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空を歩く幽霊  作者: swan
その後
12/14

勝てない


「あ、シオン」


 アップルはシオンを見つけると慌ててルネの手から逃れてシオンへ駆け寄る。


「わざわざ、ありがとう。じゃあ、ルネさんまた今度」

「気をつけて、おやすみなさいアップル」


 にっこり笑うとアップルはシオンの手を引いて歩き始めた。

 前を歩くアップルの背中を見たあと気付かれないくらいゆっくりとルネを振り返った。

 ルネの顔も幸せそうに見えた。

 シオンの心は今や鉛のように重いというのに。


 広場でシオンから手渡された大きめの上着を受け取り袖を通していたアップルは、シオンの目線に不思議そうに顔を上げた。


 さっきまでとは違うすました顔…やはり自分の前だと違うのだ。


 シオンはアップルのニの腕を掴んだ。


「どうかしたの?」


 シオンの顔を見上げたアップルは大きく目を見開く。

 一瞬のうちにシオンに唇を奪われていた。目を硬く瞑る、しかしシオンの腕を握る力は強くなるばかりで開放してくれない。

 アップルの開いていた右手がシオンの頬に吸い込まれた。

 

―――――ぱんっ!!


 アップルはシオンをしばらく見つめて口を開く。シオンが何も言わないからだ。


「何で、こんな事するの?」


 シオンは責めるような目でアップルを見る。


「何で? 恋人だからだろ。それとも俺じゃ不足だった?」


 冷たくよく分からない事を言われてアップルは困惑する。


「不足って…? ねぇ、何なのこんなの嫌だ」


 精一杯答えるがシオンの顔がさらに険しくなっただけだった。


「それともルネのほうが良かった?」

「え…」


 アップルの困惑が更に大きくなる。


「な、何言ってるの?」 

「俺といるとつまらないだろ。ルネと一緒だと幸せそうだ」

「シオン、言ってる事がわかんないよ! なんで? なんでそんな事言うの」

「ルネのこと好きなんだろう。だからあんなに楽しそうなんだよな」


 アップルの顔が赤くなり怒りに満ちた顔でシオンを見る。


「わたしはそんな事思ってない。どうして信じてくれないの?」


 しばらく見つめあったが、シオンはただ冷たい目線でそれを受けるだけだった。


「…もう、いい」


 アップルはシオンから目線をそらすと踵を返した。

 空高く駆けていく姿をシオンは眺め重い足取りで部屋へ帰った。

 



 アップルが夜の散歩の後に姿を見せなくなった。

いつもなら夜にデートをするためにシオンの部屋を訪れていた。



 数日後の偵察報告の日。


「シオン、アップルが来ないのは病気だからなのか?」


 二人ともいつもの時間になっても現れない事で部屋に居たシオンの所にルネが入ってくる。正直ルネの顔もあまり見たくなかったが部屋に入ってきた。


「…知らない。最近会ってないし」

「会ってない?」


 意外そうにルネの眉が上がる。


「どうして? 喧嘩でもしたのか」

「…」


 シオンはルネの顔をまともに見れずに黙り込んだ。


「喧嘩なんだな…何か原因があるんだろう?」


 ルネに余裕で催促されてシオンの頭に血が上るのを感じた。


「余裕でいいよな。アップルは…ルネのことが好きなんだよ、知ってるんだろう?」


 怒りに任せて言った言葉にルネはシオンの予想に反してポカンと口を開けた。そういう演技なんだろう。


「何言ってるんだ?」

「事実だろ」


 シオンはその目でちゃんと二人が見つめあうところまで見たのだ。


「アップルは俺と付き合いたいんじゃなくてルネの側に居たいんだ。だから俺を利用してる」


 しばらく同じ姿勢で動きを止めていたルネは何度かまばたきをすると頭を抱えた。


「どうやったらそうなるんだ? そんな事は絶対無いよ」

「絶対? 俺、聞いたんだ二人が話しているところ」

「信じないんだな? そうやってちゃんと話を聞かなかった。だからアップルが怒ったんじゃないのか?」


 図星を指されてシオンは黙った。

 ルネは弟の事などお見通しなのだ。思案顔でゆっくり頷くと口を開く。


「アップルはシオンの事を好きだよ。憧れさえ持ってるんじゃないかな」


 疑心暗鬼のシオンは噛み付くように言った。


「どうしてそんなことが言えるんだよ?」

「事実だからだよ」


 ルネは勝手に空いていたシオンの前の椅子に座る。


「…シオンはいつからアップルの事を知っている?」


 誘導されるようで答えたくなかったが、ルネの無言の笑顔に堪えられなかった。こういった顔をしているときのほうがルネは怖いのだ。


「去年の秋」

「そうか…じゃあアップルはいつからお前の事知っているか考えた事あるか?」

「いつからって同じだろ、初めて会ったのが去年なんだから」

「本当にそう思う?」


 ルネは首を傾げる。


「じゃあ質問を変えよう。僕とアップルはいつから知り合いか知ってる?」


 反射的にシオンはルネを睨んでしまう。

 わざと気にしている所を突かれている。


「知らない。アップルが成人したくらい?」


 ルネは口元に笑みを浮かべて首を振る。


「アップルが10歳くらいから知ってるよ。外に出られないアップルの為に村の若者が夜に勉強を教えていたんだ。ほとんどが僕だったけど」


 もう5年以上もアップルの事を知っている、それが自分とルネの違い。

 何も言わないシオンにルネは続ける。


「アップルと沢山話したんだ。特に歳が近い弟のシオンのことを」

「俺?」

「そうだよ。アップルにとって沢山の友達と外で遊べて勉強しているシオンは憧れだった」

「…」

「アップルと沢山話してみなさい。お前が思っていること全て言ってみてもアップルは逃げないよ、絶対」

「絶対?」

「そうだ」


 自身有り気に頷くとルネはまたシオンの頭を髪がくしゃくしゃになるまで撫でる。


「今日は報告はいいからアップルと話なさい。アップルにそうきちんと伝えること」


 上手く見れなかったルネの顔を見るとしっかりと笑顔を作って自分を見る彼と目が合った。

 シオンは思う、この兄にはやっぱり勝てない。


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