第1話 孤高のイケメンと日本一忙しい女子高生
ここは、私の家の隣。
ドキドキと動悸が全く止まらない。
その理由は、学校一のイケメン 佐藤 陽光くんが目の前にいるからだ。
私の顔面の前に彼の顔面がある。
少しでも動こうものなら、肌が接触してしまいそうだ。
彼の整いすぎた顔 艶やかな唇が徐々に私の唇に近づいてくる。
「あかん..... キスされる.....!?」
4時間前
「帰りのホームルームを終わります 起立! 気をつけ! 礼!」
「ありがとうございましたー」
本作の主人公である上月さわは、挨拶が終わった瞬間あらかじめ準備しておいた鞄を担ぎあげ、一目散に教室を駆け抜けようとする。
すると
知り合いa
「さわさん 今日皆んなで自習室よって勉強会するんだけど どうかな??」
友達b
「さわー カラオケ寄って帰ろうぜー」
知らん男c
「さ さわさん 今日予定空いてたりするかな? 最近話題になってるカフェがあるんだけど、、」
と様々なクラスメイト達から放課後の誘いを受ける。
さわは、その明るい性格と人望からクラスの人気者であったため、そのような誘いを受けることは日常茶飯事であった。
「ごめん! パス! 無理!」
しかし、その誘いをさわは颯爽と全て断り走って教室を後にした。
その道中 さわはある男の子とすれ違う。
彼の名は 佐藤 陽光くん
学校一のイケメン男子だ。
さわと陽光くんとは同じクラスである。
ただ歩いているだけで絵になる美しさ。彼には美少年という言葉では言い表せない程の美しさとかっこよさがあった。
髪は、ヘアモデルなのではと疑いたくなるほど似合ったシースルーマッシュ。もちろん髪もさらさら。
目は、ぱっちり大きく有りながら美しい涙袋を蓄えている。
鼻は、シャープで非常に立体的な顔立ち。
唇は、薄いながらも存分に艶めきを含んでいる。
顎のラインには、余分な肉はついておらず直線的で抜群のフェイスライン。
彼はその浮世離れして誰も手が届かないルックスと寡黙な性格から ”孤高のイケメン”と呼ばれていた。
さわも、そんな陽光くんのことを”めっちゃかっこいい人”として認識していた。
しかし、それだけ。日本一忙しい女子高生であるさわは、恋愛にも彼のかっこよさにも全く興味が無かった。
そんな孤高のイケメン陽光くんの意外にも意外な本性を、今日さわは知ることとなる。
校舎を出て、家までの道をひたすら走り続けるさわ。
「やばーー このままじゃバイト遅刻やで
バイトの前に晩ご飯の準備終わらせたかったのになーー
明日の単語テストの勉強もせなあかん ああどうしよ!」
帰りのホームルームが長引いた。
そのため、ギリギリの時間に入れておいたバイトに遅れそうになっているのだ。
さわは、自分の住んでいるマンションのエントランスにつく。
さわの住んでいるマンションは、12階立てで大きくもないが小さくもない。
3階にさわの家がある。
時短のためエレベーターは使わず、階段を駆け上がり自分の部屋に向かう。
「ただいまーー」
誰一人としていない部屋に、家主の帰宅を伝える声が響き渡る。
さわは、急いで制服を着替えた。その後、バイト帰りの買い物用エコバックと単語帳を鞄に詰め込み勢いよく家をでる。
「さあ! 今日もバイト頑張るか!!」
学校の疲れも感じさせずバイトに揚々と向かう彼女は、日本一忙しい高校生といっても過言ではない。
日々の生活費と学費を稼ぐため、週6でバイトに明け暮れ
一人暮らしのため、掃除洗濯自炊をひたすらこなす
学校は偏差値70の進学校のため、勉強にも一切手を抜かない
そのような日本一忙しい高校生になってしまったのは、一週間前のある出来事がきっかけであった。
~1週間前の放課後~
「はぁーあ今日も勉強つかれたわああ」
いつも通り学校からの帰り道をゆっくりと歩いているさわ。
さわのこれまでの人生を一言で表すと、「転校」
彼女の両親は超自由人で、一瞬の思いつきにより仕事を変えたり引っ越しを決めたりする。
そのため、転校続き、これまで通った小学校中学校は、全部で12校にのぼった。
転校が12校目になる頃には、転入生の挨拶も達人の域に到達していた。
「12校目の学校です!」
この一言で笑いと関心を奪い、クラスメイトに話しかけてもらう。そのようなスキルが勝手に身につけていた。
まさしく両親の自由さに振り回されて生きてきた人生だったのだ。
そんな両親も、さわが高校生になると
「流石に高校は一つの学校に通い続け真っ当に青春した方がいい」
と正常な判断能力を取り戻し、さわ自身人生で初めて転校しない1年を過ごした。
なお両親に期待されたアオハルには未だ縁がない。
「そういえば、今日はかあちゃんととうちゃん家にいるんだっけ」
両親の予定を思い出すさわ。
自由人であるさわの両親はすぐ旅に出てしまうため、数週間単位で家を空けることは日常茶飯事であった。
今回は、1週間前から旅に出ていたはずだ。
さわはそんな時でも、生活できるように最低限の家事を自然とマスターしていた。
「てかそんなことより、今日は帰ってまず宿題はこれとこれをまずやって、あっそういえば今日サンジン(推しの韓国アイドル)の生配信やん 絶対見よ やばテンション上がる!!」
帰宅後のスケジュールに意気揚々としながら家までたどり着くと、家の真ん前にトラックが横付けされてることに気付いた。
「なんや、宅配トラックかなんかかなー」
そんなことを呑気に考えている。
「また無駄なもんかったんかいな」
自分は最近通販でショッピングしていないから、両親の荷物が届いたんじゃないかと推理しつつ「ただいま!」とガチャッと玄関を開けて家に入る。
「この家具はこっちに運んでー 段差気をつけねー」
いきなり聞き慣れない声がさわの耳に届いてきた。
ん.....?
よく確認すると
そこには母親の姿はなかった。
そこにいたのは、さわの家具を運ぶ引っ越し業者と”置き手紙”だけだった。
顔に「困惑」と書いてあるんじゃないかというほどの困った表情を見せるさわ。
机に鎮座する置き手紙に手をやる。
超自由人で放任主義な母からの置き手紙にはこう書いてあった。
「さわへ
母と父は、ボリビアに行くことにしました。
温和な気候と広大な自然が最高で♥
注意!!私たちがいくところは通信がなくて、連絡がとれません。
もしもの時は、いつものようにおばさんが保証人になってくれてるから、頼ってね♥
さわちゃんも連れて行くことを考えましたが、いきなりボリビアは嫌かなと思って止めときました。
日本の高校で青春して欲しいしね
いいさわ 高校時代は人生で最も尊いのよちゃんと青春してね!
そのため、さわちゃんは一人暮らしになります。
この家は一人暮らしには広すぎるから、お引っ越しです。
ただ、心配しないでください!
家賃は、さわが高校卒業するまでの分 前払いしておきました!!
家事も十二分にこなせるさわちゃんなら、何の問題もありません!
思う存分高校生活を満喫してね!
立派になったさわちゃんに会える日を楽しみにしてます 母より
以下新居の住所です
○○○○○」
うわマジか......勝手すぎるやろ うちの親
マジか.....
途方に暮れるさわ
明日からの一人暮らしが自動的に確定したのだ。
どんな高校生でも途方にくれるだろう。
「あいつらボリビアって 急にいくとこちゃうやろ 連絡も取れへんし......
うん!よし! 引っ越すか! 切り替えよー」
覆水盆に返らず
それが、さわが生まれつき両親に振り回され続け続けた末 身につけたマインドがある。
起こったことをいちいち気にしていては、キリがない そんな考え方が無意識のうちにさわの中に定着していたのだ。
「ここが新居かー うん 悪くない」
さわの新居は、比較的新築に近く、オートロック付きのちゃんとしたマンションだった。
ワンルームではあるが、とても綺麗な内装をしている。
家具も引越しで前の家から持ってきた分と両親が事前に購入してくれてきた分を合わせると十分揃っているようがだ。1人で暮らすには何の不自由もない。
「あぁぁ 引越し終わったーー」
ひと仕事を終えて、ホッと一息つくさわ
「晩御飯何作ろっかなー
まずは、近くのスーパーに買い物に行ってと
近くのスーパーどこがあるんやろ、、
って
あれっ
お金は........」
一気に頭を巡らすさわ。
母からの置き手紙には確かに、家賃のことは心配ないと書いてあった。
でも、その他のお金は、
食費は? 光熱費は? 電話料金は? 学費は?
さわの両親は、超自由人で放任主義でバカでマヌケなのである。
完全に家賃以外の費用のことを忘れていたのだ....
「あっっっのバカ親めーー そんなん忘れるってあるかー.....
どうしよう
両親には、連絡できへんし
おばさんには、これまで頼りに頼りすぎてさらにお世話になるのは気が引けるし
んー.....
よし!稼ぐか!
バイト探そー
バイトってどうなんやろ? おもろいんかなー
てか、高校生雇ってくれるバイトってどこあるんやろ
月に何年稼げばええんや」
覆水盆に返らず。
このような窮地の場面でも落ち込まずに、次何するべきなのか考え続ける。それがさわの特徴なのだ。
かくゆうこうして、
さわは日本一忙しい高校生となったのだ
~時を戻そう(1週間後の今に戻る)~
時刻は夜の8時。
「はーあー 今日もバイトご苦労様やで自分」
バイトが終わり、近所のスーパーで買い物をし家に帰るさわ。
重い買い物バックを手に持ちマンションの階段を登る。
さわの手には、まめが数カ所できはじめていた。
「これからご飯作って食べて風呂入ったら 10時ってところかー
そこから勉強 何時間できるかいな」
バイトが終わっても日本一忙しい高校生には、一息つく暇も無い。
帰宅後のスケジュールや今日の勉強計画に頭を回し続ける。
すると、急に頭がクラッとした。
束の間、ズドーンと頭に痛みが襲う。
「な なんやこれ.....」
視界のぼやけは止まらず。頭がクラクラする。全身の力が抜け立っていられない。
さわは、マンションの廊下の端にしゃがみ込み目を閉じる。
しかし、頭痛とめまいは止まらない。
「や やばい こんなの初めてや あかん 立たれへん」
忙しすぎる日常にさわの身体は限界を迎えていたのだ。
これまで経験したことない身体の不調。
しゃがみ込んだまま痛みとめまいが通り過ぎるのを待つ。
「あかん やばいやばいやばい」
俯きながら必死に痛みを堪える
すると
カタッ コトッ カタッ コトッ
後ろから革靴の乾いた足音が聞こえてきた。
さわは、なけなしの力を振り絞り後ろを向く。
焦点が一向に定まらない視界がかすかに捉えたのは、さわと同じ春風高校の制服だった。
まさに、同じ高校の学生が偶然通りかかったのだ。
更に、視界を上に向ける。
そうすると見えたのは、スラッとしたスタイル。黄金比に整った顔面。
同じクラスの孤高のイケメン佐藤陽光くんではないか。
「佐藤くん....?私 同じクラスの上月。 ごめんやけど、てっ 手貸してもらっていいですか......?」
何とか声を出し助けを求める。
経験のない頭の痛みに1人襲われていたさわにとって、関わりこそ薄いが顔馴染みであるクラスメイトの登場は非常に心強かった。
制服の足元が視界を横切る。
よかった、、助けてくれるのか。
一時はどうなることかと思ったが一旦どうにかはなりそうだ。
心の底から安心しているさわ。
しかし、その制服は何もなかったかのようにそのまま横を通り過ぎていった。
そう さわの助けを求める手を無視したのだ。
一気に視界が暗くなる。
もうこれで大丈夫と期待した後の絶望感は、とても凄まじいものがあった。
「どっどうしよう
このまま待ってりゃ....治るのか....これ」
いつもなら、どんなに辛く苦しい場面でも、どうすれば良いか考えつくさわだがこの時ばかりは、途方に暮れるしか無かった。
下を向きしゃがみ続けるさわ。
カタッ コトッ カタッ コトッ
今度は前から足音が聞こえてきた。
陽光くんが戻ってきたのだ。
さわ自身 状況はうまく掴めないが、きっと助けに戻ってきてくれたのだろう。
先程、失った安心感を再度取り戻す。
助けに来てくれた陽光くんを見るため、何とか前を向くさわ。
しかし、その視界が映したのは、陽光くんの背中だった。
彼は再びさわから離れ、歩き去っている。
再び、1人になる。絶望が襲ってくる。
うずくまった体制に戻り再度頭痛をやり過ごそうと試みる。
カタッ コトッ カタッ コトッ
もはや聞き慣れてしまった革靴の足音が再び前から近づいてくる。
陽光くんだ。
何度も離れては近づき、また離れてはまた近づきを繰り返す。
さわは直感した。
もしかして、
こいつ、
キョドってる(挙動不審しているの略)......??
さわは、陽光くんの行動を観察してみることにした。
陽光くんは、遠くでウロウロしている。
すると急にまた近づく。
止まる。
急に振り返る。
また離れる。
さわの意識はいつしか、自分の頭の痛みではなく、陽光くんの奇抜な行動に向いていた。
そのため、意識から外れた痛みは段々と和らいできていた。
その後もどうやら陽光くんは、話しかけようとしてはやめ、話しかけようとしてはやめを繰り返す。
さわは、頭の痛みなどもはや忘れていた。
意識にあるのは陽光くんの動きだけ。
次どのような行動をするのかだけが気になっていた。
「話しかけるか 無視するか どっちなんかい!!」
あまりにも焦れったい陽光の行動に遂にさわがツッコミをいれた。
さわの声にビックリする陽光。
恐る恐る近づいてくる。
「だい.....ぶ.....すか........」
異常に声が小さく、ほとんど聞き取れない。
「なんて言ってるかわからんよ!」
耳を陽光くんの方へ傾けながら、語りかけるさわ。
その言葉を受け、若干硬直する陽光。
陽光はどうやら、何かを考えているようだ。
少し経った後、陽光はまたさわに近づきはじめる。
ゆっくりとさわの元まで歩き、目の前まで近づいてきた。
するととっさにしゃがみ込む。
陽光くんの美しすぎる顔が、急に目の前に来た。
ただ、目が合わせられないのか若干うつむいている陽光。
そこから、その整った顔がさらに段々と近づいてくる。
『きゅ、急に何やこいつ.....まさか、キスしようとしてんのか....』
頭の痛みが治まったと思ったのもつかの間。
目の前のイケメンの意味不明な行動に、動悸が止まらない。
ドキドキしているさわの頬は、自然と赤みを帯び始めていた。
陽光くんの艶やかな唇が距離を詰めてくる。
フローラルの香りがする。きっと彼の柔軟剤の匂いだろう。
少しでも動こうものなら、唇が触れてしまいそうだ。
『あかん キスされる........』
陽光くんの唇が私の唇にーーーー
….こない
”すっーと”陽光くんの顔と唇は、さわの口元を通り過ぎた。
その唇は、さわの顔に沿うように動き続け、顔の真横に来たところで止まった。
2人の制服がかすかに触れ合う。
そんな陽光くんとの距離感の近さに、さわはさらに動揺する。
「大丈夫ですか」
陽光くんは耳元で語りかけた。
息遣いが、敏感なさわの耳をくすぐる。
そのくすぐったさに、さわは思わず後退りして距離をとった。
「なんて言ってるかわからんからって、耳元まで近づくやつがあるか!
普通声大きくするのが定石やろ!
耳元に来ても声小さいし」
先ほどの突発的な行動に冷静なツッコミを入れるさわ。
その顔の赤みは先ほどよりさらに増したように見える。
「す...す...すいません
距離感とか自分あんまわからなくて」
陽光くんは、相変わらずの小さい声で謝る。
その様子は、まるで怯えた小動物のようだった。
表情は失敗に負い目を感じ、いつも以上に暗くなっている。
「あーごめんごめん つい強めにツッコんでしまった 怒ってるわけやない
私のためにしてくれたことで怒らへんよ
てか、ありがとな!!なんか知らんけど佐藤のおかげで、さっきまでの頭痛か全部吹っ飛んだわーーほんま助かった」
陽光は怒ってないことを知り、安堵の表情を見せた。
「ただ、驚いたわぁぁー何であんな距離感近いん?」
「く.....クラスメイトの女子とかすぐ近付いてくるし、そ.....それが普通なのかなと思ってました。」
相変わらずボソボソと話すが、話してるうちに絶望感が漏れ出ていた表情が段々と明るくなってきた気がする。
「てか、同じマンションなんやな」
「そうですね」
さわの体調不良事件も無事解決した。
陽光とのさわは、自分の家に帰るため、ほぼ同時に立ち上がる。
「ホンマ助かったわ
ほな、また学校でなーー」
陽光も会釈を返す。
陽光くんの誰も知らない一面
私だけが知る一面をさわは今日知れた気がした。
309号室
自分の部屋の前に立つさわ。
隣に気配を感じる。
そこには、308号室の扉を見つめる陽光くんの姿があった。
「まさか....隣の部屋なんか......?」
「そうみたいですね」
ここまで、読んでくれてありがとうございます
果たして今後陽光くんとさわの関係はどうなるのでしょうか......?




