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03 屋上





 彼女は不機嫌だった。


 きっと原因はセットしておいた目覚ましが壊れていたからだった。


 朝の起きる時間に目覚ましが鳴らず彼女が起きた時にはもう時計の針は九時を指していて、慌てて仕度をしていると机の角に小指を打ち、急いで走って学校に向かったら交差点で自転車に跳ねられそうになり、教室にバタバタ走りながら入ったら学校の先生の中で一番怖い、生活指導の近藤先生の化学の授業中だった。




 そしてそんな日の昼休み。


 彼女は、時計を買って帰ろう、と思いながらピンク色の風呂敷に包まれたお弁当とお茶のペットボトルを持って屋上に向かっていた。


 食事中は静かに過ごすのが好きな彼女は必ず昼休みは屋上で一人で過ごしていた。


 彼女はいつものように、立ち入り禁止の立て看板がされている階段を通りロープを潜って屋上に続くドアの前にしゃがむ、ドアノブに手を当てて片手でブレザーのポケットを漁っているとドアノブが回った。


 彼女はポケットから手を出してドアノブを捻ってみる。ドアノブは素直に右に回りドアを開く、意外に思ってドアの下の方のもう一つの鍵を見るとそれもやっぱり開いていた。


 閉め忘れたっけ? と彼女は呟いて屋上に出ると誰も居なかった。やっぱり閉め忘れのようだ。彼女はいつもの定位置にハンカチを広げて座りお弁当を広げた。


 今日のお弁当はハムと卵とレタスを挟んだサンドイッチのようだ。


 彼女は、おぉ。サンドイッチだ、と嬉しそうな声を漏らして手をお絞りで拭くと、いただきます、と手を合わせて黙々と幸せそうに食べ始めた。ワサビマヨネーズが隠し味として少し入っているので辛味で食が進む。



 だから、きっと彼女は忘れていたのだ。


 今日は朝からあまり運の良い日ではないと。


 ひょいと横合いから手が伸びて彼女のお弁当のサンドイッチが取っていかれる。


「え?」


 彼女はサンドイッチが連れ去られた方向に顔を向ける。


「お、意外にスパイシーだな」


 そこにはうまそうにサンドイッチを食べる男子生徒がいた。


 彼女は彼の顔を見ると何処かで見たと頭の片隅が訴えた。


「うまいな、これ。誰作ったの? お前?」


「いや、母親だけど」


「マジか。お前の母親料理上手なんだな」


 うん。うまい、と言いながら彼は手にあったサンドイッチを食べ終えて彼女のお弁当からまたサンドイッチを取ろうとする。流石に見過ごせなかったのか彼女は彼の手をペチッと叩いた。


 いてっ! と叩かれた手をひいた彼は彼女を睨むが彼女も負けじと彼を睨み返した。


「あ、保健室だ」


「は?」


「え? あ、いや違う」


 彼の何処かに何かを刺激されたのか、彼女は彼を何処で見たのか思い出した。


 彼はよく怪我をして保健室に来る男子生徒だった。

 確かこの前、右腕を怪我していて保健室に来ていた。


 シイナ、と呟いていたっけと思い出し、そういえば高橋先生の下の名前は紫織だったな、と考えていたら彼が急に彼女に顔を近づけてきた。二人の距離は少しだけ縮まった。


「ってか、お前。ここ立ち入り禁止だけど」


 どうしているんだよ、といった様子で見ている。


「私はお昼食べるため。あなたは?」


「俺は昼寝だけど」


 彼が親指で後ろを指すので彼女も視線をそこに移すと、ドアの上の大きなタンクが二個設置してある脇に枕がおいてあった。枕がないと寝れないのかな、とかどうでもいい事を彼女は考えて始める。


「って、いや、違うし」


「え? 違うの」


「あぁ。どうやって入った?」


「は?」


 どうにも思っている内容が噛み合ってなかったみたいで彼女が、何の話? と聞いている。


「どうやって屋上の鍵開けたんだ、って話だ」


「これ」


 ちょっと苛立った雰囲気で彼が聞いた。彼女は、あぁ、と納得したように頷くとブレザーのポケットから屋上の鍵を取り出した。


「は? これ何処のだよ?」


「職員室の予備」


 ちょっと目を見開いて驚いているのだろう彼に彼女は聞いてみた。


「あなたは?」


「……これ」


 しぶしぶといった感じに彼がポケットから出したのは針金だった。



「ピッキングはいけないよ」


「……お前も同罪のような気がするんだけど」


 彼女が針金を見ながら言うと彼は少し肩をあげて横に視線をそらした。


「おー、青空が綺麗だなぁ」


「……わざとらし」


 そう彼女は呟くとひょいと彼が動いてお弁当にあった最後のサンドイッチが取っていかれた。


「もーらいっ!」


「あ」


 奪い返そうと手を伸ばしたが、すでにサンドイッチをくわえた彼を見て彼女の手は虚しく空を掴んだ。





 好物の分類に入るサンドイッチを取られた彼女は不貞腐れて携帯で星座占いを見ていた。


 最下位だと思っていた彼女の星座は十位を指していて彼女は、微妙、と呟いて画面を落とした。




 ――今思うと、一人の静かな昼休みに彼が入ってきた明日からの方が最下位だな、と彼女は納得している。


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