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「信じてくれない理由」

作者: ミオ
掲載日:2026/06/29

俺は、まめなタイプじゃない。


飲みに行けばスマホは鞄の奥に入れっぱなしだし、誰かの家でそのまま寝ることもある。


「連絡しなきゃ」と思っても、酔って忘れる。


それくらい、大したことじゃないと思っていた。


でも、彼女は違った。


「昨日、どこにいたの?」


会うたびに聞かれる。


「友達んち。」


「誰?」


「会社のやつ。」


「写真は?」


「はぁ?なんで?」


尋問みたいだ、と俺は思っていた。


浮気なんてしていない。


それなのに疑われてるのが腹立たしかった。


「信用してないんだな。」


そう言うと、彼女は悲しそうに笑った。


「信用したいんだよ。」


意味が分からなかった。


信用するなら、黙って待てばいい。


俺はそう思っていた。



---


ある日も、「飲みに行く」とだけ送って、朝まで帰らなかった。


スマホは充電が切れてた。


家に帰って充電すると、着信が二十件近く入っていた。


メッセージも何十件。


「大丈夫?」


「事故じゃないよね?」


「お願いだから返事して。」


最後の一通だけ、雰囲気が違った。


「誰といるの?」


俺はため息をついた。


疑ってるのか。


「寝てた。」


そう返すと、


「どこで?」


「友達んち。」


それ以上は面倒で返さなかった。



---


数日後、彼女は静かに言った。


「浮気してる?」


「してない。」


即答だった。


「じゃあ、どうして連絡できないの?」


「忘れてた。」


「私が心配してないと思ってる?」


彼女はうつむいた。


「事故や事件に巻き込まれてたらどうしようって、ケガしてて連絡出来ないんだったらって、心配で何度も連絡して、何の返事も既読もなくて、心配し過ぎて…疲れちゃった。」


何の返事も出来なかった。



---


そのまま別れ話になった。


「俺、浮気なんてしてないのになんで別れるの?」


納得できなかった。


彼女は首を横に振る。


「浮気しててもそうじゃなくても、それが理由じゃない。」


「じゃあ何?」


「あなたは、私がどれだけ不安で苦しんでても平気なんでしょ?」


「……。」


「もう私はあなたに何があっても、何もなくても、気にならない関係の人でいい。」


「ずっと苦しかった。」


言い返せなかった。


俺は悪いことなんて何もしてない。


そう思っていた。


彼女はずっと泣いていた。


---


別れて半年。


久々に会う友人と酒を飲んでいると、その友人のスマホが鳴った。


「ごめん、嫁だわ。」


友人は笑いながら電話に出た。


「もう少し飲んでから帰る。終電前には帰るよ。」


「うん。ありがとう。」


たった三十秒。


電話を切った友人は何事もなかったように、またグラスを持った。


その姿を見て、気づいた。


まめに連絡を取り合うのは、監視なんかじゃない。


待っている相手を安心させるため。


俺は、「俺は何もしてないのに疑う彼女が悪い」と、そう思ってた。


でも、違った。


彼女は最初から俺が浮気してるって疑ってた訳じゃなかった。


安心させるような返事も連絡も一切しない俺が、俺を心配してずっと連絡してきてた彼女の気持ちを、変えさせていったんだ。


隣にいるのが辛くなるほど、俺が浮気してるのかもしれないと思うほど。


俺が苦しめて、傷つけた。


相手の気持ちに寄り添うことも、理解しようと努力することも俺には出来なかった。


しようともしなかった。


俺はずっと自分のことしか考えてこなかった。


俺と連絡がつかない夜に、彼女がちゃんと眠れていたのかも気にかけたことはなかった。


彼女が俺を信じてくれなかった理由は、俺だった。

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