俺の肉は美味しくないぞ!
「ここが、死の森か……確かにそう呼称されるだけある」
目の前に広がる『死の森』は、見上げる程広大で、仄暗くて先が全く見えない。カラスのような鳴き声がこの森の不気味さが増していく気がした。さっきの威勢の良さがなくなっていき、期待よりも恐怖が勝っていく。
いくら魔族が好きとはいえ、死にたい訳ではない。少なくともエルフ女王の傍にいるよりはマシだ。一週間経った時には鬱になっていくだろう。
勇気を出して目の前の道へ進む。慎重に辺りを見回しながら確認していく。不気味さ以外は至って普通で、木々も多くなんなら花すら咲いている。土壌環境は悪くないのだろうと、専門家でもないのに勝手に納得していた。
微かに水の音が聞こえる、ここまで一度も水分補給をしていないので喉が渇いていた。
早歩きで水場の方へ向かって歩んでいく。さっきまで慎重に行動していたが、水の欲しさに周囲の確認を怠っていた。そして目の前に水場が見える。
「やっと着いた!! 水が飲める! えっ……嘘だろ。川の色がブルーベリーのように、いかにも毒がありますってアピールしてやがる…。所々水泡がぷくぷくしてるじゃん……これ飲めるの?」
清らかで綺麗な川ではなく、見てわかるくらいに毒々しい色合いと、水とは言えないほどに粘度が高いのが直ぐに分かる。どうしようと悩んでいたが自分には、鑑定スキルがあることに気づいた。
「そうだ! こういう時に、俺の鑑定スキルが使えるかもしれない。回数上限は分からないけど、今は使う時だな。鑑定!」
【鑑定結果:水】
【詳細:粘度の高い極めて珍しい水】
「うっ……そだろ!?これ飲めるんだ……。まぁ、魔族もこれを飲んでいる可能性も十分にあるし不思議ではないか」
さすが、死の森といわれるだけある。水も普通ではない良い意味で。手で掬い水を飲んでみるが、口内がドロッとした感触した以外は普通の水で無味であった。ただ、一気に飲み込もうとすると粘度が高すぎて喉が詰まりそうになる。
水を味わっていると、背後から足音が聞こえる。動物というよりも二足歩行の人間ぽい足音だ。徐々にそれは大きくなり近づいてくる。足音は人間とは言えないほど大きく象かそれ以上の大きさだ。木々をかき分けて正体が現る。
「なんだ見ない顔だな? 新入りか?」
体色は濃い緑で背丈は5メートルはあるだろうか。かなり大きく一番目立つのは大きな一つ目である。顔のほとんどが目と変わらない大きさで、右手には赤く染まった棍棒を握っていた。目が付きそうなほど、強面の顔でじぃーっと見つめてくる。さすがに怖すぎて、腰が抜けそうだった。
「はい........。今日から、この森でお世話になります」
礼儀正しくお辞儀をする。ファーストコミュニケーションは大事ってどっかの心理学にあった気がする。
「そうかそうか。こりゃー良い事を思いついた」
ご機嫌がいいのか、ニヤニヤと棍棒を何度も自身の手のひらにベシベシと叩きつける。あの大きな棍棒で、俺は潰されると思うと絶望的な気分になった。巨体はそのまま俺をひょいと軽く持ち上げる。握りつぶされるかと思ったら意外にも手付きは優しい。運ばれた先は、表面が不自然なほど平らな大きな岩の上だった。まるで……そう、巨大な調理台だ。
「ちょっと待ってろよ」
巨体の彼は、そう言うと森の奥へ消えていく何かを持ってくるのだろうか。少しすると香りの強いハーブらしきものや玉ねぎを抱えて持ってきた。そしてそれを俺の隣に丁寧に置く。俺は今から殺されると思い最後に鑑定をする。
【鑑定結果:サイクロプス 名:グランデ】
【魅力:料理が得意】
【詳細:お気に入りの棍棒を使って料理をする。最近は、ハンバーグ作りに挑戦している。】
(あっ……終わった。今日は本当に命日だわ。さようなら俺の人生。出来れば一度でバシッと意識飛ばして欲しい……。でも、死にたくない……。まだ。会えてない魔族がいっぱいる。)
冷汗と共に全身のガタガタが止まらない。逃げようと思っても、一歩が違いすぎて直ぐに捕まるだろう。鑑定してしまったが故に、更に恐怖が増していった。牛さん豚さんに同情したのはこれが初めてだ。
これが食物連鎖なのかと納得してしまった。でも、俺以外にも肉はあるはずなのでなんとかしたい。せめて食べられるのならアラクネやヴァンパイアがいい。絶対。
「あっ……あの、もし俺を食べるのなら止めた方がいいですよ? お腹も下すし、吐き気も止まりません。下痢も一週間は続くと思います!」
「ガハッハッハッハッ!!! お前食べられると思ったのか? 俺にはそんな野蛮な趣味はない。それに、お前は細すぎて肉にもならないな。しかし、お前の肉にそんな毒作用があるのなら色々試したいな」
「すいません! 生きる為の嘘です! ごく普通の雑食肉です。」
「冗談だぞ」
安堵が全身を駆け抜ける。腰が抜けて地面に座り込んでしまった。
「ちなみに……。その棍棒って実は、お肉を叩いて柔らかくする為の『ミートハンマー』かな? 棍棒に付いている真っ赤なシミは叩いた時についたもの?」
「……っ!?なっ……何故それを知っている!? 最近、いつも言われるんだよ……。また誰かを殺めたのかって。違うんだよ……。ミートハンマーとして使うからどうしても赤くなってしまうのに……」
大きな手で顔を隠して、もじもじしている。先ほどとは違い乙女のような仕草である。可愛い。ついうっかり喋ってしまった事を悔やむが、嘘ついてもいずれバレるから話すことにした。
「あっ……。じっ実は……。相手の得意な事とか、魅力が分かるスキルを持っているんです。それで、あなたの料理への情熱が棍棒から伝わりましたよ」
ニヤッと微笑みを浮かべる。
「随分と便利なスキルだな。うっ……やっ……やっと俺に理解者ができて嬉しいぞ。俺の名前はグランデだ。よろしくな」
地面に大粒の涙が滴り落ちて、俺の服がビショビショになる。涙を拭いながら笑顔を俺に浮かべ、手を差し出してきた。
「俺はたつきだ。今後ともよろしく!」
「よし! 案内したいところがあるからこっちにこい」
グランデの人差し指を握って握手を交わしたのちに、グランデに背中を摘ままれ肩に置かれた。てっきり隣で仲良く歩くのかと思ったが、違ったようだ。どこに行くのか分からないが、サイクロプスが良い奴でよかった。安堵して肩に座り込む。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
次で、グランデが自分の家に招待します!どんなおもてなしをするのでしょうか!お楽しみに。




