第98話 平和の鐘
アンゴル・モアを倒したアルコバレーノはそのまま力尽きて空から落下し、東京湾の海へと落ちていく。
日本軍が救助しようにも間に合わず、さくらたちは気を失ったまま海へと落ちていった。
しかし何故かさくらたちは無事で、日本軍によって救助されて病院へ運ばれていった。
「――さん! ――いさん! 桃井さん!」
「あれ……澄香さん……? ここは……?」
「お目覚めになりましたね! 皆さんあれから1週間は眠ってたのですよ?」
「そうでしたか……」
「あなた! 桃井さんが目覚めました!」
「なんだって!? 本当か!?」
「はい! ほら!」
「よかった……! みんなに死なれたら俺……産休してる社長に顔向けできないところだった……!」
「水野さん……」
「よかった……。みんな無事で嬉しい……」
「茶山……先輩……?」
「茶山さんは仕事が終わったら、すぐにみんなの様子を見に行ってたんだぜ。『先輩としてみんなを見守る』って言って面会時間が終わるまでずっとそばにいたんだ」
「先輩……ありがとうございます……」
「こちらこそ平和を守ってくれてありがとう……。私には出来なかった……それをみんなは成し遂げた……。先輩として誇らしい……」
晃一郎と澄香はさくらたちに必死に声をかけ、意識を取り戻したさくらは駆けつけてくれた茶山に平和を守ったことを感謝される。
茶山はさくらたちを本気で心配し、目を覚ましたことで涙を流していた。
普段感情を表に出さない茶山の涙にさくらは涙がこぼれ、いい先輩に恵まれたと感じた。
「皆さん……ご無事だったんですね……」
「ええ……。でもどうして私たちは無傷なのかしら……?」
「わからない……何でだろう……?」
さくらが涙ぐんでいると徐々に他のみんなも目を覚ます。
とても高いところまで空を飛び、アンゴル・モアとの戦いで勝利して力尽きて落下したはずなのにどうして無傷なのか不思議に思った。
普通はあんなに高いところから落ちたらこうして生きているはずがないし、海に落ちても体がバラバラになってもおかしくないのだ。
さくらたちはあまりにも不思議なことに頭を悩ませていると晃一郎はさくらの肩を軽く掴む。
「みんな、これからみんなが無傷な理由を見せるから落ち着いてほしい。」
「え……?」
晃一郎が日本軍がくれた映像を見せるためにノートパソコンを取り出し、さくらたちがどうして無事だったのかを確認する。
そこにはさくらたちが落下しているところから映り、さくらたちは映像をじっと見つめる。
『うわっ! 何だあの爆発と光は!?』
『わからないけど……これでは何も見えない……!』
『この衝撃と魔力……もしかして……!』
アンゴル・モアとの最後の決着の時に東京湾では日本軍に保護され戦艦に乗っている晃一郎や澄香、さらにシロンと灰崎記者の姿だ。
映像が映った直後にアンゴル・モアを倒した時の爆発が映り、晃一郎たちも勝利を確信する。
『マイナスエネルギーが消えた……!?』
『あの子たち……やったのね……!』
『あなた! もうマイナスエネルギーの反応がありません! あの子たちは……やりました!』
『やった……! やったぞぉぉぉぉぉぉっ!』
『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』』』』
晃一郎と澄香がマイナスエネルギーを感知し、アンゴル・モアのマイナスエネルギーが完全に消えたことを知る。
そして海軍はアンゴル・モアの反応を確認すべく日本空軍の映像を見ると、そこには先ほどまでいたはずのアンゴル・モアは爆発とともに完全に消えていたのだ。
晃一郎たちはアルコバレーノの勝利を喜び合う。
『水野くん! ついにアルコバレーノが二度目の奇跡を起こしたわね!』
『はい……! あの子たちは本当に世界を救ったんですよ……! 社長、見てますか……? あの子たちは社長が知らない間にこんなにたくましくなられましたよ……。だから――っ!? あれって……まずい……! 人が落ちてくるぞ!』
『えっ……?』
『すみません! 双眼鏡を貸してください!』
『あ、はい!』
灰崎記者によって祝福されて晃一郎は喜んでいると、空からさくらたちが落下しているのを確認し、澄香が海軍から双眼鏡を借りる。
すると澄香は顔を急に青ざめ、晃一郎は魔力を察知して慌てる。
『落ちてるのってまさか……アルコバレーノだっ! このままでは海に落下して死んでしまう!』
『それはまずい……! 今すぐアルコバレーノの救出と回収をするんだ!』
『無理です! 8人だととてもじゃないですが間に合いません!』
『くっ……! 我々の科学ではこのスピードが限界か……! 万事休す……!』
晃一郎はさくらたちが落下していることを確認し、海軍は戦艦を動かして救助しようも全員同時に救出するには間に合わなかった。
何隻もあるにも関わらず動けないのは8人も同時に落ちていたので海の上を猛スピードで突っ込めば追突して二次災害が起きてしまう。
晃一郎たち一般人も乗っていて二次災害に巻き込めないため動けず、急いで救出するには最悪の条件だった。
すると空が神々しい黄金色に輝き、さくらたちは不思議なオーラに包まれてゆったりと優しく海の上へと落ちていった。
落下スピードがまるで天使が舞い降りたようなスピードで落ち、海面の衝撃はなかった。
『あれは……まさか女神様か……!?』
『わからない……。でも安心するし、何よりも心が浄化されていくようだ……』
『それよりも急いで救命ボートを出すんだ! あの子たちを海の底へと沈めてはならん!』
海軍が急いで救助に向かい、さくらたちを救助することに成功した。
映像が終わり、晃一郎はノートパソコンを閉じる。
「これがみんなが無事だった理由だ」
「そうだったのですね……」
「シロンくん、あの力は何かしら?」
無事だった経緯を見せた後に神々しい光の正体がわからなかった灰崎記者がシロンに尋ねる。
「きっとエイレーネさまの御力かもしれません」
「え……? それって何……?」
「僕の国であるレインボーランド神話に伝わる愛と平和の女神で全能なる僕らの主です。アンゴル・モアを地獄に封印し世界中にプラスエネルギーを振り撒いた存在なんです」
「なるほどね。レインボーランドの……。わかったわ! 必ずあの子たちの躍進を記事にします!」
「よろしくお願いします!」
灰崎記者はアルコバレーノの勝利と栄光を記事にする約束をし、シロンは灰崎記者と握手を交わしてアルコバレーノの勝利を祝う。
そんな中でさくらたちは助けてくれたエイレーネに感謝を告げる。
「わたくし……これからはきちんと女神様に感謝します……!」
「うむ……。宗教や宗派は違えど真理はいつもひとつなのだからな……!」
「世界中のみんながそれをわかって……笑顔になれる世の中になれるかな……?」
千秋が世界中にプラスエネルギーを本当に届けたのか不安になり下を向くと、さくらはテレビをつけてニュースを見る。
するとさくらは元気を取り戻し千秋を励ます。
「なれるよ! 私たちはそんな世界を守ったんだから! だってほら! テレビ見て!」
『臨時ニュースを申し上げます。一週間前のアルコバレーノとアンゴル・モアの戦いは――見事アルコバレーノが勝利を収めました。アンゴル・モアは完全に消滅し、世界中に愛と平和、そして希望の光を与えました。戦争や治安の悪化した多くの国々は和解し、悪人たちは反省し、人々にここまで眩しい笑顔が見れるようになりました。西暦から紛争や飢饉の多い中東やアフリカ地域も復興と発展が期待されます』
「じゃあボクたちは本当に世界を……!」
「私たちが……平和に導いたのね……!」
「うぅ……嬉しいです……! 先輩方の努力は無駄じゃなかったんですね……!」
「はい! 皆さんの努力は無駄なんかじゃありません! 全部本当に成し遂げたんですよ!」
ニュースを見てさくらたちは感極まり、平和を守り抜いたことに安心して涙を流す。
病院の先生や看護師、他の患者からも拍手で迎えられ、面会には事務所の先輩たちだけでなく家族や学校の友達も訪れ、女子高校野球世界大会から帰ってきた暁子もお見舞いに来る。
意外にもきらめきコーポレーションの名誉会長のきららも面会に訪れ、『心配した』と嬉しそうに涙ぐんでいた。
勝利から2週間が経ち、栄養補給とリハビリ、メンタルケアなどを経てようやく退院した。
退院してすぐに首相官邸で晃一郎の祖父である夜月街雄総理大臣と国際連合、虹ヶ丘エンターテイメント、日本軍、日本政府の行政機関、世界中の政府や国際組織などが集まって感謝状を授与した。
アルコバレーノの戦いはこれで終わるのでした。
つづく!




