第6話 孤高のイケメンの心内
「帰らないで...」
そう言って孤高のイケメン佐藤陽光くんを呼び止めたさわ。
2人キリの空間。
何かが起きる予感
「ふぁ〜〜」
さわは覚め、ベットから起き上がる。
さっきまで、熟睡していたようだ。
「帰らないで...」
恥を忍んで、そう頼んでからどれくらい経っただろう?
ベット横のテーブルには、空のお椀がある。
それを見て、眠ってしまう前の記憶がよみがえる。
陽光は、さわにお粥を作ってくれた。
冗談抜きで、人生一美味しいお粥だった。
陽光はきっと料理が得意なんだろう。
それから、安心して眠りについたのだ。
寝起きの頭が回っていない感じが気持ちいい。
段々と頭が冴えてくる。
と、ここであるとこに気づくさわ。
『佐藤くんどこいったん!?』
さわは、ベットから出て陽光を探そうとする。
すると
「スゥースゥー」
と地面の方から聞こえてきた。
下を見る
そこには、床で寝ている陽光がいた。
上手に腕を枕にして、少しだけ膝を曲げ丸まるようにして寝ていた。
かわいい
率直にそう思った。
母性本能をくすぐるような、守ってあげたい感情。
そんなものがさわの心にふと湧いた。
窓越しに外を見ると、日が落ち始めていた。夕方といったところか。
今日は幸いバイトはない。
夜まで一緒に居ることができる。
さわはさっきまで着ていた布団を手にとり、寝ている陽光に近づく。
陽光の背中側に立ち、足からそっと首元まで布団を掛けていく。
布団の手前側の端を上手い具合に引っ張り、きれいに整えようとする。
少し引っ張り過ぎたみたいだ。陽光の正面側を布団が覆っていない状態となってしまった。
背中側に立ちながら、反対側の布団の端を掴み全身を伸ばして、陽光の正面側まで覆い被さるように布団をずらそうとする。
足をつま先立ち。ギリギリの体勢で、布団を引っ張る。
あと少し足を伸ばせば、布団をかぶせられそうだ。
『あと少し..』
と最後身体を伸ばそうとした瞬間、突然体勢が崩れる。
どうやらつま先立ちしていた足が滑ってバランスが崩れたようだ。
慌てて地面に手をつき受け身を取る。
『ふぅ..あぶね 助かった』
と安心したのもつかの間、目の前には陽光の純白な横顔があった。
その距離 およそ10cm
まさしく目の前に陽光の横顔、陽光の頬がある。
その肌は透き通るように綺麗でつい目を奪われ、見とれてしまう。
ふれたい... さわりたい...
無意識にそんな考えが頭に浮かんでしまう。
寝てる間に勝手に触る。そんなのは不誠実すぎる。
しかし、頭ではそう思っていても、さわの顔は段々と陽光の頬に吸い寄せられる。
9cm 8cm と距離が徐々に縮んでいく。
2人の物理的な距離が縮まるにつれて、さわの心拍数も上がった。
2人だけの空間に赤い西日が差してきた。
「んあーーー」
「あれ 僕 寝てた?」
「おはよう」
眠りから覚めた陽光に、さわはそう話しかける。
よく見るとさわの頬は赤くなっているようだ。
「す..すいません
人のお家で勝手に寝ちゃって..
って あれ 布団 暖かい ありがとうございます」
陽光は、さわが布団をかけてくれたことに気がつき感謝を述べる。
「全然大丈夫やで
こっちこそありがとな 色々」
「あっそうだ、
体調!
大丈夫なんですか...?」
「この通りバッチし元通りや!
完全に回復した
佐藤くんのおかげやなー」
「いえいえ..
って すみません 今何時ですか?」
「7時過ぎくらいかなー」
陽光は『やってしまった』と少し絶望したような表情になる。
「やば... 帰ってご飯の準備しないとだ..
すみません すぐ帰りますね」
慌てて荷物をまとめ帰ろうとする陽光
「良かったら.... 食べていく?
今、あんたの分作ってんでー」
キッチンにいるさわとリビングにいる陽光の目が合う。
「え.. いいんですか?」
「もちろん!
今日めっちゃ色々手伝ってもらったし
ささやかやけど、お礼させてくれや!」
「す..すみません 僕のためにわざわざ作ってくれて
ありがとうございます」
「んなこと言ってる間に丁度出来たわー」
さわが作ったのは、シチューだった。
2人はテーブルにつき、手を合わせる。
「いただきます!」
シチューをスプーンで掬う。そして食べる。
いつもの食事のようだが、目の前には男の子がいる。
思えば、一人じゃない食卓はいつぶりだろうか?
『誰かと食べる食事はなんだかとてもいい』
身体の全体が暖まっていく感覚がある。
それは、シチューが温かいからだろうか。人と食べる食事のぬくもりからだろうか。
心の温かさに心地よさを感じるさわ。
ふと正面の陽光をみると、後頭部しか見えなかった。
どうやら陽光は首を90度にまげて真下を見ながら食事をしているようだ。
「どんな体勢で食べてんねん」
ついツッコむさわ。
ただ、そんなツッコミにも無反応の陽光。
さわはそんな陽光の真意を分からずにいた。元々そんな食べ方の人なのか。何か問題があってそう食べているのか。
段々訳が分からなすぎて心配になるさわ。
「なあ、大丈夫か?」
そう聞きながら、テーブル越しに陽光の方に顔を寄せる。
近づいてよく見ると、陽光の頬から水滴がしたたり落ちているのが見えた。
泣いている...?
さわは直感的にそう思った。
「なあ、泣いているんか。
どうしたん何とかいってよ。心配や」
そう言われてゆっくりと顔を上げる陽光。
段々と陽光の顔や表情が見えてくる。
目の先からは涙がこぼれ落ち続け、鼻は赤くなっていた。
まさに、大号泣である。
慌ててさわは陽光の隣に移動し座る。
「どうしたんや。なあ どこか痛いんか」
穏やかで優しい口調でそう話しかける。
「......違います...どこも痛くないんで大丈夫です」
目を手で覆いながらそう返事をする陽光。
「やったらどうしたんや」
穏やかに笑いながらそう問いかけるさわ。
「わかんないです...
わかんないけど なんか安心しちゃって..
急に胸がホクホクし始めて、涙が止まんなくなっちゃって
ごめんなさい..なんか急泣き始められて迷惑ですよね...?
ほんとすみません」
「全然大丈夫やで 大丈夫やから
私はあんたの友達で味方なんやからさ
泣きたい時はないていいいし
話したいことは話していい
そうしてくれるのが、私は一番嬉しい」
「...はい..ありがとうございます」
さわは、陽光の背中を優しくさする。
陽光は、泣きながら涙ぐんだ声で色々なことを話し始めた。
話が飛んだり、支離滅裂になっていることもあったが、ゆっくり確実に自分の感情、思っていること、辛かったことを言葉にした。
その内容はこうだ。
自分はこの学校に来て、周りに多くの人はいた。しかしそれは皆「自分の容姿がいいから」「周りに女の子がよってくるから」というだけで本当の友達ではない。
陽光の中で孤独、孤立することが一番怖い。だから、その周りにいる人達に嫌われること見放されることが一番怖かった。だから、常にそのことを考えながら立ち回る学校生活だった。
そんな学校は毎日辛く苦しいもので、その上、家に帰っても一人。永遠に一人で何かと戦っている様な気分だった。
そんな中、さわと出会ってこの学校に入って初めて誰かに本音で話せた。
学校が初めて楽しいと思えた。
久しぶりに誰かと上月さんとご飯を一緒に食べて、うれしさと安心感とこれまでの辛かった記憶が心の中でグチャグチャとなり涙が止まらなくなった。
そんなことを話してくれた。
陽光が泣き始めてから40分経った。
やっと落ち着いたようだ。
少し皿に残っているシチューはもう冷めてしまった。
しかし、心はまだ温かいままだった。
「ほんとすみません
無様な姿をさらしてしまいました」
「いえいえ
むしろ、本当の佐藤くんが見れた感じで何かよかったわー」
2人の間にしばらく沈黙の時間が流れる。
「あのー 上月さん」
急に陽光くんは改まってそういった。
足は正座で姿勢を整え、私の方を真正面に見つめてくる。
「僕と....
仲良くなってください」
そういってさわの方に頭を下げる陽光。
『ビックリした...告白されるかと思った....』
陽光の急な発言に告白かと勘違いして勝手に緊張していたさわは、安心してそっと胸をなで下ろす。
「あーうん 全然いいで」
「ほんとですか ほんとにいいんですか?」
「うん! むしろ私もそうしてくれた方が嬉しいわ」
「話かけたり
映画誘ったり
一緒に帰ったりしていいんですか?」
「あーうん あたしバイトとかあるから、時間があればやけど」
「やったー めっちゃ嬉しいです」
陽光は、目を輝かせとびきり嬉しそうな表情をしている。
「でもあたしでいいの??」
「何言ってるんですか
上月さんだからいいんです
何か上月さんと居るとホットするし、ここが僕の居るべき場所って感じがするんです
何か絶対居なくならないような安心感もあります」
陽光はあきれた様な表情でそういった。
「へーそうなんや
私も佐藤くんと一緒にいると楽しいし頼りになるで!」
お互いがお互いを求めている。好感をもっている。
そのような2人の間には、幸せな雰囲気が流れていた。
「ほな また明日学校でな!」
「はい! また明日!」
そう言って玄関まで陽光くんを送ったさわ。
食べ終わった食器は陽光が洗ってくれたため、片付けの必要は無い。
学校一のイケメン佐藤陽光くんが仲良くなりたいと思ってくれている。
そのことを想像するだけで、さわもつい『恋』を意識してしまう。
と 急にさわは自分のほほを叩いた。
「あかんあかん 高校では恋愛せんって決めてるんや」
恋心が芽生え始めていたさわ。そんな自分を律するためのビンタをし、気合いをいれ勉強に向かう。
そのようなさわの気持ちを全く知らない陽光の猛アタックがこれからはじまる。
「高校では恋愛しない」と決めているさわ。
そんなさわの気持ちを全く知らない孤高のイケメン。
佐藤陽光くん攻撃力MAXなアタックがはじまってしまう!?!?




