スモールと屋上と。ときどきノッポ
「ノッポのバカヤローッ」
あたしは今日も弾けた。
いつもと変わりない旧校舎の屋上は、あたしのテリトリー。だから好きに出来る。誰も来ない。
「ノッポの糞っ垂れーっ」
そうです。私は今日も我慢出来なくなりました。だからこうやって────
「スモール。俺、恥ずかしいから……あんまりノッポノッポ言わないでくれないかな」
あー…ここに唯一来てあたしの怒りを煽る馬鹿がいた。
「何?ノッポ…。あたし、今おまえに凄く腹立っててストレス発散してるから、邪魔しないでくれる?」
生温い春風があたしの黒髪をはためかせる。
「そんなつもりじゃないんだけど…そのぉ」
ノッポがふにゃふにゃと蒟蒻のように体を揺らす。
ノッポはあたしの隣の席の奴。ほんの数日前まではそれだけだったのだが、そうもいかなくなった、神様というのは本当に残酷だ。
ノッポはあだ名の通りに身長が高い。180cm後半との噂。だが幅が平均より短いため、痩せすぎだとの声が上がっている。
髪はいつも癖っ毛でクルクルしているのは御愛嬌。肩に触れるか触れないかの長さ。見ていて汚ならしい。
そして黒縁メガネ。見た目完全なオタクだ。
あたしはコイツが嫌いだと感じている。と、言うかライバルだ。あたしの宿敵だ。
あたしの身長は147cm。低いったらありゃしない、服だってまともに着れるサイズがないし…毎回毎回、皆に見下ろされる虚しさ。
この糞のっぽにも是非、味わってもらいたい。
「スモールぅ…」
「だから、まずその呼び方やめろ。」
あたしがコイツをノッポと言うように、コイツもあたしをスモールと呼ぶ。
「だって可愛いよ、チビよりは。」
てっめぇ、しばくぁぁあっ!
怒りは煮えたぎる一方だ。冷静に状況説明する余裕があるのが不思議なくらいだ全く。
「スモール、もう昼休み終わるよ?次は化学室に行って実験だから早めに行かないと…」
屋上はあたしのストレス発散場所だった。
なのに、なんであたしは屋上でこんなにもストレスを溜めているのだろうか。
全てはこの糞ノッポのせいだ。
右手が凶器を持ちたくて疼き始めた。仕方ないから持たせてやろうと手を足に運ぶ。左足の上履きを脱いで力強く握りしめる。
ソフトボール投げ45mの威力を見よっっ!
上履きをノッポに向かって投げつけた。綺麗な回転。爪先から踵がクルクルと回転をして真っ直ぐノッポの顔面へのめり込んだ。
素晴らしくスカッとした瞬間だった。
「さぁて、次は実験だから急がなきゃな」
今までにないくらい笑顔を溢して、仰向けに倒れたノッポの身体を飛び越して校舎内に向かう階段へと足を進める。
やはり、屋上はストレス発散場所である。
やはり、ノッポはウザイ存在だ。