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アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする  作者: 音塚雪見
第四章

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アイドルの甲子園

 トップアイドルになるには。

 他の誰よりも目立たなければならない。



 トップアイドルになるには。

 数多の卵を踏みつぶし、自らが頂点に立たなければならない。



 トップアイドルになるには。

 ──その大会で、優勝しなければならない。



 と謳われるイベントがあるみたいだ。

 俺は六人に詰め寄られながら、夢と希望に満ち溢れていそうなアイドルも難しいんだなぁ、と馬鹿みたいなことを考えていた。



「お願いします、絢華さん」

「私たちを鍛えてください」



 紗英と実千に詰め寄られる。

 鼻先に髪が香り、傍から見たら少々怪しい光景が爆誕。

 彼女らの額を押して距離を取ると、俺は首を傾げた。



「その──アイドルの甲子園と呼ばれる大会が開催されるのは理解したわ。歴代の優勝者が皆トップアイドルになったこともね」

「じゃあ……!」

「でも分からないのは、どうして六人も揃っているのかしら。二つのチームで参加するのなら、貴女たちは敵同士になるでしょう」



 CRYSTAΛとASTRA//CODE。

 確かに最近の彼女らは仲が良いが、別々のグループであることに変わりはない。



 つまりその大会で戦うことになるのだから、個別にお願いをするならともかく、一緒に頭を下げに来てしまったら、相手に情報を与えることになるのではないだろうか。



 そんな俺の疑問に答えるためか、花凛が一歩前に出た。



「……実は、去年の優勝者が問題を起こした」

「問題?」

「たった一人で大会に参加し、優勝を搔っ攫った」

「それは──」



 ずいぶんと凄まじいものだな。

 心の中でひとりごちる。



 アイドルが単独ではなく複数人で活動するのは、その目的に差はあれど、おおまかには「ファンを取り零さないため」に収斂される。



 ライトノベルなどで多くのヒロインが登場するのと同じ理屈で、読者の好みは千差万別だから、もしヒロインが一人だけだった場合、その人物像が刺さらなかったら、それだけで〝作品が合わない〟と結論付けられてしまう。



 要するにメンバーを増やすのはある意味の保険であり、また歌を得意にする者や踊りを得意にする者みたいに、武器を複数持てるのが利点でもあるのだ。



 にもかかわらず独りで大会に出場し、あまつさえ優勝してしまうとは。

 問題児と言えば聞こえは悪いが、確かな実力──それも他を圧倒する鮮烈な力がなければ、決して成し遂げられなかった偉業だろう。



「今年から出場するチームは五人以上でなければならない、という規則が追加された」

「だから私たちCRYSTAΛと」

「ASTRA//CODEは」

「同じチームとして出場することにしたんです」



 花凛と紗英が代わる代わるに言った。

 ずいぶんと連携の取れた動きだ。夏休みの合宿が絆を深めさせたのだろうか。



 俺はついに壁際まで追い詰められ、白旗を挙げるように両腕を上げた。



「分かったわ。貴女たちを指導するから……とりあえず離れてちょうだい」



     ◇



 CRYSTAΛの四人とASTRA//CODEの二人、計六人で全国高校生アイドル選手権大会──通称アイドルの甲子園に出場することが決定したわけだが、両者ともにチームの名前を背負っているせいで、どちらの名称でエントリーするか揉めたらしい。



「絶対にCRYSTAΛ……!」

「センスがない。ASTRA//CODEの洗練された美しさが理解できない?」

「何を……!」

「やる……?」



 実千と花凛が睨みあう。

 すわ戦争勃発か、と誰もが固唾を呑んだ瞬間。

 天啓もとい映莉子の提案が空気を和らげた。



「じゃんけんで決めればいいですわ」

「そんな運に任せるなんて……」

「議論じゃ白熱しすぎて終わりませんわ」

「それは……そう……」

「じゃんけんの勝敗は運命だと思って、潔く決めましょう」



 そして二人が雌雄を決した結果。

 六人のグループ名は、CRYSTAΛに定まったらしい。



「なかなか大変だったのね」

「ええ……大会に出場する以前に、内乱で頓挫するかと思いました……」



 数時間のダンスレッスンにへばって、大の字で以て床に転がる紗英が、首筋に浮かぶ汗を拭いながら嘆息した。



 アイドルの甲子園は一週間後に迫っている。

 いまさら実力を大きく上げることはできないが、僅かな成長すらも見逃せないと、彼女らは気の狂ったみたいに練習に明け暮れていた。 



 指導してる俺が言うのもなんだが、よくもまあこの密度の練習に付いてこられるな。普通だったら初日で心が折れて、次の日からは姿を消すぞ。



「そろそろ休んだほうがいいんじゃないかしら。血の滲む努力、と言えば響きはいいけど、要するに身体を酷使しているわけだから。一年生にして大会優勝を目指すのは結構だけど、無理のし過ぎは破滅をもたらすわよ」



 俺が良心からそう言うと。



「いいえ……この程度では、去年の優勝者の足元にも及びません」

「謙虚は美徳だと勘違いしてる?」

「謙虚のゆえに漏れた自己評価じゃないですよ。歴史に残る絵画を目の当たりにしたときのような、雄大で絶望的な実力差を感じ取ったんです。だから私たちは必死になって頑張るし、頑張らないと歯牙にもかけられないと理解しているんです」

「へえ」



 あの紗英がここまで言うとは。

 去年の優勝者とかいうのは相当隔絶した実力を披露したらしい。



 俺は好奇心に従い、スマホで件の人物について検索してみた。

 一番上に動画が表示されたのでタップする。

 スマホ内蔵の安っぽいスピーカーが震え、暗闇のステージに光が差し込み──。



「あれ」



 登場したアイドルに見覚えがあった。

 というか昨日会った奴だ。

 あの、めちゃくちゃ中二病な。



 俺はアイドルの文化や歴史に全然詳しくないので、伽藍の歌や踊りがどれほど素晴らしいのかを理解することはできない。

 しかしCRYSTAΛの六人と比較してみると、なるほど、確かに軍配は伽藍に上がるだろうなと思った。

 彼女を下して優勝するのはかなり難しそうだ。



「どうですか、絢華さん」

「凄いわね」

「やっぱり、私たちは……」



 勝てませんか。

 紗英はその後の言葉を呑み込んだ。

 言霊ではないが、不吉な未来予想を口にしたくなかったのだろう。



 見れば、他の六人も陰鬱に黙り込んでいた。さっきまでの練習の熱もどこへやら、冷え切った空気が耳に痛い。



 しかし俺は首を傾げた。

 どうして彼女らがそんな反応をするのか分からない。



 だから俺は、本心からの所感を述べる。



「これだったら、CRYSTAΛが勝つでしょうね」

「え……」



 一拍置いて、彼女たちは驚愕の悲鳴を上げた。



     ◇



 東京都第二アイドル育成高校は不思議な高揚に包まれていた。

 理由はもちろん、本日より開催されるアイドルの甲子園だろう。

 去年の優勝者を抱えていることもあり、いざ二連覇を、いや私が優勝するんだと誰もが息巻いて。



「……はあ」



 天喰伽藍は退屈そうに嘆息した。

 片目は眼帯に覆い隠され、もう片方は掌で。

 史上類を見ない──たった独りで大会に参加し、たった一人で頂点に立ったアイドルとは思えない表情である。



 今年から規則が変わり、大会には五人以上のメンバーが必須となった。



 しかし伽藍はチームを組む気などさらさらなく、このままでは前回優勝者が出場しないという事態に陥るため、運営は例外として、天喰伽藍のみ単独での参加を許可したのだ。



 ゆえに彼女は今回も独り。

 才能がゆえに玉座に独り。



 一年生にして頂点に君臨した伽藍は、つまるところ全高校生の中で一番のアイドルであり、二年生になった現在も、おそらく一番であろう。



 そのため大会を前にしても緊張はなく。

 ただ事務をこなすかのように、退屈にため息をつくのだ。



 ──別に私は二連覇とか狙ってないのに。外野が騒ぐなよ。私はアイドルなんかもう諦めてるんだ。



 突出した才能は周りを腐らせる。

 たとえ追随する秀才でも、引き立て役に貶める。



「絢華さん……」



 伽藍は酷く沈鬱に、答辞の舞台に向かった。

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