第2話 浮気男
愛情と憎しみって紙一重なのかな。
好きなのに。愛してるのに。
どうしてこんな気分になるんだろう…。
奈津が憎くて仕方ない。
ーーー
「髪切らねぇの?」
『伸ばしてるからいいの』
亜季はベッド上でぐったり。
ダルいし、眠いし、なんだかイラつく。
セックス後はいつもこんな気分になる。
ハッキリ言ってセックス自体好きじゃない。
そんなこととは知らない新山はなおもベタベタと亜紀の体を触る。
「兄貴に切ってもらうんじゃないの?」
今までは美容師の奈津に定期的に切ってもらっていた。
たわいない話をしながら奈津が亜季の髪を触る。
あの空間が好きだった。
奈津が好きだった。
もう戻れないあの空間が…。
『大人って最低だよね』
イラつきの矛先を新山に変える。
「まぁな」
『どうして好きでもない相手とセックスが出来るの?』
「俺は亜季を愛してるけど?」
『どうしてそんな簡単に嘘をつけるの?』
「俺は嘘つけないタイプだよ」
『奥さんを愛してる?』
「もちろん」
『じゃあどうして浮気なんてしてるの?』
「奥さんも亜季も二人とも愛してるから」
亜季の頬にキスをして新山はベッドから出ていく。
シャワー室に向かう彼を見ながら亜季は素早く新山のケータイを手に取った。
『…ばーか』
ケータイのロックナンバーは亜季の誕生日。
メール履歴を見ると奥さんの他にも怪しい女の人が数人。
『浮気相手が俺だけじゃないこと知ってるんだよ』
どうして新山は亜季と付き合っているのか。
本当に快楽だけが目当て?その他の感情って一切ない?
そうだとしたら男とはとことんくだらなく中身のない生き物だ。
『……』
悔しいが自分は新山に対して普通の教師以上の感情を持っている。
体を重ねてるのだから当たり前なのかもしれないと思ったりもしたが、こんな感情と戦っているのは亜季だけ。
新山の方は亜季に対して特別な感情を持ってはいない。これは確実。
会えばセックス。必ずセックス。
普通のデートはしたことがない。電話もメールも用事があるときにしかしない。
誕生日やクリスマスはスルー。
そのくせ会えば甘い態度や言葉で亜季を混乱させる。
優しいのに冷たい。
『俺って新山先生のこと好きなのかな』
自分の気持ちがわからない。
自分が好きなのは兄の奈津だ。
新山とは寂しさを誤魔化すために付き合った…。
ただそれだけのはずだったのに。
亜季は子供だから体を繋げたら心まで欲しくなっちゃうのかな。大人になれば新山みたいに割り切れる?
『悔しい…』
どこの女だかわからない“早くセンセイに会いたいな”のメールを勝手に削除した。
ハッキリとはわからないが、自分はこの女よりかは新山に愛されているはず。
ケータイのロックナンバーは亜季の誕生日だった。
初めてケータイを盗み見したときにロックがかかっていることに愕然としながらも新山の誕生日を入れてみた。
エラーが出たから、そんなわけないと思いながらも自分の誕生日を入れた。
それで開いた。
この女ではなく、他の女でも奥さんでもなく、ロックナンバーは亜季の誕生日だった。
『俺の誕生日だったんだ…』
きっと愛されている。
自分の立ち位置は奥さんの次くらい。
愛しているからセックスするんだ。
新山は亜季を愛している。
そう思い込もうとすることによって、自分は新山を完全に愛していることに気づいてしまった。
『奈津くんが好きなのに…』
‐奥さんも亜季も二人とも愛してるから‐
先ほどの新山の言葉が脳裏に甦る。
亜季も新山と同じ。
最低な浮気男。