第94話 ロゼリアの町
ロゼリアの町に着くと高い魔力と花の香りが漂い、さくらたちは花の香りに癒される。
ロゼリアの町ではたくさんの魔法使いが生まれる町で、さくらは懐かしさを感じる。
大きく広がっている花畑と箒に乗って跳んでいる人々が楽しそうに魔法を使っている。
子どもたちは杖の訓練をしていて、老人たちは長い杖で足腰を支えつつ魔法を使い、まるで絵本の中にいるような世界観だった。
町並みはドイツやオランダ、さらに中欧や東欧などヨーロッパ的なもので、おとぎ話の世界の雰囲気を味わう。
「うわぁ……! お花畑が綺麗ですねぇ……」
「建物は洋風から和風など世界中の要素が詰まっているね!」
「様々な文化が融合してきたのだろう。町並みもかなり美しいぞ」
「童話の中にいるみたい……」
「ここにピンクオーブがあるとしたら私は……」
「そうか、さくらはまだ試練を突破してなかったな。じゃあ、みんなで探そうぜ!」
「「「うん!」」」
さくらたちは町の人々にピンクオーブの在処を探すために町を散策する。
さくらと雪子は二人でピンクオーブのありそうなところを探し、みどりと千秋は町の人に聞き込み、海美とほむらは反対方向へ、そして橙子とゆかりは街並みを散策しながらそれらしい建物を探す。
しかしさくらと雪子以外の魔力が強かったのか、町人の女性がさくらたちに近づいてくる。
「すみません、その魔力の強さはもしかして今までの試練を乗り越えたんですか?」
「はい。私とこちらの雪子ちゃん以外は乗り越えました」
「やっぱりね。皆さんがここに来た時に顔つきだけでわかりました。ピンクオーブを探していることも」
「えっ……!? どうしてその事を……!?」
「この町では魔法を自在に操るために読心術も学んでいるんです。そうすれば相手の魔法もわかるようになりますからね。ピンクオーブは町の中央にあるフクシア宮殿に飾ってあって、今まで集めたオーブがないとピンクオーブが眠っている開かずの部屋には入れません。おそらく君が一番魔力が高いけど、まだ試練を突破していないのかな? 私はあなたを応援しますね」
「なるほど、ありがとうございました」
さくらは町の女性にピンクオーブがあるフクシア神殿へと案内され、すぐにフクシア神殿に向かう。
しばらく歩いてフクシア宮殿に着き、豪華ながら桜の並木が綺麗に並びんでいて花壇にはコスモスとナデシコの花が咲いていた。
フクシア神殿はまるでヨーロッパの城のような建物で、とても神殿とは思えない風格にさくらたちは少し息を飲む。
「この中に入るには今まで集めたオーブが必要みたい。みんなの手元にあるかな?」
「ほら、この通りだよ」
「みんなのオーブを借りるね」
「うん!」
「さくらちゃん! 今のカバンだと荷物いっぱいだと思うから、オーブ用の袋を買ってきたよ!」
「ありがとう千秋ちゃん! じゃあみんな、行こうか」
全てのオーブをさくらの手元に集め、千秋が買ってきた袋にオーブを入れてフクシア神殿へと入る。
入り口には傭兵らしき男性が見張っていて、特別な事でもない限り入れそうになかった。
さくらは傭兵らしき男性に怖がりながら声をかける。
「すみません、この中に入りたいのですが……」
「その魔力……なるほど、あなたが桃井さくらさんですね」
「どうして私がわかったんですか!?」
「魔力を感じればわかりますよ。ずっとあなたをお待ちしておりました。ただ残念ですが、桃井さくらさん以外の方は特例で立ち入りが出来ません。どうか応接間でお待ちください」
「そうですか……。ではさくらさん、わたくしたちは応接間でお待ちしています」
「うん。それじゃあ……行ってきます」
「では桃井さくらさん、私について来てください」
特例でさくら以外は開かずの部屋に入ることが出来ず、応接間でさくらの試練突破を待つことになった。
さくらは一人で傭兵に開かずの部屋まで案内される。
神殿の中は天国の中にいるように身体がフワフワと浮いてるようだとさくらは肌で感じる。
天井は天使が舞っていスタンドガラスが張ってあり、床のカーペットはピンク色と心が落ち着いてくる。
奥へと進んでいくとようやく開かずの部屋に着き、傭兵はさくらに礼儀正しく案内を終える挨拶をする。
「では桃井さん、私はこれにて失礼いたします。ローザさまのご加護があらんことを」
「ありがとうございます」
傭兵はさくらから離れ、さくらは開かずの部屋の扉を開けようとする。
すると鍵もないのに扉は開き、罠かもしれないと思ったさくらは変身して戦闘できるようにする。
この部屋はローザのみ入ることが許された部屋で、ローザが人間界に追放されてから開かなくなったことから開かずの部屋と呼ばれるようになっていたと傭兵の話を思い出す。
それでもさくらの手に反応するように開いたことで、さくらは部屋に入る。
中に入ると想像できないほど何もない質素な部屋で、真ん中にはピンクオーブがテーブルの上にポツンと置いてあった。
さくらは不思議に思いながらピンクオーブを手に取ると、ピンクオーブはまばゆく光りだした。
その光はピンク色の人影から人の姿へと変え、その姿はピンク色の女神のようなロングヘア、優しい母親のような顔、そしてモデル並みのスタイルのいい女性で、さくらの想像通りの姿だった。
「皆さん、どうやら集まったようですね」
「えっ……?」
女性は誰かを待っていたかのように呼び出し、さくらは何のことかわからず呆然とするだけだった。
すると袋に入っていたはずの6つのオーブが出てきて女性に反応するように賢者たちの姿へと変わっていった。
「ローザか。俺はここにいるぞ」
「テメェは相変わらず俺様たちがいねぇと不安なようだな」
「まぁアンタらしくて俺は好きだぜ」
「それより子孫たちは皆、試練を突破しましたよ」
「そして彼女もまた試練を乗り越えるだろう」
「拙者たちの力を前に、己自身の心をまた成長させたでござるよ」
「ええ、そのようね。皆さん本当に成長しましたね」
今まで仲間たちが戦った賢者たちが姿を現し、女性は優しく微笑んでさくらを見つめる。
さくらはその女性が誰なのかわからず、女性に恐れながらも声をかける。
「あの……あなたは一体……?」
「私はローザ。レインボーランドの賢者の隊長を務めました」
「あなたがローザさんですね……!」
「久しぶりね、桃井さくらさん。あれから随分成長しましたね」
「ありがとうございます」
「それもそのはずよ。だってあなたは私の子孫であり、私の生まれ変わりなのですよ」
「えっ……?」
ローザはさくらに血が繋がっていると同時にローザの生まれ変わりだと言い、さくらをより困惑させる。
思い出してみればさくらはローザのことを懐かしく感じ、アルコバレーノの仲間たちとも初めて会った気が全くしなかった。
その懐かしさの秘密を考えていると、ローザは微笑みながらさくらの頭を撫でる。
「『あの子たちを懐かしく思ったのはもしかして……』って顔をしているわね。そうよ、あの子たちはここにいる彼らの子孫であり、そして賢者たちの生まれ変わりよ。あなたたちが出会うのは運命だったの」
「そうでしたか……。だからみんなとは初めて出会った気がしなかったんですね……」
「あなた方はモノクロ族の呪縛を解き、私たちに出来なかったモノクロ族の真実を明かしました。あなた方は私たちを超えた魔法使いのようね」
「そんな……私はまだまだですよ。」
「あの絶望の魔女アンゴル・モアが復活したのは誤算でした。今のあなたたちではまだアンゴル・モアに勝てないでしょう。ですが私たちが挑んでも結果は同じ。私の力をあなたに分ければ魔力もより上がり、アンゴル・モアに対抗できるでしょう」
「という事は……みんなと同じ試練を乗り越えないとですね?」
「ええ、皆さんは手出ししないように。これは私と彼女との真剣勝負よ」
ローザは優しい顔と声で人間界に起きたことを察し、そして自分たちが挑んでもアンゴル・モアには勝てないと言う。
さくらは少しショックを受けたが、今後は自分たちで解決する番なんだと実感し、ローザの試練を受ける。
他の賢者たちは黙って遠くに離れ、試練を見守ることにした。
ローザの魔法攻撃に対してさくらはリボンで跳ね返し、ローザを感心させた。
「なるほどね。そのリボンは武器ではないと思ったのですが、どうやら魔力が備わった不思議な武器のようね」
「私は新体操という表現力を競う運動をしてました。このリボンが私にしっくり来るんです」
「リボン型の杖を使えるのはあなたがはじめてかもしれないわね。踊りを舞いながらの攻撃で相手を魅了し、花の妖精がそこにいるかのように魅せる伝説の花の魔法使いのようね。私ですらそのような杖は扱えないでしょう。その時点で私を越えた魔法使いよ」
「そんな事ないですよ。まだあなたを超えたわけじゃないですから」
「謙虚ね。なら私もあなたを評価している身として、全力の魔法を使うとするわ!」
「うぅっ……!」
ローザの小さな杖から無数の魔法が飛び出し、超能力のようにさくらの動きを止める。
ギリギリ逃れられたとしても接近され、距離を取るために咄嗟にこん棒を使って叩こうとするも、幻想的な動きで惑わされ近接魔法でダメージを受ける。
ローザはモノクローヌよりも圧倒的に高い魔力があり、さくらはこのまま敵わないのかと諦めかけた。
『さくらちゃん! 頑張って!』
『そなたの事を信じて私たちは待っているぞ!』
『さくらは最高のリーダーだから、ボクたちにいい刺激を与えてくれた!』
『わたくしたちはそんなさくらさんの事が大好きです!』
『あなたならローザさんに勝てるって信じているわ!』
『見せてやれ! お前のその優しい愛のある魔法を!』
『さくらさん! 憧れの先輩として見守ってます!』
「みんな……!」
さくらの心に仲間たちの声が聞こえ、テレパシーを超えた友情を感じ取る。
ローザの攻撃を受け続けて立つのもやっとの中でさくらは立ち上がり、ローザはさくらの根性に感心する。
「まだ立ち上がれるのね。やっぱりあなたは強くなったわ。ひとつ聞いてもいいかしら? あなたにとっての魔法とは何かしら?」
「私にとっての魔法は……本当に何でも思い通りになる不思議な力でも……神様が与えた奇跡でもない……。本当の魔法は……私たち自身の心の中にある……。言葉や行動……そして気持ち次第で運命を変えることが出来る……。そしてその魔法を悪用すれば他人だけでなく……自分をも不幸にすることも出来る……。本当に不思議ですよね……。私はそんな魔法を……私自身やみんなのために使いたい!」
さくらにとって魔法とは奇跡ではなく、人間なら誰もが持っている目に見えない力だと答える。
同時にその魔法は時に人を傷つけたりするが、自分すらも傷つけることも知っているさくらは、魔法の使い方を自分や他人のために使いたいと叫ぶと、さくらの体から無限の魔力が湧き出てくる。
さくらの高くなった魔力に賢者たちは少しだけ後ずさりしてたじろいだ。
「何だ……!? こやつの魔力……!」
「マジかよ……!? あの野郎……!」
「あのお嬢ちゃん、俺たちを圧倒させるなんて……!」
「これが子孫の皆さんが認めた……!」
「ローザの子孫で我々のリーダーなのか……!」
「これではローザ殿も敵わぬでござるな……!」
「あなたにとっての魔法……私の心に響いたわ。なら私にあなたのその魔法をぶつけてみなさい! まだ試練は終わってないわ!」
「そのつもりです! あなたを超えて、私はアンゴル・モアに対抗するためにあなたの力だけでなく、私自身の魔法でみんなを救う!」
さくらは魔力を最大にまで上げ、杖でローザをけん制しながらリボンで縛り付け、そして棍棒でダメージを確実に与え続ける。
ローザもさくらの急成長についていけなくなり、ついにさくらに必殺技のチャンスが訪れた。
「あなたに届け……私の本当の魔法! ウルトララブ&ピースハリケーンッ!!」
「きゃあっ!」
ローザに最高の感謝を込めて魔法を放つと、他の賢者も巻き込んでしまうほどの威力で勝利する。
宮殿の部屋はピンク色の様々な花びらでいっぱいになり、さくらの魔力は誰よりも強いものだということがわかった。
さくらはあまりにも強大な魔力によって消耗し、少しだけ座り込んで休む。
すると先ほどまで倒れていたローザが立ち上がり、全ての賢者を集めてオーブの中へと戻ろうとする。
「あなたは正真正銘、私を越えた魔法使いになったわ。そして遠い未来には愛の魔女……いいえ、愛の大魔女になれるわ。あなたの愛と勇気、そして最高の魔法に負けたわ。私の力とピンクオーブを受け取って、あなたの育った世界を助けてあげて。私たちは意識の一部とはいえ、もう現世に留まる必要がなくなったわ。ここでお別れだけれど、必要な時は祈りを捧げて私たちを呼んで。あなたたちのご武運を祈ってるわ」
「ローザさん……ありがとうございます!」
さくらはついに最難関であるローザの試練を乗り越え、みんなが待っている応接間へと走って向かった。
応接間に着くと海美とみどりはさくらがボロボロなのを見てすぐに回復魔法を使い、さくらの傷を癒す。
完全回復したさくらは試練の結果をついに報告する。
「その笑顔はもしかして……?」
「うん、試練は突破したよ。ピンクオーブもここにあるよ」
「やったなさくら! これで全部揃ったな!」
「ええ。7つのオーブがあればアンゴル・モアに勝てるかもしれないわ」
「そうだね!よーし、すぐにレインボーランドに戻って儀式を行おう!」
「そのために白銀さん、あなたの歌声が必要です。どうかご協力をお願いいたします」
「はい、私でよろしければ先輩方のお力になります」
「うむ、感謝するぞ白銀さん」
全てのオーブを集めたさくらたちはもう一度レインボーランドへと戻り、そして雪子の歌声でエイレーネの力を借りる儀式を行う。
しかしさくらたちは過酷な試練を乗り越えたからか、汽車の中でぐっすりと眠り、雪子は疲れを癒すために子守歌を歌って眠らせた。
つづく!




