疑念
アップルと出会ってからあっという間に時間が過ぎた。
冬を越え、シオンは15歳の成人になった。
シオンが成人になったからといって何か変わったことがあったわけではない。
アマゴイのように役に立つ能力ではないので、これまでと同じように村の畑を耕すのだ。
手先が器用であれば村の工業である細工師として働く事もできるが、そんな器用さは持ち合わせていなかった。
シオンとアップルは付き合うようになっていた。
初めのうちはあまり人目に付かないので知られる事は無かったが、小さな村で何かと行動がバレがちなシオンのせいで村人のほとんどが二人が付き合っていることを知っていた。
シオンはアップルがルネと近況報告の確認をする仕事に参加するようになった。
一緒に空を飛ぶわけには行かないので、報告をしに散歩から帰ってきたアップルと話をするのだ。
交際は親公認だし成人になったにもかかわらず、シオンはすっきりしないでいた。
こんな事で悩むなんて以前の自分なら笑っていただろう。
しかし、今、ルネとアップルの三人で話すようになり段々笑えない物に変わった。
その日もアップルはルネが資料置きに使用する館の裏の小さな家にいた。
シオンとルネと偵察報告をする。
アップルのもたらす変化を分析しルネが村の周辺への“ゲンワク”を強化する。
シオンは何か役に立てるものがあるわけではなかったが、村の仕事について勉強するつもりで成人してからは参加していた。
「それで、どうだった?」
報告作業が終わると大体雑談するようになっていた。
ルネの質問に今まで真剣に話していたアップルの顔が緩む。
凄く目がきらきらし始める。
「凄かった! ルネさんが言ってた通りに大きなパイ!」
「シオンも一緒に行ってきたのか?」
「そうなの、シオン少し食べただけでもう要らないなんて言うんだもん」
「そうだね。シオンは甘いものが苦手だからね」
ルネとアップルが掛け合いのようにテンポ良く話すのを横で見ながらシオンは頷くだけだ。
にこにこしながら話すアップルを見てシオンの心には暗いものが宿るのを感じた。
アップルは、本当は自分の事ではなくルネのことを好きなのではないか?
そんな事を考えるようになったのは最近のことではなかった。
アップルがここにいて話す時とシオンと二人でいる時の様子が全く違うのだ。
シオンに対してアップルの態度はいつも同じだった。
出会った時と同じ、少し大人びていておとなしい雰囲気。
二人だけでいる時それは普通の事で話が出来る事が凄く嬉しいものになる。
しかし、ルネがいるとシオンが取り残され、アップルは少しだけ上気した顔で楽しそうに話すのだ。自分といるときよりも安心感を持っていて楽しそうな顔を見るたびになんだか胸が疼く。
真実を知りたいが全てが自分が予測したものだった時、シオンはどうしたらいいのか分からない。
結局知る事が怖かったのだ。
「少し冷えるね、シオン。何か羽織る物を持ってきなさい。二人とも風邪をひいてはいけないからね」
「分かった」
いつもシオンがアップルを帰りに送る事になっていた。
確かに今日は少し冷え込んでいる。
館の自分の部屋へ二人分の上着を取りに行くと急いでアップルの元に戻った。あと少しのところで二人が小声で話している言葉が入ってくる。
「…好き?」
囁くように問いかけたルネの言葉に今まで見たこと無いくらい幸せそうにアップルは答える。
「もう、何で今更そんな事聞くの? …ずっと好きだよ」
「ありがとう。嬉しいよ」
嬉しそうに微笑みあう二人を見てシオンは立ちすくんでしまった。
もう少し遅く帰って来ればよかった。
そうすれば聞かなくて済んだかも知れないのに。
ルネは以前と同じように優しくアップルの頭を撫でる。
いつも自分が居ないところで二人は愛を囁きあっているのだろうか。