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第89話 ヴァミリオの町

 ヴァミリオの町に着くと、まるで昔の中国や東南アジア、沖縄を合わせたような街並みで、男性は筋肉質な体つき、女性は無駄な肉がないスリムな体型とアスリート系が多くいた。


 そして民族衣装はチャイナドレスやアオザイなど中華圏の服装で、今にもストリートファイトをやりそうな町の雰囲気だ。


「ここがヴァミリオの町か。思ったよりよい雰囲気ではないか」


「ええ。治安が悪いのはもう昔の事なのかもね」


「とりあえず賢者について聞いてみましょう」


「うん」


 橙子たちは賢者の情報を得るために町の人に尋ねる。


 町の人はストリートファイトで盛り上がっていて、喧嘩ではなくあくまでも武道の試合という感じだった。


 ストリートファイトが終わり、盛り上がっているところで橙子は観戦していた男性に声をかける。


「すみません! この町に賢者の方がいたと聞いたのですが……」


「ん? ああ、チェンさまのことか。彼は元々はこの町でも有名な喧嘩野郎でね。格闘センスと野生の本能が買われて王国の格闘家になり上がったんだよ」


「まさに大器晩成の方なんですね」


「そうそう。君たちはもしやチェンさまのお力を得るために来たのかい?」


「はい、私たちはアンゴル・モアが復活し、最終形態になったので彼らの力が必要なんです」


「ああ、そうだったんだ。でも残念だったね。今そのチェンさまの力が封じられているオレンジオーブはまだ誰も触れたことがないんだ」


「どういう事ですか?」


金柑寺(きんかんじ)にオレンジオーブは保管されていてね。その金柑寺の厳しい修行に耐えられた者こそチェンさまの力を得るには相応(ふさわ)しいとされているんだ。そこは武器にあまり頼らない格闘家のみ入門が許されている。だけどそこの修行は厳しくてね、いくら戦闘や精神が達人クラスでも、何故か合格できないんだ」


 金柑寺の修行はハードな修行に耐えたとしても何故か合格がもらえず、何かがないと修行に合格が出来ない厳しい試練のようだ。


 魔法少女はみんな武器を使用していて、橙子は三節棍(さんせつこん)という武器も使えるが基本格闘なので条件は揃っている。


「それならボクが金柑寺の修行を受けます! きっとボクならその修行の真の目的を知る事が出来ると思います!」


「そうか。それなら金柑寺はここを右折して真っ直ぐ行けば険しい山がある。その山を登るために一本のロープを素手で登るんだ。そしたら山頂に金柑寺がある。自前の道着があるならそれに着替えるといいよ。じゃ、俺はこの辺で去るよ。修行を頑張ってね」


 橙子は気合を入れて試練を受けることを男性に言い、男性は驚きながらも橙子を応援すると去っていった。


 さくらたちは不安そうに橙子を見つめるが、既に試練を突破したほむらは橙子の肩をポンと叩いて励ます。


「橙子、お前なら絶対合格できるって信じているぜ。アタシは橙子のポジティブさと根性、そして勝負に強いって事も知っている。自分を信じて試練を突破してこい!」


「うん!」


「橙子、私は親友としてそなたを待つ。そなたは私たちアルコバレーノで最強の格闘家だ。己の今までの鍛練を信じるのだぞ」


「ありがとう! それじゃあ、いってきます!」


「いってらっしゃい!」


 橙子は試練を受けるために準備運動をし、さくらたちと一旦別れて金柑寺に向かって移動をする。


 金柑寺の試練山に着くと、そこには本当にロープが一本あり、一歩間違えれば切れそうなほどボロボロだった。


 橙子はダメージに耐えるために変身をし、いつもの戦闘用の衣装になる。


 手に装備している指貫グローブを滑り止めとして活用し、ハチマキを絞め直して気合を入れて登り続ける。


 がむしゃらに登っていくとだんだん酸素が薄くなって息が苦しくなり、今にも手を離して落ちそうになる。


 それでも橙子はアンゴル・モアに苦しむ人々を思い出して気合と根性で登り切った。


 登りきって少し休むとお坊さんが崖の前で立ち尽くし、橙子に気付くと拍手で出迎えてくれた。


「ふむ、あの崖をロープ一本で登り切るとは見事だ。しかも男ではなく、初の女であるとはな」


「はぁ……はぁ……! 女性として初なのが嬉しいね……!」


「よし、いいだろう。我が金柑寺の修行に参加する事を許可する。まずはこれをお食べなさい」


「はい……! これは……!」


「美味いか? これはただのお米で作った炊き込みご飯だ。だが――君はあの飢えた人の前で美味しくいただけるかね?」


「えっ……?」


「うう……腹減った……! 俺にも飯くれよぅ……!」


 隣を見ると今にも餓死(がし)しそうなくらい痩せこけた男が倒れていた。


 橙子はもらった炊き込みご飯を見つめて食べたい気持ちがあったが、この人に食べさせて飢えを凌がせようか迷ってしまう。


 橙子はこのお坊さんが橙子を試していることがすぐにわかり、悩んだ末の答えを橙子は出す。


「あなたも食べたいんだよね。でもごめんね、ボクが先に一口食べるね。毒が入ってるかもしれないから。安全だとわかったらたくさん食べていいよ」


「あう……!」


 橙子はもらった炊き込みご飯を一口食べ、ゆっくり味わいながら深刻な顔でよく噛む。


 同時にプラスエネルギーを使って何かを確認していて、橙子は急に安心した顔になって男性に炊き込みご飯を渡す。


「お先に。モグモグ……うん、毒も入ってないし美味しい。はい、これ残り全部食べて元気出して!」


「おお! バクバク……美味い! あんたの事は忘れねぇ! この恩はキッチリ返すぜ!」


 橙子は魔力を使って炊き込みご飯に毒が盛られていないかを確認し、味覚を最大にまで上げてから男性に食べさせる。


 お坊さんは今まで自分の欲望に負けて食べきってしまった試練の参加者を見てきたが、ちゃんと食べさせた人は初めてなのか驚いていた。


「ほう……。まずは自分が死を覚悟して飯をたった一口のみで確かめ、安全とわかれば残りの全てを食わせるとということか」


「はい。いくらおいしそうでも本当においしいかわかりませんし、美味しかったとしても毒が入ってたらそれは知らずに人を殺すのと同じです。だからボクが実験台になって彼を救いました。そして欲張らずに小さな一口で済ませることで、魔力こそ使いましたが安全だとわかった時に残りを彼にあげられるって思いました」


「なるほどな。一第一試験を突破したのは君がはじめてだ。では第二試験です。君は自分自身に打ち勝つ自信はあるか?」


「あります! 去年は勝ちました!」


「ほう、先ほどと違って嘘をつくのかね? これは修行というか……しつけが必要かな?」


 お坊さんは第二試練として過去の弱い自分を乗り越えられるかどうあkを試そうとする。


 しかし去年にモノクロ団と戦い、闇に染まった自分自身と戦って勝利し、モノクロ団の野望を止めてはアンゴル・モアを本気にさせたことを話しても信じてもらえなかった。


「やっぱり信じてもらえないか……。こうなったら――」


 橙子はいくら話しても信じてもらえないことに悔しくなり、魔力を使って記憶を共有させようとする。


 しかし急にオレンジ色の光がまばゆく光りだし、そして荒々しい男性の声が聞こえてくる。


和尚(おしょう)さま、こいつの言ってる事はどうやら本当のようだぜ?」


「その声は……チェンさま!」


「えっ……!? ご先祖さま……?」


 橙子が最後の手段に出ようとすると、過去の戦いをしっかり見ていた賢者の一人チェンが姿を現し、お坊さんを説得してみせた。


「よお、久しぶりだな。その第二試験の必要なんかねぇよ。こいつは俺様の目の前で自分より強く、邪悪な自分自身に打ち勝った。俺様は嘘が大嫌いなのは知ってんだろ? 去年和尚さんもこいつの活躍見ただろ?」


「確かに彼女はあのモノクローヌに勝ったし、自分自身に打ち勝った……。じゃあこの子は……!? では第二試験も合格とする!」


 チェンの説得が成功し第二試練を楽々突破する。


 橙子はようやく信じてもらえたことに安心し、力が抜けて座り込む。


「最終試験は俺様が直々に指導してやるから、和尚さんは向こうに行きな!」


「かしこまりました!」


「柿沢橙子! しばらく見ねぇうちに強くなったな!」


「チェンさん!」


 オレンジオーブの光が人の形を作り、その姿は筋肉質ながらもしなやかな体型をしたオールバックの男チェンが姿を出す。


 あらゆる格闘を武器にたくさん修羅場を潜り抜けたという獣のような目つきで橙子を睨んで威圧する。


 それでも王国に貢献した格闘家として敬われていて、橙子に最後の力を与えてくれた優しさも持っている。


「あの時はありがとうございました!」


「別にいいんだよ、それよりも随分世界はヤベェ事になってんじゃねぇか。目を見ればわかる、あの野郎が復活したんだってな」


「はい! そうなんです! そのためにボクはあなたの力を借りに来ました!」


「そうかよ。じゃあ俺様のスピード対決についていけるか試してやるよ! オラァッ!」


「うわっ!?」


 チェンは不意打ちを繰り出し、橙子の顔面に思いきり殴りかかる。


 橙子は事前にチェンの虎のような気迫を感じ、あらかじめ戦う準備をしていたので避けられたが、チェンのスピードは目で追うことが難しかった。


 喧嘩術だけでなく全ての中国武術や空手の流派の打撃、柔道や合気道、少林寺拳法のような投げ技やカウンター、ボクシングのパンチやキック術、相撲のような初速スピードの速さを取り入れた動きで翻弄(ほんろう)していった。


 橙子は必死になって捕らえようとするも、チェンの動きは一向に止まらず、気がつけば数発も殴られてしまう。


 その繰り返しで意識が朦朧(もうろう)としてきた中、チェンはがっかりしたようにため息をつく。


「あんだよテメェ! 俺様の力を少しだけ受け取ったのにその程度かよ! 結局他のクソザコと変わんねぇじゃねぇか! がっかりだ!」


「どうすれば……彼を攻略……!」


「仕方ねぇ……俺様のせめてもの情けだ! ここでくたばれ!」


 橙子はチェンの速さと強さに絶望しかけたが、自分とチェンの違いを冷静に考える。


 ゆかりとの鍛錬では精神統一もしていて、橙子は思い出したように深呼吸をして一旦落ち着く。


「そうか……! 動いてばかりじゃダメなんだ……。ゆかりとの特訓を思い出そう……。勝ち続けていたことで忘れてしまったなんて……。ボクもまだまだ金メダルに遠いなぁ……」


「ボソボソ何言ってるかわかんねぇよ! オラァッ!」


「ふっ……!」


「何ぃ……!?」


「その動きはもしや…!?」


 橙子はチェンと比べて無駄に動き回り、目だけでとらえようとして心が乱れていたことを反省し、あえて動かずに気配や風の感触を感じてチェンの動きをとらえる。


 そして橙子はチェンのスピードについていけなくても、自分とチェンはまったく別の能力なので同じ土俵で戦っても勝てないことがわかり、自分の武器である野生の勘と反射神経、そして動体視力のよさを活かしてチェンのスピードについていけるようになる。


 チェンの弱点は橙子以上にせっかちで、さっさとトドメを刺すようにしてしまう急ぎ癖だとわかり、橙子はそこを利用して挑発しながら動きを止める。


「くそっ! 俺様の性格を把握しやがったな!」


「あなたのスピードは凄かったです! でもボクは空手でトップに立つためにもっと強くなります! ビッグバンシャイニングバスター!」


「おいおいマジかよ……! ぐふぅっ!」


 渾身の一撃はチェンに命中し、何故かチェンは嬉しそうな顔をしていた。


 橙子は疲れ果ててその場で倒れ込み、お坊さんは橙子を安全な場所へと運ぶ。


 意識が薄れかけた瞬間、チェンは突然元気になって立ち上がり、一瞬で橙子に近づいてはしゃがむ。


「何だよテメェ……俺様のスピードを制する事ができんじゃねぇか。何故俺様のスピードについて来れたんだ?」


「えへへ……ボクはチェンさんのあまりのスピードについて行こうと必死で……目だけで追ってしまったんだ……。でも目だけじゃ追うのは無理ってわかって……五感を使ったんだ……。そして動いてばかりだと体力も減るし……あえて待つことで向こうから来るんじゃないかって……」


「そうか、俺様の弱点まではわからなかったが、本能で知らずに感じ取ったんだな。そうだ、スピードの極意は闇雲に動き回るだけじゃねえ。あまりのスピードについていこうと無理して目だけで追うのも限界があるからな。それだけわかってればテメエは充分、そのスピードを活かすことができるぜ。柿沢橙子、俺様はお前を気に入ったぜ! 俺様の力の結晶であるオレンジオーブを受け取りな!」


「ありがとう……ご先祖様……!」


「和尚さま! 子孫であるこいつの看病、頼んだぜ!」


「チェンさま……!」


 ついに試練を突破した橙子はさらに強くなれた気がし、チェンは安心してオーブの中に戻り、オレンジオーブは橙子の左手の上に落ちていった。


 橙子は体は疲れているのに心は元気で、今ならアンゴル・モアに勝てるのではないかと希望を持っていた。


「ワシにすら乗り越えられなかったあの試練をクリアするとは……。君はまさか……!? チェンさまの末裔(まつえい)か!」


「どうやらそうみたいです」


「チェンさまの弟子の末裔としてお願いだ! チェンさまの無念を晴らすために……アンゴル・モアを倒してくれ!」


「約束します、あなたの分まで必ず倒します!」


「そうだ、次はここからさらに東にあるシオンの村に行くとよい。そこにはおそらくパープルオーブがあるだろう」


「ありがとうございます! では早速シオンの村に向かいます! 和尚さま、ありがとうございました!」


「ちょっと! 少し休みなさい! ――って行ってしまったか。そういうせっかちなところはチェンさまにそっくりだなあ……」


 橙子はシオンの村に向かうべくお坊さんのところを素早く去り、ロープをスルスルと降りていった。


 お坊さんは呆れながらもチェンにそっくりな性格と元気さに安心し、橙子を見下ろして見送った。


 地上に降りて橙子はオレンジオーブをさくらたちに見せつけ、試練を突破したことを報告する。


 そして橙子は次の目的地のシオンの村だと話し、汽車に乗ってシオンの村へ向かう。


 つづく!

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