第97話 最後の希望
「いくぜ! おらぁっ!」
「援護なら任せて!」
「助かるよ!」
「無駄な事を! ふんっ!」
「何のっ! それっ!」
「ぐっ……!」
「やった! ダメージが通ったぞ!」
「ナイスだぜ橙子!」
「この日のために走り込みしてたもんね!」
「なかなかやるではないか。この私にダメージを負わせるなど。だが……ふんっ!」
「うわっ! 危ないっ!」
橙子はギリギリのタイミングでマイナスエネルギーを避けながら三節棍を回しながら攻撃を防ぐ。
素手でも攻撃が通るようになり、弱体化しているわけじゃないが徐々にアンゴル・モアを追い詰めていく。
「雪子ちゃん!」
「はい! さくらさん!」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
「うぐぅっ……!」
さくらと雪子の連携技でアンゴル・モアにもダメージを与える。
すると雪子はみどりの方へ振り向きチャンスを与える。
「今です! 葉山さん!」
「当たりなさいっ!」
「ぐはぁっ!」
「奴は確かに強いが完璧ではないはずだ! このまま押し切るぞ!」
「ゆかりちゃん! 手裏剣での援護ありがとう! はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐはぁっ!」
海美の剣とゆかりの手裏剣での援護が決まり、アンゴル・モアにも大分焦りが見えてくる。
それでも自動回復魔法で回復はしているが、果敢に攻め続けて確実にダメージを受けている。
さくらたちは最大魔力を使い、ついに倒せるかもしれない状況に追い込む。
「これでもくらいやがれ! アトミックファイヤーインパクト!」
「私だっていくよ! スマイルサンダーブレイカー!」
「覚悟なさい! ビッグウェーブ・エクスカリバー!」
「これで終わらせます! グレートタイフーンアロー!」
「まだまだだよ! ビッグバンシャイニングバスター!」
「貴様はもう終わりだ! 真・邪気退散斬!」
「みんなの希望を壊させはしない! ウルトララブ&ピースハリケーン!」
「皆さんのお役に立てて嬉しかったです……。だから……あなたには消滅させてもらいます! ダイヤモンドダストデュランダル!」
「くっ……! ここまでの力とは……」
渾身の必殺技を一気に放ち、アンゴル・モアに向かって合体技で攻撃をする。
この一斉攻撃が決まれば必ず消滅するほどの威力が出るはずだった。
しかしアンゴル・モアはさっきまでの追い込まれた表情から一転し、この時を待っていたかのような余裕の表情で攻撃を素手で受け止めた。
「だが……甘いわっ!」
「何ですって!?」
「バカな……!」
「ふはははは! 私はこの時を待っていたのだ! お前たちが最大必殺技を放ち、魔力を消費してとどめを刺しに来ることを読んでいたのだ! お前たちの勇姿は見事なものだ! だが私の無限の絶望の方が何枚も上手の様だったな! 残念だがお前たちはここで終わりだ! 地獄で後悔するがいい!」
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」
さくらたちが放った最大攻撃魔法を軽々と受け止め、8倍の威力でカウンターをする。
ギリギリのところで防ぐも、あまりの威力に防御魔法を貫通してしまう。
受けたダメージが大きすぎて立つことも出来ない状態になったが、誰も死ななかったのが奇跡のレベルだ。
「このまま私たち……負けちゃうのかな……。」
「何も守れなかったのか……」
「苦しい……もう限界だ……」
「みんなの笑顔……見れなくなるのかなあ……」
「このままでは皆さんに顔向けができません……」
「もう……私たちは負けたのね……」
「さらばだ……愛しい人たちよ……」
「皆さん……! 私はまだ……諦めたくありません……!」
さくらたちが戦意喪失している中で雪子だけは立ち上がり、諦めない心でアンゴル・モアに立ち向かった。
しかし雪子も立つのがやっとの状態で、サーベルを杖代わりにして立つのが精いっぱいだ。
雪子は足を痛めてしゃがみ込み、さくらたちは雪子でさえ限界を迎えていてマイナスエネルギーが心に溜まり込み、胸が苦しくなって何もできなくなってしまった。
『雪子……雪子……。私の声が聞こえますか……?』
「お母……さま……?」
『雪子、あなたは充分頑張りました。しかしここで諦めてしまっては王家として、白銀家としての誇りを失ってしまいます。今こそあなたの声を活かすときが来たようです』
「しかし……どうやって私の声を……?」
『私があなたに歌ったあの子守唄を歌いなさい。あの歌はマイナスエネルギーを浄化させる聖歌なのですよ』
「まさか……あの歌を歌えと言うのですか……?」
『その歌にはアンゴル・モアを弱体化させる能力があります。さぁ時間がありません。あなたの歌声で仲間を癒し、アンゴル・モアの絶望の闇を振り払いなさい』
「わかりました……! あの歌で世界を……守ってみせます!」
雪子は自分にしか聞こえなかったが、母であるシロガネに言われたとおりに歌う準備をするために立ち上がる
もう既に限界を迎えているはずなのに、何度転んでも立ち上がる諦めない心にさくらたちは心を動かされ、絶望して諦めてしまった自分たちが恥ずかしいと思ってしまった。
雪子は足を震わせながら深呼吸をする。
「お前たちがどう足掻こうと私には勝てぬ。何をするのかは知らんが……もう虫の息で何も出来まい。せいぜい死ぬまでここで世界中の絶望を見学するといい」
「す~っ……Ah~~~~~~~~~~♪」
「雪子……ちゃん……?」
雪子は人間界で言うとイタリア語によく似た言語で歌い始める。
雪子は赤ちゃんの頃から母であるシロガネの子守歌で聴いていて、無意識のうちに歌詞も音程も覚えていたのだ。
するとさくらたちの傷は回復し、心も絶望から希望へと変わっていく。
「何でしょう……この歌声は……!」
「痛みや苦しみが嘘の様に……!」
「見て! アンゴル・モアの様子が……!」
「うぐっ……! やめろ! その歌だけはやめろっ! やめろと言っているのだっ! うっ……うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
雪子の歌声にアンゴル・モアのマイナスエネルギーが弱体化し、そしてアンゴル・モアは雪子の歌声に不快感を示す。
同時にアンゴル・モアは悶え苦しみ、そして雪子の歌を止めようと必死に攻撃をする。
しかしアンゴル・モアは理性をなくしていて、雪子に攻撃が全く当たらなかった。
歌を聴くのがあまりにも苦痛だったアンゴル・モアは両腕を広げておぞましい声で叫ぶ。
「うう……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「きゃっ!」
「何だよ! このおぞましい地獄の様な声は!?」
「みんな! 世界中の町や村が……!」
「はぁ……はぁ……! その歌をやめろ……! 忌々しいエイレーネの魔力を使うな!」
「まずいぞ! 早くバリアを張らねば!」
「あんな規模の攻撃を防げるはずがないわ!」
「あーもう! これじゃあみんなを守れないよ!」
アンゴル・モアが自棄になって放った大量のマイナスエネルギーが世界中の町にばら撒かれ、炎や雷、隕石などが降ってきて世界中の街を滅ぼそうとする。
最後の抵抗として世界中の主要都市を狙い、避難していた人々は巻き込もうとしたのだ。
さくらたちはバリアを張ろうも規模が大きすぎて間に合わず、世界は滅亡するんだと諦めかけた。
しかし下を見ると人々の上には神々しい7色のバリアが張られていたのだ。
「何……? この七色のバリアは……?」
「このバリア……どこかで……?」
「思い出した! エイレーネさまが私たちにしてくれたように、みんなを守ってくれたんだ!」
「私たちは女神さまにも守られたんだね……!」
「よっしゃー! このままいくぞ!」
エイレーネの最後の力なのか、狙われた都市部はすべて守りきれた。
その光景を見たアンゴル・モアは怒り狂い、ついに本気で殺そうと最大魔力でとどめを刺そうとする。
「はぁ……はぁ……! よくもこの私に屈辱と苦しみを味合わせたな! もう許さんぞ! お前たちの息の根をすぐに止めてみせよう!」
「私たちは負けない! 平和を待っているみんなのためにも……私たちの帰りを待っている仲間のためにも……アンゴル・モア! あなたを倒して世界を救う!」
アンゴル・モアは怒り狂ったように叫びながら黒い破壊光線を吐き出す。
さくらたちは攻撃を防ごうにもプラスエネルギーはもう僅かしかなく、もはや抵抗する力も残っていなかった。
負けることを覚悟した瞬間、またもやエイレーネがさくらたちの心に話しかける
「アルコバレーノの皆さん。白銀雪子さん。あなたたちに最後の力を与えましょう」
「これは……?」
「身体が軽い……!」
「不思議だ……自然と力が湧いてくる……!」
「これなら……いけるわ!」
「先輩方! このままいきましょう!」
「「「うん!」」」
「おのれアルコバレーノ! この私がお前たちの最後を看取ってやるわ!」
「そうはさせない! 一人だけの力でも……みんなで合わせた力でも……前に進み、世界中を幸せにする事だって出来るんだ! だから私たちは……絶対に負けない!」
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」
「無駄なことをするなっ! もうお前たちに希望はない! 今すぐに死ねえっ!」
「「「アルコバレーノアルテマバースト…フィナーレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」」
「うぐぅっ……! うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
アルコバレーノの最後の力とアンゴル・モアの最後の力がぶつかり合い、お互い一歩も譲らない膠着状態になる。
最後の魔法は最初はアンゴル・モアのペースとなり、さくらたちは徐々に押されていく。
それでも最後まで諦めず、自分たちを信じて心の中で全力で叫ぶ。
「希望を導く無限の光! 輝けぇぇぇぇぇぇっ!」
「「「アルコバレーノぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
最後の魔法でアンゴル・モアはプラスエネルギーに包まれて完全に消滅し、ついにアルコバレーノは絶望の女王に勝利を収めた。
最期の攻撃の際に不思議とアルコバレーノを信じて応援してくれたファンの人々の叫び声も聞こえた気がした。
避難してもなおさくらたちの戦いを祈るだけでなく、プラスエネルギーをわけてくれたのだろう。
最後の力を使い果たしたからか全身に激しい疲労感と、起きる事すらできないくらい意識がなくなり始め、さくらたちは落下していった。
「アルコバレーノ……よくぞこの私を倒した……。だがどんな生物にも……プラスエネルギーがあれば……マイナスエネルギーがあるのだ……。生物という存在がある限り……マイナスエネルギーは残り続ける……。それ故に……私は不滅……何度でも蘇ろう……。私が再び蘇りし時……お前たちはもう既に魔力を失い……もはや戦えまい……。その時までせいぜい……希望を持って生きるがよいわ! ふはははははははははっ! ……ぐふっ……!」
さくらたちが落下している中で最後の抵抗としてアンゴル・モアはさくらたちの心に人間に絶望の感情がある限りもう一度現れることを宣言する。
実際に人間たちのネガティブな感情から生まれたアンゴル・モアなので、またマイナスエネルギーが溜まってくれば生まれ変わる。
人間に感情がある以上、ポジティブもあればネガティブもある。
しかしポジティブでさえ時には身を滅ぼし、ネガティブも時には自分を上手く守れることもあるので一長一短でもある。
それでもさくらたちは、たとえ自分たちがいなくても人々はポジティブな感情を忘れず、もう一度アンゴル・モアと戦う人が現れると信じながら空から海へと落下していった。
つづく!




