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空を歩く幽霊  作者: swan
その後
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憧れ


 たどり着いたのは、村の人々の畑がある一角だった。

 民家も少なく、畑仕事をした人々が休めるように設けられたベンチだった。村の若者の逢引に使用される場所だったが、今日は運よく誰もいない。


「アップル…落ち着いた?」

「うん…」


 しばらく歩いた事でアップルの涙も止める事ができたようだった。あのままあの場所に居たらジョゾに見つかって殺されていたに違いない。確実に。


「アップルは、俺のことをずっと前から知っていたって本当?」


 ルネが言っていた事から聞いてみた。また遠回しに聞いたらお互いに誤解しか生まない性格だから。

 アップルは少し窺うようにしてシオンを見る。その目の縁はまだ赤かった。


「うん…ずっと知ってた。ずっとずっと会いたかった」


 言葉を切ってアップルは繋いでいた手を強く握る。


「でも、子供だから会いにいけなかった。シオンは昼しか起きてないし、わたしは夜しか起きていられない。だからシオンの事をルネさんに沢山聞いた。フランツと喧嘩したり、意地を張ってご飯食べなかった事、それに勉強は出来なくても友達が凄く多い事…外を遊びまわる事、いっぱい」


 アップルは僅かに口元をほころばせた。


「わたしはシオンになりたかった。太陽みたいなシオンに。でもね、そんなことは無理だって知ってたから本物のシオンと話してみたかった」

「じゃあ、あの時外で出会ったことはすごい事?」


「うん。凄い事だった。初めて神様がいるんだって思った」


 冗談かと思ったがアップルは真剣に言っていた。


「シオンは私がルネさんといると幸せそうだって言ったよね?」


 真摯な質問にシオンも素直に答える。


「…本当のアップルって感じがしたんだ。俺じゃあんな顔させられない」


 どんなに好きでも幸せそうな顔をさせているのが自分でないなんてその場から逃げ出したくなった。

 アップルはしばらく無言で地面を眺めていたがゆっくりとシオンに向き直った。


「わたしは…シオンといると幸せだよ。去年シオンと出会ってわたしの世界が変わったんだ。全部ひっくり返ったんだよ?」

「全部?」

「初めて、明日がたのしみだと思ったんだ。そんな事思ったこと無かった。…でも、心配だったんだ」


 少し明るくなっていた声のトーンが下がる。


「心配ってなにが?」

「シオンがわたしを嫌いになる事が怖かった」


 シオンは驚いてアップルを見た。

 そんな事自分はこれまで少しも思ったこと無かったし、ましてや表情などに出るはずが無い。


「そんな事思わない」


 アップルは首を振る。


「違うの。わたしには唯一だから、シオンだけだから。

怖いって気付いてしまったらどうしようもなくなって…ルネさんに沢山相談した。

どうしたらシオンがわたしを嫌いにならないのか。一番シオンを知る人だから、そんな事無いって言ってくれたけど怖かった」


 恋人である自分に相談してくれたらいいのに。

 シオンはアップルの背中を撫でる。

 でも…それが出来なかったからルネに相談したのだ。


「良い様に見てもらいたくていっぱい取り繕ってた。そうしたら、シオンの前で上手く笑えなくなってきて…シオンを怒らせてしまった。私が悪い…」

「アップルは何も悪くないよ」


 震えるアップルの背中に自分の不甲斐無さを感じる。

 シオンは自分の気持ちだけでずっとアップルに触れてきた。

 勝手に嫉妬して怒ったりした。そんな自分の様子を感じていたアップルはきっとさらに動揺したはずだ。

 偵察の報告に来れないくらいに。


「俺が悪いんだよ。アップル、こっちを見て」


 また地面を見ていたアップルが目を向ける。


「アップルの事を俺も世界で一番好きだよ。最初のダンス覚えてる? あの時に俺の気持ちは決まったんだ。それから絶対変わることは無い」


 アップルは目を見開いて呟く。


「絶対?」

「そうだよ。信じられない? アップルが俺を唯一って言ったことを俺は信じる」


 精一杯笑顔を作るとアップルはおずおずと頷いた。


「信じる…シオンを信じる」


 お互い初めて安心して向き合って笑った。


 夜も大分更け始めた。

 シオンは明日の仕事の為に寝なくてはいけない。



 アップルと帰るために広場を歩きながらずっと気なっていた事を聞いてみた。



「…今更だけど、この前喧嘩する前にはルネはなんて話してたんだ?」


 アップルはちらりとシオンを見上げると背伸びをして耳打ちした。


『そんなにシオンの事が、好き?』


「なにそれ? ルネの奴…はめやがったな」


 そう呟きながらもシオンの顔には嬉しそうな笑みが浮かぶ。



 二人はしっかりと手を繋ぎこれからどんな起こる事に耐えるだろう。


 きっと全てを真剣に受け取りながら。


  


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