第15話 孤高のイケメンと包んだ愛情
今日は土曜日 今は夕方
怒濤のテストを乗り越え、そして口づけを交わしてから一夜が明けた。
私 上月さわは、餃子を作っている。
隣には学校一のイケメンで半同居人の佐藤 陽光くんがいる。
彼も餃子を作っている。
今日 さわは急に餃子が食べたくなった。
しかし、バイトの給料日前でお金がない。
だから、少しでも節約して楽しめる手作り餃子を作っている訳だ。
今私達はキッチンに横並びで立っており、挽肉とニラと調味料を混ぜて餃子のタネを作っている。
いつもバイトをしていて疲れているからと、混ぜる作業は陽光くんがやってくれている。
どうやら腰を入れて、ボウルの中の種を豪快に混ぜているようだ。
日頃運動不足気味な陽光くんは、頬を赤くしながら一生懸命に作業してくれている。
さわは、そんな陽光くんの姿を隣で見ながら昨日の事を思い出す。
昨日 私達はおかしな雰囲気になり、結果唇を交わしてしまった。
私にとって、生まれて初めてのキス。
ファーストキスだった。
陽光くんの唇の柔らかな感覚が、今も頭にこびりついている。
触れた瞬間 一瞬で幸せな感情が脳みそ中を駆け巡り、まるで陽光くんの口から温かいものを注入されたかの様に全身が熱くなった。
頭がぼわ〜んとし、感じたことの無い感覚に襲われた。
『も...もう一度...確かめてみたい...かも』
「さわさん...?」
その様な妄想に耽っていたさわを、陽光の声が現実に引き戻す。
「ん どうした?」
「いや さわさん 顔赤くなってますけど大丈夫ですか??」
「え」
さわはつい自分の頬に手をあてる。
すると、自分の頬は温かな熱を帯びていた。
『やば...昨日のこと思い出してたら... 身体が火照ってる...』
「大丈夫ですか? 寒くないですか...?」
事情を知らない陽光は、さわの心配を続ける。
「う...うん 全然大丈夫だから」
自分の頬が赤い理由が完全に分かっているさわは、陽光くんの心配を軽くあしらう。
「ほんとですか? 心配です
さわさん 無茶して身体壊すことが多いんで...」
陽光くんは本気で私のことを心配してくれている。
本当にやさしいなぁ
そんな優しさが心に染みる。
「ありがとう...心配してくれて
でも..本当に大丈夫なんや
これは...
昨日のこと...思い出して 赤くなっちゃっただけやから」
心配してくれている陽光の心を無下にすることもできず、さわは真実を話す。
とても恥ずかしそうな様子だ。
「え....あっ!」
陽光も何でさわの頬がこんなにも赤くなっているのか、その理由に気付き全てに納得がいったようだ。
2人揃って、昨日の出来事を思い出してしまう。
2人の間になんとも言えない気まずい雰囲気が流れる。
「た....たね できました」
「お...おうよ」
気まずい雰囲気のせいで会話もぎこちなくなってしまう。
お互いに目を合わせられない。
「か...かわって...どこにあったっけ」
陽光がさわの様子をうかがう様にしながら、ぎこちなく餃子の皮を探す。
「んーーー なんて言うか....
気まずい!!」
さわは、急に叫んだ。
「気まずい! 止めようこういうの
忘れよう! もうなし 昨日のことは」
さわは威勢よくそう宣言した。
続けて
「私達は今日餃子を作るために集まったんだから餃子作りに集中しよう!」
「ぷっ
ハハハハ」
するとこれまた急に隣に居た陽光がお腹を抱えて笑い始めた。
「何笑ってんねーん」
「い いや すみません いきなりそんなこと言い出すの
ほんとさわさんらしいなと思っちゃって
そうですよね 餃子作りに集中しましょう」
陽光は何とか笑いを抑えながら、そう語った。
「さわさんのそういうところ やっぱ好きです」
さりげなく 陽光はそう言った。
それに対し、さわは呆れたように目を細める。
「所々で好きですを挟んでくるの止めてや」
「えーー だって本当に好きなんですもん
一緒にいて楽しいし、安心できます」
「お...おう」
ストレートに気持ちを伝えられて動揺するさわ。
「い いいから餃子つくるで」
これ以上、陽光に言われるとまた頬が赤くなってしまいそうなため、さわは話題を切り替えた。
「はーい」
陽光はこの上なく幸せそうな表情をしながら、餃子の皮の準備を始めた。
いよいよ餃子を包む作業である。
まず、餃子の皮の中心にタネを適切な量配置し、皮の端を水で濡らす。
次に丁度半分になるように折りたたみ、波打つ段を作りながら端っこを上手くくっつける。
これで完成だ。
これが意外と難しかったりする。
まず、真ん中の種の量 多すぎると皮が破れて失敗する。
次に端につける水の量 少なすぎると皮が上手くくっつかないし、多すぎると破ける。
最後に折りたたんだあと上下の皮をくっつける場面 これは上手く段を作りながら綺麗に形作る必要がある。
作り始める。
さわは鼻歌交じりで優雅に作業する。
1枚目
タネを真ん中に置き、皮を折り返して包もうとする。
すると、真ん中からやぶけた。 タネが多すぎたのだ。
2枚目
今度 皮を折り返す所までは上手くいったが中々皮同士がくっつかない。
どうやらつけている水が少ないようだ。
皮の端につける水の量を増やす。
するとふにゃふにゃになり、端っこから皮がボロボロになった。
水をつけすぎてしまったのだ。
3枚目
また、タネを入れすぎてしまい中心から破裂した。
そう....さわは不器用でがさつなのだ。
中々上手く作ることができない。
と そういえば隣で同じく餃子を包んでるはずの陽光はどうしているのだろう。
気になる。
覗いてみた。
すると、とても手際よく綺麗に餃子を量産していた。
タネの量は毎回均一で端はとても美しく完璧にくっついている。
その表情をみると、真剣そのものでゾーンに入っているようなとても集中している様子だった。
『へー こういう作業 ひかる得意なんや』
また、陽光の知らなかった一面を知れて少し嬉しい気持ちになるさわ。
負けじと餃子包みを再開し、何枚も包み続けていった。
「できました」
そう言って陽光は、キッチンから焼きたての餃子をリビングの机に持ってきてくれた。
机の真ん中に大量の餃子が鎮座している。
その皿の中には、2種類の餃子がある。
明らかに綺麗で形の整った餃子と形が汚く皮が所々破れている餃子だ。
綺麗な餃子が陽光の作った分で形の乱れた餃子がさわの分である。
そのことは明らかだ。
あれからも綺麗に作ろうと努力したが、中々上手く作ることはできなかった。
それをみてさわは、なんとも言えない嫌で恥ずかしい気持ちになる。
ご飯や皿なども分担して運び、いよいよ食べる準備が整った。
「いただきます」
2人はそう言って手を合わせる。
「美味しそうですね」
陽光はそう微笑みながら目の前のさわに話しかける。
2人で共同作業し、作りあげたご飯。
それを食卓を共にして食べる。
この時間はとても幸せでどこか楽しいものである。
しかし、さわにとっては自分の汚い餃子がお披露目となる瞬間で嫌な時間になっていた。
「この私が作ったやつは私が食べるわ」
そう言ってさわはそそくさと自分の皿に餃子を集めていく。
「ちょっと 僕にも食べさせてくださいよ」
陽光はさわの作った餃子を欲しがる。
「いや 私が食べる」
「えー 良いじゃないですか」
「だめ」
「何でですか」
「こんな不格好な餃子食べたくないやろ!」
さわは、そう本音を陽光に漏らしてしまう。
その直後にやってしまったと一瞬で表情が青ざめた。
少しの時間2人の間に沈黙が流れる。
すると、不意に陽光の箸が動き出した。
さわの作った餃子を箸で掴む。
それから、酢醤油をつけて口に運ぶ。
その後、陽光の表情はとても嬉しそうになった。
「うん めっちゃ美味しいです」
陽光は笑みを浮かべながら、そう言う。
「ほ...本当か」
さわは疑う。
「嘘つきませんよ さわさんには」
テンション低めに疑うさわに対して、柔らかで優しい表情をしながらそう返す陽光。
それから、さわに対して陽光が語りかけ始めた。
「僕も料理って良く作るんですけど、一番大事なのは気持ちだと思うんです。
どれだけ上手く作っても、気持ちのこもってない料理は美味しくないし
気持ちがこもってる料理は食べていて幸せな気持ちになります
さわさんの餃子とても美味しかったしすごく幸せな気持ちになりました」
陽光は、ゆっくりとそう話してくれた。
「って すいません 急に変なこと語ってしまって」
陽光は急に先程の自分の言葉を恥ずかしがる。
「めっちゃ良いこというやん
ありがとう...」
さわは真剣な表情をしてそう返した。
さわの心には陽光の120%純粋な優しさが届いていた。
その優しさにある種の感動を覚えていた
「ほんま ひかるって
ええやつやな
ひかるの餃子も食べさせてよ」
さわはそう言って、勢いよく陽光の作った餃子を食べる。
「美味しい 幸せな味がする」
そう元気に笑顔で語りかけた。
大量にあった餃子も全て食べ終え、2人はキッチンにて協力し洗い物をしている。
「流石に食べ過ぎたわー
太ってまう」
さわは、冗談交じりにそう言う。
「僕も食べ過ぎちゃいました
美味しすぎて」
「よなー」
共感し合う2人。
「さわさんって意外に不器用なところがあるんですね」
「もー忘れてや」
「嫌です さわさんのことは何一つとして忘れたくありません」
「もー」
「何だか僕思いました」
陽光は急に何かを思いついたと言い始めた。
さわも注意深く聞こうとする。
「なんか お互いの苦手な部分を支え合えるカップルになりたいって」
「まだ カップルになるって決まってないやろ」
陽光の冗談に即ツッコミを入れるさわ。
それに対して、陽光はしてやったりな表情をする。
陽光の冗談
さわにとってはあまり悪い気はしなかった。




