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アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする  作者: 音塚雪見
第七章

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雨森紗英の苦悩

 雨森紗英はベッドに転がって瞼を閉じた。

 眉間に刻まれた深い皺が、彼女を襲う迷いの大きさを語っているようだ。



 CRYSTAΛが天喰伽藍に負けたあの日。

 審査員によって「夜凪ゆき」が暴かれた日。

 あれから霜月絢華は姿を見せず、連絡を取ろうとしても、既読の文字が付くことはなかった。



 もちろん紗英は心配した。

 心配して、絢華に何があったのか調べた。



 ──調べて、彼女の身に何が起きたかを知って、自分の手にはとても収まりきらない事態なのだと痛感した。



 夜凪ゆきにAPEXIA。

 二つの要素が揃っていれば、夜凪ゆいの存在と──初代APEXIAの存在に行きつくのは容易い。

 初代APEXIAのメンバーには三ヶ嶋綾乃という女性もおり、三ヶ嶋の苗字が共通することからも判るとおり、彼女は花凛の母親だった。



 なんとか三ヶ嶋綾乃に事情を訊こうとしたが、初めは取りつく島もなく、家に上がるどころか、娘ともども門前払いを受けた。

 締め出されてしまった以上、花凛は帰る場所を失い、紗英の部屋に居候させたりもしたのだが──その話は主軸から逸れるので、後にしよう。



 しかし彼女らは折れることなく、何度も何度も閉ざされた家を訪問し、その根気強さに負けたのか、三顧の礼ではないが、三ヶ嶋綾乃はため息をつきながら、胡乱げな瞳で問いかけてきた。



 いったい何が訊きたいんだと。



 そこで紗英たちは話した。

 今まで自分たちが霜月絢華という女性に指導を受けていたこと。

 大会で負けた際、審査員に夜凪ゆきと呼ばれ、それきり姿を現さないこと。



 紗英の言葉を聞いた綾乃は、すべてを理解したように天を仰ぐと、今までの強硬な態度が嘘かのように、するりと、簡単に彼女らを家に上げた。



 そうして、すべてを説明してくれた。

 文字どおりすべてを。

 霜月絢華の才能を。

 才能に焼き尽くされた周囲を。

 取り零したものに耐えられなくなった悲劇を。



「……それだったら、どうして私たちの指導なんてしてくれたんでしょう」

「そうねえ──」



 絢華がCRYSTAΛの指導をしていたのは、時間の経過によってトラウマが僅かに軽減されたのもあるが──より大きいのは、おそらく、強引とすら呼べる彼女らの積極性だったのではないだろうか。



 あるいは、周りを焼き尽くす嵐ではなく、むしろ嵐夜のなか船を導く灯台のように、アイドルたちを育てたかったのではないか。どんな形にせよ、絢華に刻まれたアイドルに対する憧憬は、決して消えないものだから。



 と綾乃は語った。



「一度失敗した人間は、挑戦することを極端に恐れるものよ。私みたいにね。絢華ちゃんほどの天才が、人生で一度も経験したのことのない挫折に直面したとき、どれだけの絶望に見舞われるかなんて、私みたいな凡人には予想も付かないけれど」



 なんて彼女は苦笑していたが、曲がりなりにもトップアイドルだった三ヶ嶋綾乃が凡人だなどと、方々から石を投げられても文句を言えない自己分析に、思わず紗英は微妙な反応を示した。



 さて。

 以上の経緯で霜月絢華の事情を把握した雨森紗英だったが、事情を把握してしまったからこそ、彼女に根を張る絶望の深さを知り、とても自分には解決できないことであると悟ってしまったのだ。



「でも……このままお別れなんて、できない」



 紗英は瞼を開く。

 瞳に宿るは強い意思。

 闇を照らす──迷える人々に希望を与えるような、アイドルに相応しい光であった。



 自分には解決できない。

 しかしそれは、自分には何もできないとイコールにはならない。



 自分一人の掌に収まらないのであれば二人で。

 それでも駄目なら三人で。

 それでも駄目なら四人で。

 重たい荷物はみんなで担げばいいのだ。

 だって、アイドルなのだから。



「よし」



 紗英はベッドから跳ね起きると、即座にスマホを手に取って、何事か連絡を打ち込んでいく。



「絢華さん──」



 私は貴女に助けられました。

 だから今度は私が助ける番です。



 人が誰かを助けるだなんて傲慢で横暴で嫌われる物言いかもしれないけれど、去り際に見たあの人の横顔が、悲しげに寄せられた眉が、何かを呟こうとして引き締められた唇が、瞼の裏に焼き付いて離れない。



 私がアイドルを目指したのは、もしかすると、今この時のためかもしれない。



 雨森紗英は本気でそう思った。

 本気で霜月絢華を助けるため、行動を開始した。



     ◇



「──で」



 雨森紗英の部屋。

 一般的な家庭の一般的なマイルーム。

 ごくごく普通の六畳間にて。



 およそ六畳間に収めるべきでない人数に圧迫された部屋を眺めながら、辟易したように、贄田実千は腕を組んだ。



「私たちで絢華さんを助けようって?」

「うん。なんとかしたいと思ったんだ」

「たかだか高校生にできる事なんてないと思うけど」

「たかだか高校生なんかじゃないよ。だって私たちは、アイドルなんだから」

「アイドルねえ──」



 まあ、そうだ。

 曲がりなりにも。

 口が裂けても、アイドルじゃないとは言えない。



 けれども。



「アイドルだから絢華さんを助けられるって?」

「絢華さんを助けたいの。理由なんてどうでもいい。動く言い訳が欲しいなら色々と考えるから、協力してほしいの」



 紗英は眦を引き締めた。

 頭を下げようとして、



「何それ。なんで紗英がお願いするの」

「実千──」

「勘違いしないでよね。絢華さんをなんとかしたいと思ってるのはアンタだけじゃない。私たち全員、あの人に恩義を感じてるんだから。紗英にお願いされたから協力した、なんて勘違いされたくないわ」



 言い方こそぶっきらぼうなものだったが、そこに込められた思いは、確かな熱量を持って、紗英の鼓膜を震わせた。



 部屋にぎゅうぎゅうになったCRYSTAΛのメンバーたち──蜂谷亜咲、東恩納映莉子、また現在は違うグループであるが三ヶ嶋花凛と、椎谷結愛、それに加えて天喰伽藍も強い眼差しである。



 ここに居る全員が同じ思いを共有している。

 ある種の感動が胸に去来して、紗英は瞳を潤ませた。



「ちょっと、このタイミングで泣かないでよね」

「ご、ごめん……」

「はあ──とにかく、何か作戦を立てたんでしょ? 私たちを呼びつけたくらいなんだから、成功する見込みが高いんでしょうね」

「どうだろ」



 絶対の自信はなかった。

 紗英は躊躇するように目を逸らす。



「とりあえず教えなさい。聞いてから考えるわ」

「えっとね、その──」

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