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空を歩く幽霊  作者: swan
本編
4/14

眠る君


「なぁ、アップル。収穫祭は参加するのか?」

  

 シオンはアップルが外に出るたびに見つけては話をしていた。

 10分くらいの短い時間だけど、これがルネに言わせると密会なのだろう。最初の頃はあまり会えなかったが、最近はかなり短い間隔でアップルと会っていた。


「収穫祭か…もうそんな時期?」 


「そうだよ。今まで収穫祭に参加した事はある?」


 アップルは軽く首を横に振る。


「ごく小さい頃に一度だけ参加したけど、もう十年以上参加していない」


「どうして? 面白いのに」


 収穫祭の日は町を上げて酒を飲んだり豪勢な料理を振る舞い合うのだ。

 正装に身を包み昼から始まり朝まで踊り明かす。正式にダンスを申し込む事でカップルが生まれることも多い。その上、この日は子供も起きていても怒られない。


「…どうしてだろうな」


 他人事のように言うとアップルは来たばかりというのにもう立ち去る準備を始める。アップルの話の内容は学校の友人たちよりも面白くてすぐに過ぎてしまう。

 だからシオンはアップルと収穫祭の日だけでも長く話してみたかった。


「なぁ、アップル。収穫祭は一緒に参加しよう?」


 フードを頭にかけようとしていたアップルの手がぴたり止まる。


「なに…言って…」


「いいじゃん。折角、夜にある行事だしさ。俺、アップルと参加したいと思って」


「・・・」


 黙りこんだアップルに重ねて尋ねる。


「ダメ?」


「…か、考えておく」


 アップルはそう答えると小走りに外に飛び出していく。


「考えるんじゃなくて決まりな!」


 背中に向かって叫んだけど、アップルは何も答えずに居なくなってしまった。

 





 収穫祭をすぐそこに控えた村の様子は収穫祭の準備に追われて慌しい物になっていた。

 しかし、村の中心部である館では少し違う空気が漂っていた。


 昨日とは違う。 


 大人たちは口にしないが、収穫祭の準備ではない何かが村に起きる事を予感させるようなもの。

シオンは何が起きているのかを知る事が出来なかったが、外の喧騒とは違う異様さだった。ピリピリしている。


「シオン、こっちにおいで」


 広場とは反対にある個人所有の庭にいたシオンをルネは呼ぶ。


 声がしたほうを見ると兄がいつも資料を納める事に使っている古くて小さい小屋から手を振っていた。

 小屋に入ると、ルネの子供であるキフィとオリビアが分厚い本を読んでいた。


「…あれ、ルネは?」


「お父さんは二階だよ」


 オリビアがルネそっくりに、にっこり笑う。やさしい顔なのに芯がある、やっぱり親子だ。


「わかった」


「シオン兄、静かに行ってね」


 キフィの言葉に首をかしげながら、二階にゆっくり上がる。

 奥の部屋の扉が少しだけ開いていたのでそちらに入る。

 部屋は真っ暗になっていて、目が慣れるまでしばらく立ち尽くす。


「シオン、静かにね」


 ルネの穏やかな声が聞こえて闇になれた目でゆっくりとそちらに進む。

 確か、小さなベットが仮眠用においてあったはずだ。


「ルネ?」


 ルネはベットの脇でそのまま床へ座っていた。

 ベットには誰か寝ているようだ。シオンも座りながらベットに眠る人影をのぞき見る。上掛けの布団を完全にかぶっている。頭が見えるかどうかの状態。


「誰?」


「アップル」


「え?」


 まさかこんな所で聞くとは思っていなかった名前に思わず声が大きくなる。


「どうして…」


「静かに、部屋から出て話そうか?」


 愛おしそうにルネはアップルの頭を撫でる。


「やめろ」


 ルネの仕草に思わず反射的にアップルの頭からルネの手を払う。

 どうしてそんなことをしたのか自分で自分が分からずにシオンは戸惑って自分の手とルネを見る。

 ルネは怒るでもなく薄く笑うと立ち上がる。


「おいで」


 静かに部屋の外に出ると、ルネは少し疲れた様子でシオンの頭も撫でた。


「どうしてあいつがいるんだ?」


「昨日の夜、話をしてたら夜が明けてしまった。日が出ているうちには帰せないからうちで預かっているんだ。アップルもしばらく働き詰めで疲れていたし」


 ルネの言葉の中に確認したい事が沢山出てくる。


 話をしていたら? 疲れていた? 昨日の夜、シオンと会った後からアップルはここに居たのだろうか。


 昨日、アップルは疲れた様子をしていただろうか。

 自分は気付いてあげられなかった。


「シオン? アップルを日が暮れたら家まで送ってやってくれないか?」


「家まで?」 


「ああ、そんなに遠くないから。頼んだよ」


 ルネはそれだけ言うと階段を降りていこうとする。


「待ってよ、ルネはどうするんだ?」


「僕は…仕事の…準備があるからね。それにアップルも仲良しに送ってもらったほうがいいだろ?」


 軽く言うとそのまま本当に仕事に出て行ってしまった。

 沢山の仕事を抱えているルネを引き止めるわけにもいかずにため息を吐きながらシオンも一度一階に下りる。



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