機械仕掛けのような少女
実は今日、筆者の誕生日だったりします。
今年もまた老いさらばえてしまいましたね。
――――シモン中央学園・教室/昼――――
マキナ・マクスウェルは、大人しい生徒である。
金髪で片目が隠れコードのような尻尾を持っている、鉄面皮とも形容できる表情筋を持っているメフィスト。
授業中に問題を投げかければ教科書の内容を正確に答え、記憶している魔術ならば構築や演算も優秀。特に数理系に強く、八桁以上の掛け算すら暗算で可能であり即答できるほどだ。脳内にそろばんでもあるのかもしれない。
その見た目と頭脳からは、機械仕掛けのような少女という印象を受ける。
「では今回の授業は終わり――――――っと」
授業の終わりを宣言した瞬間、生徒の殆どが魔術の構築を始める。それは教師である僕に向けられているのは、誰がどう見たって分かる。
当然数秒後には構築が完了し、容赦のない魔術が僕に向かってくるわけだが。
即座に教卓に隠れなければ被弾していたことだろう。
――――――どうしてこうなっているのか説明しよう。
シモン中央学園の優秀な生徒といえど彼ら彼女らは子供であり、好奇心旺盛な精神を持つ童子である。
ではそんな子供に魔術というおもちゃを与えるとどうなるか?
幼少期の寝る前に読み聞かせられるマザーグースに出てくるような、魔術というおもちゃを学べるとするならば、その後に何を欲するのだろうか?
結論から言うと、生徒達は「魔術を自由に使える場を欲している」ということであり、そんな相手に「時間や場所は関係無しで先生を倒す」という課題を提出したが故にこうなった。
調子乗ってカッコつけなければよかった。
だからといって、このまま教卓に隠れていても終わるわけじゃない。いや、生徒の魔力が尽きるまで隠れるのもやぶさかではないが、それに耐えられるほど教卓は頑強に作られているわけではない。
だからといって教卓から飛び出しては無傷でいられないだろう。
「生徒がこっちを向いていたのが幸運だなぁ⋯⋯」
こちらを向いているということは視線が集中しているということであり、それ即ち今手元で構築している閃光魔術をもろに受けるということである。
完成した閃光魔術を教卓の外に放り投げると、眩く光り輝き生徒の目を潰す。
当然その隙を僕は逃さずに、教卓を背負うようにへばりついたまま跳躍する。無論、魔術も使って更に加速もする。
そのまま生徒全員の背後を取ったのならば、やるべきことはただ一つだった。
「⋯⋯⋯⋯毎日これだと流石にキツいな」
そうして生徒一同を叩き潰してから一息つくと、一番最初に立ち上がったのはカリスタ・アルブレヒトだった。
どうやら優等生は運動能力も優秀らしい、もしくはこのような日常を送るうちに体力がついたのか。
「⋯⋯先生って手加減とか知らないの?」
「逆に聞くけどカリスタ、君は手加減されて勝ったとしても良いのかい?」
それに魔術の才能だけで言えば、特別対応教室の生徒達は僕より上だ。
全身全霊で戦わなけれ対処できないし、一歩間違えれば普通に被弾する。
流石に自ら無意味に怪我を負ったり、無駄に苦痛を受け入れるような真似やは出来る限り御免被る。
生徒の面々が立ち上がり、各々が自身のやるべきことややりたいことをしているのを見てから教室を去ろうとした瞬間、僕の尻尾を引っ張った誰かがいた。
⋯⋯いい歳した成人男性の悲痛な叫びが教室に響いたのは言うまでもない。
「⋯⋯謝罪、ごめんなさい」
「いや、うん、まぁ、いいんだ、二度とやらなければ良いから⋯⋯」
カリスタよりも背丈が低い片目の隠れた金髪の少女、マキナ・マクスウェルは謝罪の言葉を口にした。表情は微塵も変わっていないが。
「それでどうしたんだい、まさかわけもなく先生の尻尾を引っ張ったわけじゃないだろうね?」
マキナは首を横に振り、カリスタを一瞥してから口を開いた。
「提案、聞きたいことがある」
「いいよ、でも先生は仕事があるから、図書館まで歩きながらでいいかい?」
「肯定、問題はない」
会話をそこで一区切りにして廊下に出ると、カリスタが後ろか駆け寄ってきて話しかけてくる。
尻尾を掴まれずに少し安堵しつつ、足を止めずに用件を聞く。
「私もついてっていい?私も図書館で調べたいことがあるし、先生に聞きたいことがあるから」
「教えられるかどうかは別だけど、構わないよカリスタ」
「どちらかといえば意見が聞きたいの、他人の視点が欲しいのよ」
主観ほど疑わしいものってないでしょ?と、自慢げに胸を張って腰羽を揺らしながらカリスタはそう語る。
それに関して同意しつつ、僕はマキナに対して
「さてマキナ、質問だと言っていたけれど一体何かな?一応言うが答えられない質問もあるにはあるにはあるよ?」
「無問題、聞きたいのは先生の先輩について」
「よしそれは答えたくない質問だね!」
即答した。
一瞬の隙を作らず返答した。
当然、マキナは小首を傾げる。
「⋯⋯疑問、どうして?」
「それを語るにはとてもとても長い時間がかかるからNOだ、三日三晩語り尽くして連日連夜話し続けて昼夜の別なく喋らなくてはいけないから絶対に嫌だ」
「強行、ならば無理矢理聞く」
あらやだ思っていたよりもこの子強情、だが嫌だ!放置していたい!
目を逸らし続けたらどうにかなる問題を直視したくない!
できることなら素知らぬ顔ですっとぼけていたい!
答えたくない質問ということに嘘はないが、カリスタも一緒にいるから絶対に嫌だ!
しかしそんな淡い希望を打ち砕くように、マキナの口が開くこととなった。今思えば全力で逃げればよかった。
「質問、先生の先輩は、私の母親でもあるラプラス・マクスウェル?」
「⋯⋯⋯⋯ちょっと待っててね?」
僕は近くの窓を開けて、大きく息を吸い――――――
「■■■■!■■■■■!!■■■■!!!」
――――――割れんばかりの声量で叫び散らかした。
「⋯⋯なにしてるの?」
「気にしないでくれ、いや、マジで、本当に」
その場にうつ伏せで項垂れている僕に、不可思議なものを見るような目で見るカリスタ、だがこればっかりは仕方ないだろう。
マジか、マジで言ってるのか?あの人が?あの先輩に?子供?ジョークにしてはセンスがないし、現実だとしたら理解不能だ。理解不能ってか理解したくない。
あの暴風雨みたいな先輩に付いていける恋人だと?そんなのは先輩本人くらいじゃないか?だとしたら先輩のような奇人が二人もいるということになりこの上ない悪夢だ。現実のほうがまだ夢見が良い。
「⋯⋯訂正、あくまでも養母であって血の繋がりはない」
「あぁ⋯⋯そうなの?」
「肯定、本学園に入学させるためだとか」
先輩に恋人がいなくて安堵した、今世紀どころから文明単位で安堵した。
「というか先生!?なんで私の尊敬しているラプラス・マクスウェルさんが自身の先輩ってこと黙ってたの!?」
「それはまぁ聞かれてなかったからとしか」
あと十中八九面倒くさいことになるだろうから、具体的にはカリスタに襟元を掴まれてガクガクと揺らされているこの状況みたいに。
あの人、学生時代にあらゆる人物をシンパにしていたが、まさか10年くらい経ってもその影響力があるとは、全く持って恐ろしい。そのカリスマ性さながら宗教の如し。
「改めて質問、母が話してた皮肉反応型自動肉体言語会話兵器は先生?」
「待ってなにそのあだなななななな待ってカリスタちょっと手を離してお願い」
「離すわけ無いでしょ!?いいからラプラスさんについて吐きなさい!吐きなさいってば!!吐けコラ!!!」
さてまさしく四面楚歌なこの状況、カリスタとの身長差のせいで余計に頭が震わされる混沌極まる状況は唐突に終りを迎えた。
「――――――っ、な、にこれ?」
誰かが手をすべらせて水バケツをこぼしたのか、大量の水がマキナに襲いかかった。
文字通りに、冷水を浴びせられたかのようにその場は静寂が支配し、全身が水に塗れた彼女は無表情だが困惑している。
「あぁごめんごめん、手が滑ってねぇ?」
口角を上げ嘲笑的な笑みの生徒がそう言う、その表情に謝罪の意志は微塵も介在していない。
そこで僕は久しぶりに思い出した。
――――――メフィストが被差別種族であることを。
『メフィスト』
角があり、場合によっては尻尾の特徴も持つ種族。
キリエとは相容れぬ間柄であり、場合によっちゃあ拳が飛び交う。




