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第14話 孤高のイケメンとレモン味

金曜日

時刻は朝7時30分



今日は5時間目に数学の授業があり、テストの返却が行われる。


私 上月こうつきさわは玄関の扉を開く。


と、そこには学校一のイケメン佐藤 陽光ひかるが居た。

玄関には背を向ける形で外の景色を眺めていた。


「おはよ!」


さわは、そう言って陽光の隣に移動する。


「あっ! おはようございます」


陽光はさわの急な登場に驚きながらも挨拶を返した。



「ほな 行こ!

学校」



そう言って二人は歩き始める。



最近、自然と私達は学校にも2人で通うようになってきた。


2人で一緒に居る時間がまた増えたのである。


私はいつもの道を歩いてる。

横には陽光くんがいる。





「ふふんーーー ふんふんー」


隣から鼻歌らしき音が聞こえてきた。

珍しい... というか鼻歌を歌っている陽光くんなんて初めて見た。






「機嫌良さそうやなーー  鼻歌歌って」





「グシュー!!!」


陽光が急に鼻から吹き出した。






「ゴホッゴホッ」


「お...おい大丈夫か...」


「すみません...  鼻歌なんて歌ってました..? 僕」


「うん  めっちゃ歌ってたで」





「うわ めっちゃ恥ずかしい..」


そう言いながら、顔を赤らめ両手で自分の顔を覆う陽光。







「すごいウキウキで機嫌良さそうやったでー」


さわは構わず話し続ける。





「忘れてください...


僕みたいなカビ臭い男が鼻歌だなんて...

しかも音痴だったでしょ..」






「なにゆうてん!笑


カビ臭いわけないやろ笑


ウキウキモードのひかるが好きやで

私の方まで楽しくなるし


それに、私にだけ見せてくれる一面って感じやし」



「ほ...ほんとですか」



先程まで落ち込んでいた陽光の表情に光が戻る。

立ち直りかける陽光。






「まあ 鼻歌 音程は合って無かったけどなー」






「ああー やっぱ僕って音痴なんだ...」


そう言って再び肩を落とし落ち込む陽光。






「冗談やって笑」


そう言いながら、うつむく陽光の背中を叩く。





「まあ、あれや 歌は本人が気持ち良く歌えればそれでいいから」


そうフォローをいれるさわ。



「....それって遠巻きに音痴って言ってるじゃないですか」



さわは沈黙する。








「さあ いそぐよ! 

テスト楽しみやなー」



話をすり替えるさわ。




「僕の歌はどうなんですか!結局!」



そう言って陽光は前をあるくさわに追いつこうとする。

そんな会話を交わしながら、2人は学校に向かっていった。






学校ではいつも通りに時間が流れていき、とうとう5時間目になる。


予定通り数学のテストが返され、その後の授業ではおおまかな解説が行われた。



5時間目が終わるとすぐに帰りのホームルームになり、下校時間となる。





「帰りのホームルームを終わります 起立 礼」




学級委員が号令をかける。


「ありがとうございました。」


クラスの全員が礼をして学校の時間は終わる。



もう既に陽光のテストも返却され何点だったかわかっている頃だろう。

何点だったのか、凄く気になる。





しかし、今日はバイトのシフトが詰め詰めで入っている。

急いで帰らなければならない。


今すぐに聞きたい気持ちだが、まああれだけ自信があったのだから、大丈夫だろう。


お祝いは帰ってからにしよう。



そう思い、さわバイトに向かった。






「ただいまーー」



バイトが終わり、家に帰ってきた。

私は一人暮らしをしている。



しかし、毎日隣に住む陽光くんがご飯を作りに来てくれている。

そのため、私の家に居るはずの陽光に帰ってきたことを知らせるために挨拶をしている。




『おかえりなさいー』


いつもなら、落ち着いた口調で陽光がそう返してくれる。


しかし、今日はそのような声は聞こえない。

部屋には沈黙が流れている。





いつもとは違う状況がさわを少し不審な気持ちにさせる。




「ひかるー?」


そう言いながら、さわはリビングの方まで入っていった。


部屋を見渡すが、そこにはいつも居るはずの陽光の姿がない。


一旦荷物を片付け改めて、部屋をくまなく探す。







するとテーブルにある紙が置かれていた。


数学Ⅲ   氏名 佐藤陽光


そこにあったのは陽光の数学のテストだった。






点数の欄がティッシュ箱で隠されていてよく見えない。


さわはティッシュ箱を横にずらす。





隠されていた点数が露わになりさわの目に写った。





直後、キッチンの方から何かどんよりとした空気を感じる。


なんだか嫌な予感がするような雰囲気だ。





恐る恐るキッチンに向かうさわ。




コンロには、鍋が置かれ何かが煮詰められている様だ。




その後ろに人影が見える。







陽光だ。





彼は、キッチンの隅で体育座りをしている。

顔はうつむき、額が丁度膝の所に来ているような体勢だ。




さわは、急いで陽光の隣に駆け寄りる。

隣のスペースにぺたんこ座りをする。




彼がこのような体勢をしているのは、ひとえにテストが70点だったからだ。






「ただいま..」


さわは、陽光の耳元でそう呟く。





「おかえり...なさい..」


陽光は少し時間が経って顔を斜めに少しだけ上げて、そう返してくれた。

さらに続けて語り始める。




「ごめんなさい... 全然ダメでした...


あんだけ大口たたいたのに...

さわさんに期待してもらってたのに...」


低いトーンでそう話す陽光。

明らかに気持ちが落ちている。



目元を見ると少し赤くなっているようだ。






「全然私は大丈夫やで」


さわは優しくそう返す。





「でも... 本当に僕 情けなくて...


さわさんにもあんなに勉強教えてもらったのに全然だめで...

ごめんなさい」




「情けなくなんてないよ

めっちゃ頑張ってたの知っているし」





「ご褒美もなくなってしまって..


ほんと悔しいです..」




少しだけ涙声になりながら悔しさを露わにする陽光。




目標を決めてそれに向けた努力を尽くし、頑張った。


しかし、結果が上手く出なかった。

そのことが心底悔しくやるせない気持ちになっている。




表情は悲壮感にあふれており、落胆していることが伝わる。




隣でそんな様子をみたさわは、少し体勢を変えようとする。

陽光の隣で、膝立ちになる。



丁度体育座りをしている陽光とさわの顔の高さが同じくらい、少しだけさわの方が高くなっている。



それから、さわは顔を陽光の方に近づけていく。

そのまま、さわの口元は陽光の横顔・耳元に近づいていき...




陽光の頬にさわの唇が、かすかだが確実に触れる。





そう さわは陽光にキスをしたのだ。





さわは、そのまま顔を引いていき何もなかったかの様に、先程までの体勢に戻ろうとする。

一方陽光はまるで時が止まったかのように硬直している。




「ひかるの答案用紙みたよ」


さわは、何食わぬ顔で話始める。



「ちゃんと全部解けてた。

解き方も全て合ってた」


さわはそう語る





「い...今のき...su」


一方陽光は動揺しているようだ。





「間違ってた所は全部計算ミスやった」



「え...ki….ス」


徐々に陽光の顔が赤くなっていく。




「ちゃんと努力した結果は、出てたよ

ひかるが頑張ったことは全然間違って無かった」


「さ...さっきのキ...スです...か」


話がかみ合わない。







「ねぇ! 私の話聞いてる?」


さわはしびれを切らした。



「え...さわさん さっきのキスですよね?」


先程の頬の感覚がキスであると確信した陽光。

初めてのキスに顔全体が真っ赤になっていた。




「そんなことはどーでもええやろ」


さわは何事もなかったかのように冷静なままだ。





「僕 下見てたから、ちゃんとわからなかったんですけど

ほっぺにキスしませんでした?」




陽光は先程の感覚が忘れられず、しつこく聞き返す。


「凄く柔らかかった

絶対キスですよね?」


陽光は興奮が収まらず、さわに問いかけ続ける。







「あーもう そうよ」




さわは観念したのか遂にキスしたことを認めた。



自分が陽光くんに対してキスをしてしまった現実を受け止めるさわ。

段々と恥ずかしさが湧いてきて、ジワジワと顔が赤くなってくる。





「え...え...ほんとに...」


陽光は、そう言って大事そうにキスされた自分の頬に触れ、感触を思い出そうとする。






「お....落ち込んでたから

何とか...慰めようと思っただけや..」


さわは、真っ直ぐに陽光のことを見ることができず斜めしたを向いている。


キスをしてしまったこの状況が恥ずかしすぎてとても耐えられない。


しかし、陽光に伝えたいことがある。



「ふぅー」


そうさわは息を吐き、覚悟を決め口を開き始めた。






「確かに今回のテストは失敗だったかもだけど、ひかるがどれだけ努力してたか見てた

もうめっちゃ頑張ってた

全然情けなくなんてない もっと胸を張りなよ」




さわは、気持ちを落ち着かせながら自分の想いを十分に伝えられるように考えながら話している。


それに対し、陽光は目を点にした状態でさわの話を聞いている。






「挑戦に失敗はつきものや


大事なのは失敗した時には、次失敗しないようにどうすればいいか考えること

後は、パッと遊んで騒いでさっさと失敗なんて忘れちゃうことだと思うの」





陽光はさわの方をずっと真っ直ぐに見て話を聞いている。





「だから」




さわは、再度恥ずかしそうな表情をし顔を真っ赤にし始める。


「さっきのキスで忘れてくれればいいなって」





「あぁ...」




陽光の口から声が漏れる。







「やっぱ好き 大好き」




陽光はそう言って、横からさわにゆっくりと抱きついた。

真横に抱きついている陽光を優しく受け止めるさわ。


2人だけの時間が流れる。

静かで心地の良い そんな時間だ。








その後 立ち直った陽光とさわは一緒にご飯を食べた。

テストも何もかも終わり、久しぶりに気が抜けた2人。


リビングでゆっくりと過ごしている。




いつの間にか2人の体勢は、あぐらをかいて座る陽光の上にさわがひょこっと座る形になっていた。

陽光がさわを後ろから包み込むような体勢だ。






「なあ ひかるって没頭できることとかないん?」


真後ろで包み込んでくる陽光に話しかけるさわ。



陽光はさわの質問に対して少し考えた上で


「んーさわさんですかね」


そう答えた。




「いやそうじゃなくて

趣味的なやつ」


さわはすかさずそう返す。





「んーさわさんですね」


陽光はあくまで真面目な顔をして答える。


「おい ふざけてんのか」


さわはツッコミを入れる。





「えーだってそれ以外無いんですもん」


「ないって

家でいっつも何してるん?」


「勉強か 筋トレか 料理です」


「おし そしたらひかるにゲームという文明の役を教えてしんぜよう」


さわはどや顔をしながら、スキッチの準備を始めた。


「わあ ゲームですか...めっちゃ久しぶりです!」


そう言って穏やかにも確かに顔を輝かせる陽光。

さわは手際よくカーレースゲームのソフトを差し込み起動させる。


「ほい」


そう言って片方のコントローラーを陽光に渡す。


「こいつをハンドルだと思って運転する感じやで」


さわはさっさとやり方の説明を済ませ、早速ゲームを始めた。






レーススタート



「んー 難しい...」



陽光は慣れない操作に苦戦し、顔を少しゆがませながらも一生懸命に集中してそして楽しそうにやっている。


何回もしたことがあり操作に慣れているさわは、余裕そうな表情で苦戦している陽光をニヤニヤしながら眺めている。





「曲がりきれない...」


「ああ..」


「むっず...」


ゴール





さわが、陽光に圧倒的な差を見せつけてゴールした。





「ひかる~~  まだまだなやーー

遠すぎてどこにおるか分からんかったで

運転下手やと社会でやっていけへんよ」



さわは表情を緩ませながらゲーム名物である煽りを陽光に向けてやってみた。

陽光が言い返してくることを期待して、横を見てみると







「やっぱ僕ってダメ人間ですよね...

運転すらダメダメで、社会で到底やっていけません...」


めっちゃ真に受けていた...





「いや 冗談や

ごめんごめん」


さわは慌てて謝り、陽光の頭をなでなでする。


「本当はひかるも出来る子やもんな」


そう言って慰める。






その後、2戦目3戦目と2人はゲームに没頭していった。


陽光はコツを掴むのが、とてつもなく早かった。

数戦戦うだけで、さわも知らないようなカーブの曲がり方を見つけ差をつけてくる。


「さわさん カーブってこう曲がるんですよ」


陽光はそういいながら、さわの方を向いてどや顔を見せつける。

どうやら煽りの方も既に習得してしまったようだ。




「ひかる...




前見なくていいの?」





「あっ」


陽光がまえを見たその時はもう車が壁に激突していた。


「何やっとんねん笑」


そう言いながら、バックでコースに戻る陽光の車の横をさわは颯爽と駆け抜けていった。






時刻は夜の10時半 あっという間に時間が過ぎていた。


「これで最後の一戦やな」


「えーまだまだいけます

あと100戦はいけます」


ドハマりしてしまった陽光は、そう言って食い下がる。


「だーめ ゲームは程ほどに」


さわお母さんのように、陽光に言い聞かせる。


「はいー」


陽光は無邪気にそう返答した。







「この一戦何か賭けません?」





陽光はふと提案した。



「乗った」


さわも間髪入れずに、そう答える。





「じゃあ 私が勝ったら、秘密のお願い聞いてもらおっかなー」


さわは得意げにそう提案する。



「なんですか、秘密のお願いって」


陽光は不思議そうな表情をしながら、聞き返す。


「それいったら、秘密じゃなくなるやろ」


「た..たしかに

でも 教えてくれないと僕も勝ったときのお願い考えづらいです」


「えー まあ何でもええで」





そんな会話をしている間にレースのカウントダウンが始まる。





「じゃあ 僕が勝ったら...」





スタート





「唇にキスしてください」





「え....え!?」


さわは動揺して操作がおぼつかない。

一方陽光は真剣な顔をしながら、的確に最適なコース取りで運転を進める。





「え...えちょっとなんやその願い」





「なんでもいいって言いましたよね 

それに勝てばいいじゃないですか」





陽光は画面に釘付けになりながらそう答える。





さわは、陽光に追いつくために必死に真剣に操作する



しかし、この短時間で急激な成長を見せた陽光を中々捉えられない。




その後も二人は真剣に操作をし続けて残り一周。


2人の差は大きくついたままだ。




ただ、確実に縮まってきており、もしかしたら追いつけるかも知れない。



必死に操作を続けるさわ。



ただ、ふとこんな想いが湧いてきた。







『このまま 負けちゃっても いいかも』











ゴーーーール 






画面に映るその文字を2人は眺めている。






勝ったのは、








陽光だった。






「やったー 初めて勝った」


陽光はシンプルに練習の末勝てたことが嬉しかったようだ。

賭けのことはこの瞬間はすっかり忘れている様子である。




「あっ キス」


思い出した。


しかし、陽光は少し何かを考える様子をみせ、下を向き陽光は話始めた。






「でも、ごめんなさい 

さわさんがしたくないのに強制させるのは、僕も嫌なので賭けのことは忘れてもらって大丈夫です」









「いや

約束は守るよ」




「え」


陽光は予想外の返答に大きく動揺している。





さわは、そんな陽光の反応を意に介さず陽光の膝に真正面から乗る。





「さわ...さん」




さわは、少し恥ずかしそうにしながらもどこか色気のある そんな表情をしている。




ゆっくりと顔を近づけてくるさわ。





そんないつもは見せない意外なさわの表情と行動に少し後ずさりするが、欲求には勝てず段々とさわの方に近づく。





陽光も覚悟を決めた。

その表情には穏やかながら妖艶な雰囲気をまとっていた。






近づき続ける2つの唇は、静かだが確かにぶつかった。





感じたことの無いとても柔らかな感覚。


覚えのない感情がおなかから湧いてくる。


鼻にはスッとレモンの香りが抜けていった。


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