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05 バレた?

久々の更新に……、すいません。

すごい不定期ですが、ゆっくり付き合って頂ければ。






 一枚の紙を見ながら彼女は憂鬱だった。



 彼女はクラスの係、委員会決めの時に眼鏡で真面目そう、という理由で学級委員長という面倒な雑用係を推薦された(と言えば聞こえは良いが実際には押し付けられた)ので、その仕事をするため生徒会室に向かっていた。


 生徒会長の所に今日の朝に決めた球技大会のメンバー表を渡しに行かなければならないのだ。担任の先生が行けばいいじゃん、と彼女は思わないでもなかったが。いや、彼女はまだそう思っているが行けと言われたので行くしかないのだ。ただの一生徒に反抗するだけの勇気はなく大人しく彼女は従った。


「憂鬱だなー」



 副学級委員長の森屋くんには決める際にまとめてもらったために逃げられたので彼女一人で行くことになった。


 昼休みを削って別の棟に移動するのも面倒だが、二つのお弁当を持って行くのも面倒。更には会長に喫茶店で顔を見られてしまっていたので更に彼女には面倒だった。


 はぁ。嫌だな、と彼女の口から零れるのは溜め息と愚痴だけ、だがどんなに憂鬱でも向かって歩けば必ずたどり着くのだ。


 人気のない場所で立ち止まった彼女の目の前には生徒会室とプレートが提げられたドアがある。



「やだなー」



 彼女はここまで来て躊躇っているとお腹がぐぅーと鳴った。躊躇う彼女に対してのお腹の虫の正直な叫びに失笑すると、しょうがない、と呟いてドアをノックした。


 はい、どうぞー、と言われたので遠慮なく彼女は入室する。



「球技大会のメンバー表かな?」


 部屋中央に置かれた長机の向こう側に座ってお弁当を食べながら一人プリントを見ていた会長が、だよね? と聞いてきた。バッチリ顔を見ながら話しているが彼女の事を覚えていなさそうだった。


 彼女がニヤッと笑いながらプリントを会長が座ってる机に置いて出ようとすると、あれ? ちょっと待って、と呼び止められてドアを開けた彼女の体がピタッと止まる。




「空欄があるけどここは誰が出場するの?」



 会長の言葉にバレないようにはぁ、と軽く安堵の溜め息を吐くとプリントを見せてもらう。二回戦のバスケットボールの欄に確かに空欄があった。


 球技大会へは生徒全員、強制参加なので一人最低二回はどれかの競技に出なくてはいけない。だがそれ以外で余った所は希望者でカバーするので空欄は普通ないはずなのだが。


 運動が嫌いな彼女は補欠に入るために根回しをして最低二回を下回る奇跡のドッチボールの補欠一回で球技大会を乗り越えようとしていた。当然彼女がズルした一回分も希望者を募ったので余りは無くしたのだが、なぜ空欄があるのだろう? 彼女はしきりに首を捻って空欄にいた人物を思い出そうとしている。


「ねぇ、六組の学級委員長。この子一回しか出ないよ?」


 首を捻っていた彼女の横で、あ、と何かに気づいた様子の会長が指を指したのは彼女の名前だった。げ、と思わず彼女は言ってしまった。


「この子空欄に入れてもいいよね? 委員長」


 仕事モードなのかいつもの爽やかさがない会長の目に彼女は怯んで、は、はい、と頷いてしまった。


 じゃあ書いとくね、と会長は言ったので彼女はこそこそと生徒会室から出ようとした。



「ねぇ、委員長」



 では、と言ってドアを閉めようとする前に呼び止められ、はい? と彼女は聞いてしまった。




「君に、何処かで会ったよね」




 確信を持ったような会長の言葉に彼女は、げ、と言う言葉を飲み込み曖昧に、さぁ? と答えて出ていった。








 逃げるように彼女は屋上へと向かって開いているドアを押す。



「ぅ、わー。バレた?」


 言ってなかったがこの学校はバイト禁止だ。彼女があせるのは無理ない。


「なーにがバレたの?」


「べ、別に何でもない」


「それ、下手なツンデレ?」


 彼女がドアの前でしゃがみ込んで頭を抱えていると上から彼の声がした。


「はぁ」


「何があったかは分からないけど、食べて忘れるのが一番じゃないかなー?」


「そうだね」


「ね、だから早く食べようよ。それ昨日約束した俺の弁当でしょ?」


 早く、と言わんばかりの様子にいたずら心が刺激されたのか彼女は、え? と不思議そうな声をあげた。


「君のじゃないよ」


「えぇ! マジ!? 俺、今日の昼飯持ってきてないよ」


 大袈裟に反応する彼は顔に手をあててさめざめと泣く真似する。彼女は満足したようで、あははと笑いながら大きな巾着からブルーの風呂敷のお弁当を差し出した。


「嘘だよ。君のだよ」


 彼女が、はい、とお弁当をぐいっと押し付けながら言ったら彼は、本当? と受け取りながら首を傾げて見てくる。く、私よりも可愛い仕草するなこいつ、と彼女は妬ましいような気持ちになりがらも、いいよ。そのために作ったんだし、と頷きハンカチを引くとその上に座り自分のお弁当を開いた。


 今日のメニューはハンバーグにタコさんウィンナー、きんぴらごぼうにブロッコリー、プチトマト、ご飯にはゆかりがかかっていて。デザートにはウサちゃんリンゴ。彼の要望に答えた彼女の手作り弁当だ。


「よし、ハンバーグにタコさんウィンナー!」


 幸せそうだな、と思いながら彼女もハンバーグをパクつく。満足な出来栄えのようか彼女も嬉しそうにした。




「はぁ、うまかったわー。ご馳走さまでした」


 満足げに息を吐く彼に彼女は、お粗末さまでした、と言ってお弁当を回収しようと手を伸ばす。


「え? いいよ、わざわざ作ってきてもらったんだし、明日洗って返すよ」


「……じゃあ、お願い」


 お弁当を掴んで言った彼に譲る気がないと分かった彼女は手を引いた。好意を無下には出来ない性格のようだ。





 そのままいつものように適当に過ごすために彼女は携帯を取り出す。


 彼とは昼休みによくここで一緒に過ごすが大抵会話はない。各自思い思いに過ごして彼女からはあまり干渉しない。彼は度々彼女のお弁当の中身を奪うが。


 画面を滑らせて出したのは日課になっている《椎茸パラダイス》の更新確認。他にも面白い作品はあるのだがついつい一番最初に開いてしまう。


 ちょうど今日の分が更新されたようでわくわくとページを開く。


 そう言えば今日は主人公の旅の従者に紛れ込んだ王子様のターンだった。幼馴染みじゃなかったのでちょっと残念に思ったが、まぁいいか、と読み進める。


 従者(王子様)は主人公とデートをして主人公に椎茸に似たきのこをプレゼントしていた。





 王子様、曰く


 ――君に似ていて愛らしい




「だけど、きのこはないっ」


 突っ込むしかなかった。いや、突っ込むべきだ、と言われているような気がした。


「は?」


 つい突っ込んでしまったが近くに彼がいたのを忘れていた。


「あ、ごめん。何でもない」


 何かあった? といった感じに枕から体を起こした(愛用の枕がないと寝れないらしい)彼にそう言って続きを読もうと手元に視線を落とした。


「何してんの?」


「え、あー小説読んでた」


 別に隠す理由はないのだがちょっと恥ずかしくなって簿かして伝える。


「へぇ。面白い? なんのジャンル?」


「面白くなかったら読まないと思うけど。……一応恋愛かな」


「まぁ、そうだよなー。でも意外、恋愛とか読まないと思ってた」


「面白いなら何でも読むよ」


「雑食なんだねー」


 それから彼は何を思ったのか枕を持ってきて彼女の隣で寝っ転がった。


 ちょっと嫌そうな顔をした彼女だったが、まぁ、いいか、と諦めてまたスマホに視線を落とした。



 いつの間にか彼女の憂鬱だった機嫌はいつも通りに戻っていて、またいつも通りにニヤニヤしながら小説を読んでいた。




 横にいた彼が彼女の様子を伺っていたと知らずに。


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