急な暴露話どうした?
私は今、困っている。
今まで私がやってきた“無能な女ムーブ”は、全部無意味だった。
いや、無意味どころか——私は今、魔王軍幹部を追い詰めている。
なぜだ。
なぜ私の人生はこうなのだろう。
活躍すべき時には全く活躍せず、活躍しなくていい時だけ、全力で活躍してしまう。
そして、今、私が言えることはたった一つ。
キャサリンが本物の裏切り者で、私は裏切り者だったはずだ。
つまり私は——
裏切り者の裏切り者。
もうキャパオーバーである。
……やばい。私がこの自己分析に全力を注いでいる間にも、キャサリンが何か重要そうな話をしている。
「——だから、このままじゃイーニバル様は——」
はいはい大事な話ね。聞こえてる聞こえてる、でも私今、自分の肩書きが“裏切り者(の裏切り者)”って新ジャンルになった衝撃を咀嚼してる最中なの。
ロバートがついにキャサリンの長話を遮った。
「なんで君は——裏切りなんていう卑怯で、卑猥な行為をしたんだ。
信じてる味方を裏切って、敵に利益を与えるなんて、人間として許されない行動だ!」
おい待て、その言葉は今の私に効く。
めちゃくちゃ効くからやめろ。
だがロバートは止まらない。
「たとえそれが利益になる行為でも、合理的判断でも——それは君の頭の中だけで完結してる話だ。
世間一般に通じるとは思わないでほしい。裏切りとは、それほどまでに——」
追い打ちやめろ!
いま私のHPがゼロどころかマイナスになってるんですけど!?
もういい、黙ってられない。
「ロバートてめえ!
冒険者って職業はなぁ! 誰だってなれる、簡単な仕事なんだよ!
それでちょっとなんかうまくいってるからって、調子に乗るなよ!
冒険者なんてな、子供がなりたい職業ランキングではナンバーワンだよ。
でも大人になってなりたい職業ランキングなら——最下位だ!
それに比べてこっちはなぁ! 実力主義じゃなく年功序列なんだぞ!?
私がどんなにエリートでも、上司の機嫌ひとつで“デリート”されるんだ!
努力?実力?そんなもん、上司の昼飯の味次第で吹っ飛ぶんだぞ!!」
……あれ?
なんで私、キャサリンじゃなくてロバートにキレてんだっけ。
キャサリンはなぜか拍手しながら、私を褒めてきた。
「さすが、私の妨害を全部妨害してくれた女ね」
ややこしい方だなぁ。
お前魔法使いなんだから、もっとわかりやすい言葉を使え。
キャサリンは得意げに続ける。
「あなたの狙いはわかってる。関係のない話で私の気を引いて、
その間に仲間を私の背後に回す時間を稼ぐつもりね」
いや違う。全然違う。
むしろ私は、何も考えてない。
「でもね、シークレ——あなたの潜伏、バレバレよ」
キャサリンが背後に雷魔法を叩き込むと、
暗殺者のシークレが煙をあげて倒れた。
……何が何だかわからん。
もしかしなくても、私たちはピンチである。
こんな危機、ギルドの新人研修中に、
“達人”と呼ばれる上司の不倫現場を見つけた時以来だ。
キャサリンが、ゆっくりとイーニバルへ歩み寄る。
その体が黒い霧に包まれ、やがて二つの影がひとつに溶け合った。
「見せてやろう……なぜ私の首がないのか。
それは——今までずっと“分身”を作っていたからだ。
だがもう、その必要はない。
おまえたちに、最大の恐怖と……敬意を」
低く響く声とともに、首なし騎士と魔法使いの融合体が現れる。
全身から漏れる魔力が、空気そのものを震わせた。
——ヤバい。これは本当にヤバい。
私の脳のシナプスが、恐怖に追い詰められて加速し始める。
そして気づいてしまった。
この状況を……解決はしないけど、私にとっては大事な“真理”に。
(……待てよ?
食事に呪いが入ってたのはキャサリンの妨害。
宝箱を開けないように注意したのもキャサリンの妨害。
……ここまでくると、私がロバートに水ぶっかけたやつも、
ぜんぶこいつのせいにできないかな?)