正体を探ろう
シオンは幽霊の正体であるアップルの事を結局親友のフランクに言う事ができなかった。
自分でもどうしてかは分からないがアップルのことを人に漏らしてはいけない気がしたのだ。
シオンは部屋の窓からつい月を見上げるようになっていた。
アップルの言った広場は大きな館の前にある村の中心だった。
その館がシオンの家だ。
「何を期待してんだろ俺…」
アップルともう一度話してみたい。
シオンはいつの間にかそう思っていた。だから、毎晩のように真上に浮かぶ月を見つめてしまう。
満月の中に黒い影が現れる。それはどんどん大きくなりあるところで人影だとわかる。
「あれって…」
おもわず勢いよく窓を開ける。
広場に面して一番上に部屋をもらっていたことを感謝した。
「アップル!」
近所迷惑にならない程度、ましてや両親が起きない程度の声で彼を呼ぶ。
手を振っているシオンの声に気付いてアップルがゆっくりとシオンの元へ近づいてくる。
「シオン、一週間ぶり」
アップルはこの前よりも機嫌よく窓の外に立った。
「久しぶり。やっぱお前凄いなぁ」
地面がまるでそこにあるように地上から三階だての館の高さに立つアップルを尊敬の目で見てしまう。
「なぁ、俺の部屋に入らないか?」
次に会うのは広場になると思っていたシオンは準備していた言葉を口に出してみた。
「え…」
アップルは困ったようにシオンの顔を見る。
「どうかしたか?」
シオンはアップルを覗き込むようにして聞いた。
覗き見たアップルの顔は戸惑った様子で部屋に入ることを躊躇った。しかし、シオンはまったく気付かずに続ける。
「浮いてなくちゃいけない理由とかあるのか?」
「別にないけど…」
「じゃあいいじゃん」
シオンは部屋の外にいるアップルの腕を引く。仕方なさそうにアップルも部屋に入ってきた。
準備をしていた椅子にアップルを座らせる。
「冷たいヤツけど、飲むか?」
差し出されたハーブティをアップルは受け取った。
「ちょうど散歩をしてきて疲れていたんだ。ありがとう」
素直にお礼を言われてシオンは照れくさそうに笑った。
出されたハーブティを飲むアップルをよそにシオンはテーブルの上に会ったランプに火を灯した。
それまで暗かった部屋に温かい色合いが広がる。
「なぁ、これ見て」
ランプのすぐ横に古い書物を置くとアップルに見えるように傾けた。
「これは何?」
アップルはシオンを見上げる。
「うちに伝わる能力に関する文献。ここをみて」
見ていたページの中でも細かい部分を指し示す。
「ここにある“アマガケ”なんだろう?」
村の一族とは違う能力者の家系が国内外にはある。
使用する用途も能力も違う。しかし、安寧を求めてプレセハイドを目指す能力者の人々は多い。その中のひとつにアップルのように空を歩いたり駆けたりすることが出来る能力者がいるのを見つけ出したのだ。
じっと文献を眺めていたアップルはちらりとシオンの顔を見る。
「そう、わたしはアマガケだよ」
「楽しそうな能力だな」
「…そうだろうか」
嬉しくもなさそうに呟いてまたアップルはハーブティを口にする。
その様子がランプをはさんだ反対側にいたシオンの視線を誘う。この前は真っ暗で見えなかった顔がオレンジ色の中に浮かぶ。
シオンと一つしか違わないアップルの顔は整っているが年上と言うには幼いし中性的な雰囲気があった。
ぼんやり見つめていたシオンだが怪訝そうにアップルが自分を見ているのに気付いて目線をそらした。
「アップルはこんな夜中にどこにいってたんだ?」
沈黙が急に怖くなって尋ねる。
「散歩だよ。わたしはこの村の夜の住人だから」
「夜の住人って?」
意味深な言葉にアップルは笑った。
「そのままの意味。わたしは夜にしか外に出ないんだ」
「…夜だけ。やっぱ幽霊?」
首を振ると困ったようにシオンを見る。
「まぁ色んな事情があるんだ、わたしにはね」
はぐらかされたあとは当たり障りのないことを話して過ごした。そしてまた、アップルは不意に空を見上げて立ち上がった。
「もう行かなきゃいけない時間だ。話が出来てよかったよ、疲れも取れたし。じゃあ、また」
「あぁ、気をつけて帰れよ。オヤスミ」
アップルは振り返ると馬鹿にしたように笑った。
「わたしにとったら今からなんだけど。まぁ、お子様はオヤスミ」
そのままアップルは窓の外に自然な動作で出て行ってしまった。




