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空を歩く幽霊  作者: swan
本編
9/14

知らなかった事



「ありがとう。じゃあ、先に村に帰ってて」


 下まで降りるとシオンは当たり前のようにアップルに手を振った。


「どうして? 怖いから?」


 驚いて訊ねるとシオンも不思議そうな顔をする。


「違うよ。戦闘は終わったから、アップルに運んでもらうわけにはいかないよ。今まで重かっただろ」

「でも、村まで結構遠いよ。一緒に飛んで帰ろう」

「アップルが無理する必要ない。大丈夫、ほら疲れてるだろう早く帰るんだ。疲れた身体でこんな所にいるなんて危ないだろ」


 シオンがそう言った後もアップルは動こうとしなかった。


「アップル?」


 アップルはただうつむいて首を振った。

 意図が読めずにシオンはアップルを見つめた。


 しばらく無言の時間が続きアップルが顔を上げる。


「わたしも歩く」



 シオンが答える前にアップルは歩き始めていた。

 アップルの考えや気持ちなどシオンに分かるはずもなくアップルの後を追うように歩き始めた。

 森の大木は村から6キロくらい離れた所にある。

 傾き始めていた日は一気に夜を招き入れた。


 何も話さず歩いていたが一時間くらい歩いた所でアップルの歩く速度が遅くなる。

 そして足が止まる。

 あと半分くらいの距離が残っていた。

 シオンもアップルにあわせて止まった。


「大丈夫か?」


 アップルは無言で頷く。

 どう見ても大丈夫ではなさそうだった。

 これではきっとアマガケの力も使うどころではないだろう。


「ほら」


 シオンに言われて振り返ったアップルは驚いて声を出した。


「何考えてる?」


 シオンはアップルに向けて背中を見せてしゃがんでいる。


「何っておんぶしてやるよ。疲れたんだろう?」

「遠慮する」

「お前なぁ、一日中俺抱えて飛んだんだからお互い様だろ」


 シオンは強引にアップルの腕を引き勝手に背負ってしまった。有無を言わさず歩き出す。


「シオン…」


 呆れた声にシオンは前を向いたまま呟いた。

 アップルには見えなかったが耳まで赤くなっている。


「それに女の子一人背負って歩けないなんて男が廃るだろ」


 瞬間、アップルはシオンの背中で誰が見てもそれと分かる満面の笑みを広げた。


「ありがとう…」






 結局、村に帰りついたのは日が完全に暮れて森の中へ出ていた大人たちが全て館に集まった後だった。


 背中にいたアップルはいつの間にか寝入っていた。

 アップルの父ジョゾはシオンも会ったことのある父の腹心だった。

 ジョゾに娘がいたなんて聞いてない。

 自分の情報の少なさに呆れながら背中からジョゾへアップルを預ける。


「お疲れさん」


 軽々とアップルを抱えると近くにあったソファにゆっくり降ろした。

 無骨な手には似合わず丁寧にアップルの顔の周りのスカーフやフードとローブを取り払っていく。


「やっぱり足りなかったか、母さん消毒を」


 寝ているアップルを起こさない程度の声でアップルの母、ルピナスを呼ぶ。

 シオンも一緒に近づいて覗き込んだ。


「あ」


 ローブで隠しきれていなかった目の周りが赤くはれていた。

 腕や首にも同じようなあとがある。まるで火傷のようだった。


 覗き込んでいたシオンに対して消毒をしながらアップルの母は言った。


「この子は夜の人だから太陽の光を浴びてはいけないのよ。能力者の中には突然変異のようにしてこんな子供が生まれるの。能力がある事に対しての反動かしらね…」


 痛々しいアップルに何とも言えなくなったシオンは、後ずさろうとしてジョゾにぶつかった。


「おい、シオン」


 声に自分より高い所にあるジョゾの顔を見ると、怖い顔でニヤリと笑う。


「うちの愛娘を収穫祭に誘ったって? 俺に断りなく?」


 その言葉にシオンはもとよりまわりにいた大人たちも集まってくる。

 注目を浴びてシオンは目を泳がせる。


「…誘ったけど、アップルは乗り気じゃないみたいだったし…」


 少し怖い雰囲気に小声で答える。


「だろ、無理矢理さそっちゃぁ、いけないよなぁ」


 ジョゾは嬉しそうに頷く。

 するとルピナスがアップルの髪を梳きながら笑った。


「何いってんの、初めて誘われちゃったから戸惑っただけよ。ジョゾ、行かせてあげましょう?」

「しかし…」

「だってこの子、どうしようかって言いながらも本当に嬉しそうだったわ。滅多に外に出たがらないのに」

「けどな…」


 急に誘われて嫌がっていたと思ったのに、アップルは行くつもりでいてくれたのか。

 シオンは思わず口元がにやけるのを感じた。

 直後にジョゾからにらまれて引き締めたけれども。


 アップルの事は両親が見るということでシオンは自室へ帰るように言われた。

 部屋のベットにたどり着いたところでシオンの記憶は途切れた。

 


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