第8話 家族
さくらと千秋が魔法少女として覚醒し、今や『突如現れた謎の正義の魔法少女』というニュースが話題になっている。
その結果、謎の魔法少女によく似ているということでアルコバレーノの仕事が増え、アイドルとして徐々に売れてきている。
デビュー曲のレコーディングも終え海美たちは帰りの準備をする。
するとほむらだけは先を急ぐように着替えていった。
「悪いな、今日も早く帰らないといけねぇんだ。いつも早く上がってすまねぇな」
「今日も? 大変だね。」
「ああ、忙しいからな」
橙子がほむらに声をかけると、ほむらは謝りながら早く着替えていった。
しかし海美はほむらがどうして先に帰るのか気になり、ほむらよりもこっそり早く着替え終える。
「すみません、お先に失礼します」
「珍しいね海美ちゃん。何か用事?」
「そんなところね。それじゃあまた」
「お、おう」
海美は誰よりも早く着替え、先に上がっていった。
その海美はほむらがどうして先に帰るのかを聞くために出入り口付近で待ち伏せをする。
ほむらは海美が待ち伏せしていることを当然知らない
「お疲れ様です! じゃあなみんな!」
着替え終えたほむらがようやく事務所を後にし、出入り口まで出てきた。
「ほむらちゃん少しいいかしら?」
「海美か、少しならいいぜ」
「あなたはどうしてすぐに帰るのかしら? 何か用事でもあるのかしら?」
「それは……」
ほむらが出たタイミングで海美が声をかけ、ほむらの秘密を暴こうとする。
実際ほむらの服装からして不良のようで、何か夜にいけないことをしてるんじゃないかと海美は疑っているのだ。
「それに仕事もあまり入れてないみたいだし、何かどうしても外せない用事かしら?」
「……ここまで気になっちまったら海美には話すしかねぇな。実はたくさんの幼い弟と妹がアタシの帰りをずっと待ってるんだ。家事もまともに出来ない年齢でな、アタシがやらないとみんな腹を空かせてしまうんだ。だから社長にも予め相談して決めた事だ。黙ってて悪かったよ」
「そうだったのね。それなら私も今日はお邪魔していいかしら? あなたを少しでも手伝いたいの」
「いいのか? あいつら元気すぎるぞ?」
「構わないわ。忙しそうなほむらちゃんを助けたいもの」
「海美……じゃあお言葉に甘えるぜ。ありがとな」
「こちらこそ何か不良行為をしているんじゃないかって疑ってたの。誤解してごめんなさい」
「いいんだ、そういうのには慣れてる」
海美は家族のためにあえて仕事を減らし、家の手伝いをして幼い兄弟たちのお世話をしていた。
どうして先に帰るのかがわかった海美は、ほむらの負担を減らすために家事を手伝うと言い、ここでも心の優しさが見えた。
海美はほむらへの誤解が解け、ほむらに疑ったことを謝罪する。
「話は実は聞いていました。それならわたくしもお供致しします。海美さんが急いでいる様でしたので気になっていましたが、そんな事があったのですね」
「みどりちゃんいつの間にいたのね」
「今さっき来ました」
「みどりも聞いてたのかよ! しゃーねぇ、二人の言葉に甘えようかな。川崎大師駅が最寄りなんだ。一緒に来てくれるか?」
「ええ」
「はい♪」
みどりと海美はほむらの実家に招待され、最寄り駅の川崎大師駅に向かう。
親には『友達の家に泊まる』と許可をもらおうと連絡を入れた。
駅に着いたらすぐにスーパーでたくさんの買い物を済ませ、そのままほむらの家に行く。
ほむら家に着くと少し古めの木造建築で、子どもたちのはしゃぎ声がよく聞こえた。
「はい? あっ! ほむら姉さん! おかえりなさい!」
「おう、ただいま! 今日はお客さんが来たぜ。全員呼んで紹介させてくれ!」
「わかった! 全員集合! お客さんが来たからおもてなしをするよ!」
ほむらがインターホンを押すとしっかりした男の子が来て兄妹たちを呼び、男の子が三人と女の子が三人、生後間もない子が一人いた。
ほむらは咳ばらいをして、海美たちを紹介し始める。
「紹介するぜ、アタシの友達の青井海美と葉山みどりだ。そしてこいつらがアタシの自慢の兄妹の――」
「小学6年生の赤城一郎です。大師トリコロールズのエースをやっています」
「小学4年生の赤城さつきです。勉強が得意です」
「小学2年の英雄でーす!」
「同じく小学2年の秀喜でーす!」
「あかぎはづき! 6歳でしゅ!」
「やよい……です。よんしゃい……です」
「んで、生後三か月の男の子の有だ。一郎はリトルリーグで全国出場のエースなんだ。さつきは小学全国模試テストでベスト16だぜ」
ほむらの兄妹たちが自己紹介をし、みんなとても個性的で男の子の名前はみんな野球で有名な選手の名前、女の子は昔の暦の名前になっていた。
家に上がってほむらは張り切って料理を始め、海美とみどりは兄妹たちのお世話をする。
一郎はしっかりしていて、やよいは人見知りなのか壁に隠れて見つめていた。
下の子たちはすごく元気いっぱいで、海美はほむらを見て普段からこんな事をしているんだと感心した。
「ご両親はお仕事ですか?」
「まぁな。親父はトラック野郎をやっててな、夜までなかなか帰って来ねぇんだ。お袋はな……あいつらの前では言えねぇけど、キャバクラの経営をやってるんだ。あいつらには絶対内緒だぞ」
「わかりました」
「さてと、ご飯が出来たぞ! みんないっぱい食え!」
「「「わーい!」」」
ほむらは自分の家族のことを話し、海美とみどりは中学生ながら家のことをしていることに感心する。
ほむら特製の料理が完成し、兄妹たちと一緒にご飯を食べる。
晩ご飯は鮭の塩焼きと肉じゃがで家庭的な料理だった。
みんな美味しそうにご飯を食べ、ほむらの家族は温かい雰囲気だと感じた。
ところが英雄と秀喜が突然喧嘩を始め、ほむらは慌てて仲裁に入る。
「おい! どうしたんだ!? 何があったんだ?」
「俺の鮭返せよ!」
「いいだろ別に!」
「殴るのはやめろ! ほむらお姉ちゃんをあんまり困らせるなよ! 英雄! 何で秀喜の鮭を勝手に食ったんだ? 自分の分あるだろ!」
「何だよ一郎兄ちゃんまで! ほむら姉ちゃんがいるからって偉そうにすんなよ! もういい! ごちそうさま!」
「おい! どこへ行くんだ!」
「うう……ぐすっ……!」
「秀喜、大丈夫か?」
「うん……」
「アタシさ、英雄を探しに行ってくるわ。こんな時間に一人は危険すぎる。一番上であるアタシの監督不届きだ。こいつらを頼む!」
「わかったわ。一郎くんは任せて」
「ではわたくしは皆さんを。秀喜くん、殴られたほっぺた大丈夫ですか?」
「うん……」
「やよいさんも怖かったですね。もう大丈夫ですよ?」
「喧嘩はやだよぉ……!」
秀喜と英雄が鮭の取り合いで喧嘩になり、ほむらが仲裁に入るも英雄が怒りのあまりにご飯を残して家を出る。
一郎が英雄を叱ったものの、言うことを聞かずに出ていかれたことにショックを受け、ご飯を食べ終えては一人で落ち込んでいた。
ご飯を食べ終えた海美は一郎と二人で話し合いをするために寝室の方に呼び出す。
一郎はかなり落ち込んでいて、今にも泣きそうだった。
「いつもこんな感じなの?」
「いえ、普段はほむら姉さんが収めるんですが……ほむら姉さんがアイドルで忙しいし、疲れているだろうから俺も長男としてしっかりしないとって。でも……姉さんみたいに叱れないし、引っ張る事が出来ないんです。それに……姉さんは俺たちのために大好きだった野球をやめてしまったんです。だからこそアイドルは続けてほしいし、俺たちに気を使いすぎてほしくないんです。アイドルとして輝く姉さんが見たいんです」
「なるほどね。一郎くんはお兄ちゃんの覚悟があるのね、偉いわ」
「でも……やっぱりどこかで姉さんに頼ってて、引っ張る事に不安を感じちゃうんですよね。こんなんじゃあ兄貴失格ですよ……」
「そんな事ないわ、あなたはほむらちゃんを精一杯支えようと努力している。それだけでも立派だわ。でもほむらちゃんを安心させるという面では足りないかもしれないわね」
「安心させる……か。そっか……わかりました! さつき! ちょっといいかな?」
海美は一郎の頭を撫で、労いの言葉をかけて不安と葛藤を聞く。
赤城家に足りない大切な事を教え一郎の覚悟がさらに大きくなり、海美は悩みを聞けて良かったと思う。
後は家を出て探しているほむらが早く英雄を見つけることだ。
もしモノクロ団に見つかったら必ず人質を取るだろうと海美は焦った。
海美はみどりを呼び出し、兄妹の事は一郎とさつきに任せることにし、ほむらを探すことにした。
つづく!