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アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする  作者: 音塚雪見
第一章

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11/17

やっぱ謝罪って誠意が大事だと思うんだよな

 観客の呼吸が怒涛となって聞こえてくる。

 彼らの期待が熱気の塊となり、歓声が怒号となり、空気を揺らす。

 CRYSTAΛの前に曲を披露したグループは今回のフェスの目玉的存在だった。この狂乱もさもありなん。



 ──しかし、言い換えてみると。

 その後に登場するアイドルたちは、謂わば蛇足でしかないのだ。



 誰にも期待されていない、あるいは認識すらされていない。

 そんな逆境にありながら、彼女ら(﹅﹅﹅)は自信ありげに微笑んでいた。



「ちょうどいいハンデね」

「うん。ボクたちの凄さ、見せつけてやろうよ」

「絢華さんと一緒に散々練習したんだから」



 舞台袖でステージを眺める三人。

 少し前までの彼女らであれば、緊張に打ち震え顔を真っ青にしていただろう。

 されど霜月絢華の書き下ろし楽曲を携え、東恩納映莉子の父を納得させるため、苦心惨憺の日々を送ってきた。

 今の彼女らにとって、詰め詰めの観客やアウェーの空間など、そよ風のごときものだろう。



「うぅ……緊張で吐きそうですわ……」



 ところが。

 ここに一人。

 やたら緊張している者が居た。



「おぇ……何か込み上げて……」

「ちょちょちょ映莉子!?」

「本番前なんだから抑えなさい!」



 今回の主役とも言える存在、東恩納映莉子である。

 余裕そうな三人とは裏腹に顔面蒼白。

 胃袋の底からせり上がる嘔吐感と闘いながら、煌びやかな衣装に身を包み、それを汚しかけている綺羅星だ。



「わたくし、お父様に逆らったことなんて初めてなんですの……失敗したらと思うと、脚が震えて仕方がありませんわ……」

「大丈夫だよ。ボクたちの中で一番練習してたのは映莉子じゃないか。練習しすぎてあの絢華さんにも怒られてたし」

「睡眠不足で倒れたんだっけ? 気を抜けとは言わないけど、肩の力は抜かないと余計な失敗しちゃうよ?」



 壁にもたれ掛かって深呼吸をする映莉子。

 そんな彼女の周りに集まって、三人は胸を叩いた。



「さあ立って。お父さんにも魅せないといけないし、それに──」



 紗英は再び観客の山に視線を投げる。

 あの中に、霜月絢華が居るのだ。



「私たちが期待はずれなパフォーマンスをしたら、絢華さんが居なくなっちゃう」



     ◇



 この世界にはアイドルが大勢存在している。

 そうなるとファンというパイを取り合う事態になりそうなものだが、驚くべきことに、ほとんどの人が老若男女問わずアイドルを推しているのだ。

 要するに全国総推し活。

 さすがに人口よりも多くのアイドルが居るはずもなく、彼ら彼女らはあまりギスギスせず共存できているのである。



 で、こうなってくるとアイドル関連の仕事が重要になってくる。

 例えば振付師。例えば作曲家。

 前世に比べてそういう職業に就く者も多く、また巨大な産業としてGDPの何割かを占めているとか。



 よって俺の書き下ろし曲や振り付けにも、当然のように対価が発生しそうになっていた。

 その話が出たのはアイドルフェス三日前。

 ぶっ通しの練習にみんなが疲れ、ダンススタジオの床に転がっていた時のことだ。



「絢華さん」

「ん」



 他の三人は汗みずくになって寝ているが、回復の早い映莉子はタオルで額を拭いながら、何処か真剣な面持ちで話しかけてきた。



「その、お礼のことなのですが」

「お礼……ああ、曲とかのことかしら」

「はい。わたくしが全て支払ってもよろしいでしょうか。元々絢華さんに依頼したのはわたくしの都合が原因ですし」



 まぁなんとなく想像はしていたが、やはり報酬の話になるか。

 俺としては趣味でやっていることだし、最近は動画の広告収益で利益を上げられているから、あまりお金に興味はない。

 しかし一切の報酬なしに仕事を請け負うのもまずいだろう。



「お金は結構どうでもいいの」

「え?」

「貴女たちのパフォーマンス、それが報酬だってのは……駄目かしら」

「駄目です」

「そうよね」



 一瞬で断られた。当然か。

 誰かが無報酬で自分のために働いてくれるとか、申し訳なさと罪悪感で胸がいっぱいになるもんな。

 あと自分の感覚が狂うのが怖い。

 お願いは無料で叶えられてしかるべき、みたいな。



「ひとまずお金の話は置いておきましょう。それよりも、私が重要だと思っていることがあるの」

「重要……ですか」



 そうだ。滅茶苦茶重要なことだ。



「私は今回、曲と振り付けを貴女たちに作ったわ。ならば相応の成果がなければ耐えられない」



 俺の初心者に毛が生えたみたいな曲とダンスを披露して、まったく反響がなかったらCRYSTAΛに申し訳なさすぎる!!!

 霜月絢華の才能を存分に利用して、できる限り最高の出来には仕上げたが。

 自分の目が正しいという確信がない以上、やはり心配は残る。



「三日後のフェスで一番の人気を得られなかった場合……私は貴女たちと今後一切関わらないわ」



 贖罪、というわけではないけれど。

 もし俺の曲とダンスで人気を得られなかったら、それはCRYSTAΛのみんなのせいではなく、さすがに自分のせいだろう。

 だってCRYSTAΛのメンバーは全員眩しいくらいの才能を持ってるし。普通にしてて人気を得られないわけがないんだよな。



「──!」



 映莉子だけでなく、四人全員が息を呑んだ。

 謝罪の気持ちが通じたのだろう。



「……分かりましたわ。絶対、絢華さんには後悔させません」



 覚悟の決まった表情で映莉子が呟く。



「……そう。期待してるわ」



 後悔ってなんのことすか??? と訊きたくなったが、雰囲気が真剣なので馬鹿みたいな質問はできなかった。

 俺は怜悧な口調を意識して髪を翻す。



 とにかく俺の意図は完璧に伝わったな!

 ヨシ!!

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