「信じてくれない理由」
俺は、まめなタイプじゃない。
飲みに行けばスマホは鞄の奥に入れっぱなしだし、誰かの家でそのまま寝ることもある。
「連絡しなきゃ」と思っても、酔って忘れる。
それくらい、大したことじゃないと思っていた。
でも、彼女は違った。
「昨日、どこにいたの?」
会うたびに聞かれる。
「友達んち。」
「誰?」
「会社のやつ。」
「写真は?」
「はぁ?なんで?」
尋問みたいだ、と俺は思っていた。
浮気なんてしていない。
それなのに疑われてるのが腹立たしかった。
「信用してないんだな。」
そう言うと、彼女は悲しそうに笑った。
「信用したいんだよ。」
意味が分からなかった。
信用するなら、黙って待てばいい。
俺はそう思っていた。
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ある日も、「飲みに行く」とだけ送って、朝まで帰らなかった。
スマホは充電が切れてた。
家に帰って充電すると、着信が二十件近く入っていた。
メッセージも何十件。
「大丈夫?」
「事故じゃないよね?」
「お願いだから返事して。」
最後の一通だけ、雰囲気が違った。
「誰といるの?」
俺はため息をついた。
疑ってるのか。
「寝てた。」
そう返すと、
「どこで?」
「友達んち。」
それ以上は面倒で返さなかった。
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数日後、彼女は静かに言った。
「浮気してる?」
「してない。」
即答だった。
「じゃあ、どうして連絡できないの?」
「忘れてた。」
「私が心配してないと思ってる?」
彼女はうつむいた。
「事故や事件に巻き込まれてたらどうしようって、ケガしてて連絡出来ないんだったらって、心配で何度も連絡して、何の返事も既読もなくて、心配し過ぎて…疲れちゃった。」
何の返事も出来なかった。
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そのまま別れ話になった。
「俺、浮気なんてしてないのになんで別れるの?」
納得できなかった。
彼女は首を横に振る。
「浮気しててもそうじゃなくても、それが理由じゃない。」
「じゃあ何?」
「あなたは、私がどれだけ不安で苦しんでても平気なんでしょ?」
「……。」
「もう私はあなたに何があっても、何もなくても、気にならない関係の人でいい。」
「ずっと苦しかった。」
言い返せなかった。
俺は悪いことなんて何もしてない。
そう思っていた。
彼女はずっと泣いていた。
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別れて半年。
久々に会う友人と酒を飲んでいると、その友人のスマホが鳴った。
「ごめん、嫁だわ。」
友人は笑いながら電話に出た。
「もう少し飲んでから帰る。終電前には帰るよ。」
「うん。ありがとう。」
たった三十秒。
電話を切った友人は何事もなかったように、またグラスを持った。
その姿を見て、気づいた。
まめに連絡を取り合うのは、監視なんかじゃない。
待っている相手を安心させるため。
俺は、「俺は何もしてないのに疑う彼女が悪い」と、そう思ってた。
でも、違った。
彼女は最初から俺が浮気してるって疑ってた訳じゃなかった。
安心させるような返事も連絡も一切しない俺が、俺を心配してずっと連絡してきてた彼女の気持ちを、変えさせていったんだ。
隣にいるのが辛くなるほど、俺が浮気してるのかもしれないと思うほど。
俺が苦しめて、傷つけた。
相手の気持ちに寄り添うことも、理解しようと努力することも俺には出来なかった。
しようともしなかった。
俺はずっと自分のことしか考えてこなかった。
俺と連絡がつかない夜に、彼女がちゃんと眠れていたのかも気にかけたことはなかった。
彼女が俺を信じてくれなかった理由は、俺だった。




