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アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする  作者: 音塚雪見
第四章

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やっべ困った適当言ったろ

 伽藍のライブが終わってから一時間が経過しても、彼女の影響は会場にこびりついていた。

 彼女の後にパフォーマンスをする者の精彩に欠ける動き。

 間違いなく天喰伽藍の幻影に囚われているのだろう挙動を眺めていると、紗英は哀れな気持ちになった。



 まあ、次にああなるのは紗英たちなのだが。



 四番目のグループがステージから降り、自らの拙さを確信したのだろう、途端に泣き出してしまう。

 よくあることだ。

 這般の仕草は自分の能力をすべて出し切れなかった人間にありがちで、伽藍の後に続いた者は皆同じ末路を辿っていた。



「じゃあ、CRYSTAΛの皆さん。ステージに上がってください」



 舞台袖でマイクを握った審査員が言う。

 ずいぶん無感動な対応だが、おそらく彼は伽藍の勝利を疑っていないのだろう。



 発表順が最初のほうになると印象が薄くなるから不利だと云われているが、伽藍の場合はその逆で、圧倒的な印象によって他の参加者を塗りつぶしてしまった。



 黒の絵の具を溶かした水はそれ以外の色に変化しないように、審査員の心には黒だけが残っているのだ。



 紗英たちは視線だけで会話する。

 普段の自信ありげなものでなく、弱気な。



 ここで負けたら終わり。

 伽藍さんのライブを観るまでは自信があった。

 散々練習してきたから。

 血の滲む努力があれば、肉迫くらいはできるだろうと。



 でも、あれは駄目だ。

 積んでいるエンジンが違うというか、とにかく、能力の差が大きすぎる。



 例えるならレベル一の農民とレベル百の勇者。

 背伸びをしても腰にすら頭が届かず、大剣を振るっても棒きれのように扱われ、まかり間違っても勝利の可能性がない。

 絢華さんであればあるいは勝ち得るかもしれないけど、とても私たち程度では満足に戦えないだろう。



 紗英は唇を噛みしめるほど悔しさを覚えた。



     ◇



 なーんか空気が重たいんだよなぁ。

 テスト中に誰かのカンニングが発覚した教室みたいな、身じろぎ一つすら許されないような雰囲気。

 要するに、ほとんど無関係の俺は居心地が悪くて仕方なかった。



 アイドルの大会の温度感とか知らないけどさ、普通こんなに重苦しいもんなん?

 なんかこう、キラキラーとかふわふわーみたいな感じじゃなくて???

 こんなんじゃまるで医師国家試験じゃないか!!



 俺は会場から逃げ出したくて堪らなかった。

 現在地点は入り口横の壁際だから、たぶん誰にもバレずに外には出られるだろう。

 出られるだろうけど、CRYSTAΛの六人の雄姿を見ずにドロンってのも、どうにも認めがたい。



 紗英たちの元へ足を運ぶ。

 彼女らは陰鬱に黙り込んでいた。

 一様に床を眺めて、強盗のあった宝石店のある通りにたむろする野次馬みたいだ。



「……絢華さん」

「どうしてそんなに言葉を控えているの」

「伽藍さんのライブが凄くて、もう、勝てないって」



 ああ、伽藍ね。確かに凄かった。

 よく分かんないけど、真っ暗なところからピカーってなってグアーってなってバチコーンだもんな(適当)。



 それにしたってCRYSTAΛもなかなか凄いのに、どうして勝利を諦めて絶望しているのだろうか。



「勝てない? ずいぶんと自分たちを卑下するのね」

「あのパフォーマンスを見れば誰だってそうなりますよ」



 紗英はいつもの元気オーラも翳り、ジメジメした部屋の隅で自生する謎のキノコみたいな雰囲気に陥ってしまった。

 実千に視線を移せば、彼女も彼女で表情が暗い。中学生になってサンタクロースが居ないことを知ったみたいな絶望感。

 およそアイドルらしい輝きは見えない。



 なんとか彼女らを励ませないかと頭を捻るも、そもそもなぜ悲観しすぎているのかが判らないから、鼓舞のしようもない。



 俺は「ふぅん」と呟き、伽藍の元に移動した。



「凄い評価ね」

「フッ……霜月絢華か……」



 意味ありげに目を瞑っていた伽藍。

 彼女は包帯の巻かれた左手をそっとなぞると、



「まさか、この空気のなか我に話しかけてくるとは思わなかったぞ……胆力があると言えばいいのか、空気が読めないと言えばいいのか……」

「じれったい展開は好きじゃないの。最短最速で解決できる手段があるなら、迷わずそれを選ぶわ」

「ふふ……勇者、あるいは魔王であれば許されない指針だが、我は嫌いではないぞ……」



 伽藍は露悪的に口の端を歪める。

 会場中から視線が集まるのを感じるけど、恥ずかしいから壁とか見ててくれないだろうか。いやん。



「貴女のことだから知ってるかもしれないけど」

「──CRYSTAΛのことか?」

「ええ。彼女らは凄いわよ」

「具体的には?」


 

 ええ?

 突っ込まれるとは思っていなかった。

 親戚の子供を自慢するくらいの軽い気持ちで「凄いっすよ」と言いにきただけなのに、具体的にどこが凄いのか説明しろと言われても。



 俺はどうにも困ってしまって、紗英たちを見やる。

 彼女らは涙に濡れた双眸をこちらに向けていた。

 とても「適当言いました」なんて口にできる空気ではない。



 だから俺は進退窮まって、もうどうにでもなーれと大言壮語に打って出た。



「──CRYSTAΛは天喰伽藍に匹敵するわ」

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