだから、おれも自己紹介しないとね。


「えーと、おれは木下 歩。17歳です」


「アユム…君でいいかな?それにしても17歳でそれほど大きいとは…」


エルフでいうところの70歳ぐらいだぞ!って言われた。それじゃこの人はいくつなんだろう。


「わたしは350を過ぎたところさ」


100歳が20歳だとして…ううん、20×3+10=?人間でいう70歳か。

おれがエルフでいう70歳で、なんて…面白い運命を感じる…気がする。

結構お爺さんじゃないか。ひげもじゃのいかにも賢者っぽいエルフじいさんは何処行ったんだ。


「それはね、威厳をみせるためさ。本来のエルフは400歳ぐらいまで若さを保ち、たいてい500歳で魔力の補給ができなくなって死ぬ。確かに400〜500歳の間は外見的にお爺さんだけど、もう寝たきりで元気に動いてるのなんか、宗師さまぐらいだね」


「宗師さま?」


「この国を作り上げた超偉いエルフさまだよ。全部で10人いたんだけど、この前、100年前の戦争で一人亡くなってしまったよ。別名エルフ長老なんてね!でもあの人たちは老いた姿を見せたがらないから、まず無理だろうけどね」


終わった…。

エルフ長老は幻想でした。

もう驚かないぞ!何があっても受け入れてやる!

100年がこの前って…長いスパンで見てらっしゃるんですね。えぇ、そういうこともありましょう。エルフですもんね。


「とりま、疲れただろう。部屋を用意させたから今日は休みなさい」


「はい、ありがとうございます」


確かに疲れたな…。主にツッコミで。どうしてこんなことになったんだっけ?

もういいや。今日は寝よう。前を歩く執事さんに連れられながら、部屋にたどり着いた。


もうやめてくれ、寝かせてくれ。眠いんだ。

おれの部屋で、メイドさんが勢揃いしている。メイドさんだぞ?男なら考えたこともあろう、メイド服の美しさ。清楚でありながら、仕事もでき、ひらひらと舞うそれが我々の眼を温めてくれる、すばらしきメイド服のことを!

あっ違う?おれの周りはいつもこうだったんだけど。

いいや気にしない。その過程で、気になるのが"戦うメイドさん"の存在だ。戦うメイドさんはどんなメイド服を着用しているのか?メイド服の防御力はいくつか?パンチラ防止はあるのか?そもそもその存在自体どうなのか?


とにかく、目の前のメイドさんはとても魅力的だ。メイド服的な意味で。

いつもならとりかかるところだが。裁縫的な意味で。

今は眠いんだぁッ!


「おやすみなさいませ、アユムさま」


「おやすみ…」


ここの人たちは読心術でも心得ているかのようだった…。まる。



―――――――


翌日。

ここどこだっけ。まさか…。いやモブだからないな、それは。


「おはようございます、アユムさま」


は?なんだこの完結しきった美は!すばらしい!一家に一人欲しいぐらいだ!


「アユムさま?」


「こっ、このめ…服を縫った人は誰だい!?」


「え…、わたくしですが…?」


まずい、ドン引きしているじゃないか。だがおれの欲望はだれにも止めれない!


「不埒モノ!」


「ぐえっ」


所詮、ただの高校生のこうそうだから。耐えられるはずもなく沈んだ。


「あっあぁ!アユムさま申し訳ありませんっ」


謝らなくてもいいさ。おれはここに"戦うメイドさん"の証拠がいることに安心したんだ。おれたちの仮定は間違っていなかった。ただそれだけなんだ。


「つ、つい…スリッパで」


スリッパすらも武器にするなんて、メイドさんはすごいなぁ。さすが皆の期待を背負って生きる、戦うメイドさんだ。


「ぇ…、わたくしは戦うメイドさんではないですよ」


は?え?なんですと?


「特殊暗殺・冥土隊のことでしょう?わたくしは普通の、ごく普通のメイドです」


特殊暗殺・冥土隊?格好よすぎ。ってかメイドさんは何故それを平然と言えるの?こういうのは極秘のことなんでしょ?


「格好いい…かもしれません。別に秘密でもなんでもないですよ。冥土隊は、メイドを100年以上続けたベテランメイド長がやっとなれるぐらい大変なところですけど、わたくしたちメイドの中で花形なのですよ。いつかはわたくしも冥土隊の一員としてメイリさまを守りたいのです」


なんということでしょう。戦うメイドさんは公認だったようです。てかメイドさんでこの威力なら、戦うメイドさんはどれだけ…。いや、おれが弱いだけか。


……メイリさんって誰?


「メイリさまは、現在家出中の姫様です。貴方もメイリさまをお探しになるために喚ばれたのでしょう?」


姫さん、家出だったのか!なにこれ、勇者じゃない。おれが召喚された理由が分かった気がする。


「セリス君!アユム君は起きているかい!?」


「はい!ただいま!」


メイドさんが急に飛び上がった。びっくりするなあ。あれ?これは、この声は王さま?


「アユム君、緊急事態だ、わたしに着いてきてくれ」


「へ、ふ、はいっ」


び、びびび、びっくりするなあ!なんだ、なんだ?


天井が吹き抜けになっている広間に案内され、おれは眼を見開いた。

そこにいたのは、広間が埋まってしまうほど大きなドラゴンと、凛とした女性。


「こんにちは。わたしはメイリ・クリムゾン。貴方が探す筈だった、この国の姫よ」


「えええっ!」


姫だって?この人が…。だけど、納得できる。お転婆ながらも、どこか気品のある口調だった。服装は、きっとエルフらしく狩人の装備なのだろう。

でも、なんでこんな人が家出を?


「それは、ですね。婿探しですわ。お兄さまがわたしに『嫁なんかなれるわけがない』って言ったから。ね?お兄さま?」


「あ、あれは可愛い妹を嫁なんかにやれるかってことで…」


ロリコンな王子は貰ったドラゴンの鱗を後ろに隠して、しどろもどろ弁解を始めた。しかし、姫さんは聞きもしない。


「見つけましたの。ねえ、ダーリン」


ドラゴンが『グルル』と唸る。返事のつもりか。


「勇者さんはこの後お帰りになるのでしょう、お見送り致しますわ」


「あっはい」


そうだった。役目は…姫さんが帰ってきたからもう帰れるんだ。


不意に王さまが言った。


「あ、アユム君は帰らんのじゃろ?」


「えっ」


「えっ」


遠くで王さまが、時空の扉は閉めてしまったぞ?と不可能を告げていた。

(^o^)/オワタ

テンプレに沿わない話を書いてみたかっただけです。実に拙くて申し訳ないです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

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