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第88話 クリムゾーンの町

 アルコバレーノは賢者の力を得るために汽車でクリムゾーンの町へ向かい、手掛かりになりそうなものを探す。


 去年に行った時は町とは反対方向で未開発の砂漠地帯だったが今回は町の方へ向かう。


 クリムゾーンの町に着くと砂漠地帯とは思えないほど栄えた街並みで、人々は派手で多種多様なインド風の民族衣装の人、モノトーンでモダンな中東の民族衣装、さらにはエジプト風のワンピースと多種多様な人々だった。


 人々の肌は少し浅黒く、とても陽気で誰にでも気さくに話しかけそうな雰囲気だった。


 この町でほむらたちは賢者の力について聞き込みを開始する。


「あの、すみません。この町にアハマールという方がいたという事ですが何かご存じですか?」


「ああ、アハマールさまのことか。この町ではもう伝説の英雄だからね。君たちがアルコバレーノだっけ? ビアンコ王から聞いているよ」


「私たちってそんなに有名なんだ!」


「ああ、とても有名さ。君たちの世界でアンゴル・モアが復活したとシロン王子に聞いてね。誰かから『赤い髪でポニーテールの女の子がここに来たら歓迎してくれ』と言われたのさ」


「それって……アタシですか?」


「そうさ、君の事だよ。君はアハマールさまにそっくりな目つきと赤い瞳と髪、そしてアハマールさまと同じ炎属性の魔力を感じるんだよ」


「ほむらってこの町では有名なのだな」


「何か照れくさいぜ……」


 ラクダを連れている男性に声をかけると、男性はすぐにアルコバレーノだと気づいていて、とくにほむらを見ると賢者の一人のアハマールに似ているということで歓迎される。


 ほむらは少し照れくさそうにしていたが、それでも賢者のことを知りたいほむらは冷静に男性の話を聞く。


「もしよかったら他のみんなはうちの温泉でゆっくりしてくれ。赤髪の子はちょっとこちらへ来てくれ」


 ほむら以外は男性が経営する温泉宿に案内され、ほむらだけは別行動になる。。


 男性は自分の宿ではなく町長の家へと案内し、町の人々がほむらを見かけると(ひざまず)いていた。


 町長の家に入ると威圧感のあ長く黒いひげを生やした中年の男性がどっしり構え、ほむらを見つめていた。


「ほう、君が赤城ほむらさんだね。はじめまして、わしがクリムゾーンの町の町長、カマインだ」


「はじめまして、赤城ほむらです」


「そんなに怖がらなくていいよ。顔が怖いからって怖がられるのには慣れている。それよりも君たちアルコバレーノの事は聞いている。7人の賢者の力が封印されているカラーオーブを欲していることもね」


「言っておきますがアタシらは――」


「大丈夫だ、君の目を見ればわかる。自分勝手な欲望ではないこともわかっている。どうやらアンゴル・モアが復活したようだな」


「はい。アンゴル・モアが復活しました」


「君が本当に賢者のアハマールさまの子孫なら代々伝わるクリムゾーンの試練に耐えられるはずだ。数々の町民がその試練を試みたのだが、誰も成功したことがなく、あまりの熱さに全身やけどをしてしまった者もいる。試練は町から反対方向にあるルビリア砂漠を経由してボルドーラ山脈の最も高く過酷な火山、クレーナ火山の山頂にあるレッドオーブを手に入れるんだ。そのレッドオーブにはアハマールさまの大いなる力が宿っていてね、それを手にした者は必ず最強の炎の魔法使いになれるんだ。君にその覚悟はあるのかい……?」


 ボルドーラ山脈は去年にモノクロ団のアクマージと戦っている時に純子が進化の秘宝を壊すために登った山だ。


 その中でも最も高くて過酷だと言われているクレーナ火山というところに登り、レッドオーブを手に入れる試練だ。


 しかし何人も挑戦したが全身やけどを負い、何も成果がなく帰ってきたというのがずっと続いている。


 それほど過酷な試練だと聞いたほむらは冷や汗をかいたが、唾を飲んで深呼吸をしてほむらは町長に自分の意思を伝える。


「面白ぇ……やります! アタシにはどうしてもレッドオーブが必要なんです!」


「そうか。ならば念のために防火機能がある民族衣装に着替えるといい。露出こそ高めだが不思議な力で熱さはしのげる」


「わかりました!」


 町長に案内されクリムゾーンの民族衣装に着替えるために更衣室へ移動する。


 服装としてはいつもの赤い魔法少女衣装と似ているが、スペインのフラメンコ衣装を足したようなデザインだった。


 色は真っ赤で口元がベールで隠され、腹と腕と脚がいつもより隠れていた。


 準備ができたほむらを町の人々は出迎え、ラクダを借りてルビリア砂漠を渡る。


 ルビリア砂漠はとても日射が激しく、少し動いただけでも汗が出てくる。


 それでも夜になると急激に冷え込み、最悪の場合は砂嵐が起こる。


 人間界のラクダと違って素早く動き、砂嵐が起こる前にボルドーラ山脈に着いた。


「ここがボルドーラ山脈か。社長はあの時歩けねぇのにここまで来たんだな……やっぱすげぇや」


 ボルドーラ山脈で最も標高も気温も高いクレーナ火山を目の前に武者震いを起こし、ラクダを安全な場所に置いて迷うことなく山頂を目指す。


 上に行くほど熱気が激しくなり、動いただけでも干からびそうになる。


 あまりの暑さに足は重く腕は上がらなくなり、汗を多くかいたので水を飲みながら登る。


 やっとの思いで頂上まで登りきり、火口はマグマがグツグツと煮えたぎっていた。


 ほむらの正面にレッドオーブが(まつ)られたほこらがあり、レッドオーブに向かって全力で向かい取りに行く。


「うぐっ……! 何という熱さだ……! これじゃあ他の連中が全身やけどを負うわけだ……!」


 ところが火口から放たれたマグマとその熱気、さらには有毒な煙もあり今にも倒れそうになる


 それでもほむらは守りたい家族や仲間のことを思うだけで力が湧き、熱気と臭いに負けずほこらにたどり着いた。


 ほこらに近づいてオーブを取ろうとすると、赤い大男の形をした光が現れ、次第に人の姿になる。


 その男の姿は浅黒い肌に髪を逆立てたソフトモヒカンヘアで体は鋼鉄のように硬い筋肉質の男だった。


「ほう、この山の炎を越えられるほどの人間が現れるとは。貴様はなかなかの実力者だな」


 威圧的ながらもどこか見守っている感じがある男性はほむらを見つけると声をかけ、試練を乗り越えてきた事を褒め称える。


 しかしほむらは何故か懐かしく感じ、思わず男性に話しかける。


「その声は……アハマールさんか!?」


「ふむ、貴様の声は覚えているぞ赤城ほむら。先の戦いでのパワーは見事であった。だが今回の敵はさらに手強いそうだな」


「はい! そうなんです! アンゴル・モアって奴が復活して、今あなたの力が必要なんです!」


「なるほど……だが俺のパワーをただで貸すわけにはいかん。貴様のパワーを見せてもらおう」


「じゃあ、鍛えてくれるんですか!」


「その前に武装をするといい。俺と直接戦うのだ」


「うす!」


 男性はアハマールといい、ほむらの先祖で賢者がほむらの力試しという形で戦闘能力を試す。


 ほむらは魔法少女に変身し、アハマールはほむらの倍以上の長さの槍を持って構える。


 ほむらはアハマールの特攻を必死に攻撃を防ぎ、女の子の力では成人男性のパワーに敵うはずがなかった。


 アハマールのあまりのパワーに押され続け、ついに火口まで後ずさりしてしまう。


 ほむらは自分の弱さを悔やみ、アハマールに負けるのかと思った瞬間だった。


「うへぇ~……ここが火口かぁ~……。やっぱり熱すぎて溶けそうだよ……」


 突然観光客ら式男性が火口の近くまで近づき、戦闘に巻き込まれてしまうほどに近かった。


 アハマールは男性を見かけると目の色を変え、急に怒りながら男性を睨む。


「ふぅ……邪魔が入ったようだな。邪魔者にはすまないがここで消えろ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 アハマールは血迷ったのか男性に左手を向け、炎魔法で男性を焼き尽くそうとした。


 ほむらはそれを見てガッカリし、アハマールに憎しみを込めて特攻を仕掛ける。


「ああそうかよ……! テメェは賢者と思って尊敬してたが……見損なったぜ! そこの登山客! そこから動くなぁっ!」


 アハマールの奇襲にほむらは怒り、男性に向かって突っ走ってアハマールの攻撃を簡単に防ぐ。


 ほむらの眠れるパワーが発揮され、賢者であるアハマールのパワーを上回ったのだ。


「おらあっ!」


「何っ!?」


「大丈夫か?」


「ええ……助かりました」


「守りたいもののために全力で燃やしてやるぜ! アトミックファイヤーインパクトッ!」


「うぐぅっ……!」


 ほむらはアハマールに襲われた男性を守り切り、怒りを込めてアハマールに槍で特攻する。


 アハマールはほむらの強く激しい炎に焼かれ、ついにほむらはアハマールに勝利した。


 しかしその代償は大きく、ほむらは疲れ果てて槍を杖の代わりにしてしゃがんで休む。


 するとアハマールは傷だらけながら息ひとつ乱れずに立ち上がり、ほむらの頭をポンと撫でるように叩く


「それでいい……。それが貴様の本当の炎だ。貴様が守りたい者のために前を突き進み、大切なもののために強き者に立ち向かう。そして自分自身が死なぬよう、ちゃんと考えて特攻する。それが特攻隊長の役目だ。そこの登山客もご苦労であったな」


「ははっ! アハマールさまの意志を継ぐ者として当然のことをしただけです!」


「え……? じゃあ、あの奇襲はわざと……?」


「うむ。貴様の内なるパワーを引き出そうとしたのだ。この登山客は偽物だ」


 この登山客の男性の招待はアハマールが事前に呼んでいて、ほむらの眠っているパワーを引き出すためのサポート役を背負っていた。


 男性はクリムゾーンの民族衣装ではなく、火山に昇るとは思えないパーカーを着ていて、どうもおかしいとほむらは思った。


 すると登山客は変装を解き、そこにはほむらも驚く正体だった。


「あなたはあの時の……!?」


「本当にすまない。アハマールさまの声が突然聞こえて、君が気になって後を追ったのさ」


「へへっ……まったく、驚かさないでくださいよ!」


 男性の正体は先ほど町長のところへ案内した温泉宿の支配人の男性で、ほむらを手厚くもてなした人だ。


 あまりの驚きにほむらは男性の肩に軽くパンチをし、男性も申し訳なさそうにほむらに頭を下げる。


「貴様を試すような真似をしてすまなかったな。どうしても貴様の内なる炎を引き出したかったのだ。俺に呼ばれし町民よ、自分の店に戻り彼女が町に戻ったら温泉でおもてなしをしてやるとよい」


「はい!」


「赤城ほむら、貴様に伝える事がある。パワーというのは、ただ力が強ければよいというものではない。力が強いと心が力に溺れ、(たけ)き者になろうと悪用することもある。炎というのは使い方を誤れば文明や自然、そして人間の命すらをも滅ぼす。無論貴様自身もだ。だが正しき心を持ち、己だけでなく他人や大切なものを想う気持ちがあれば、より凄まじいパワーがみなぎるのだ。さらに炎は物理でも魔法でも、使い方を正せば文明を栄えさせ、新たな命を生むこともある。そして心の炎が消えぬ限り、貴様の道標は大きく開かれ進むべき道を進むであろう。貴様は大家族であったな。その大家族を守る心、そして見ず知らずの人間や自然の命を絶やさないという強い気持ちが、今の俺を超えるパワーを生み出したのだ。見事であった」


「はい! ご先祖様に認められて嬉しいです!」


「では貴様に俺の力を与えよう。そのレッドオーブを受け取るがいい。もし俺が必要になった時には祈りを捧げ、俺を呼ぶといい。さぁもう長居は無用だ。町の皆を待たせるでないぞ」


「はいっ! ご指導ありがとうございました」


 ほむらはアハマールの試練を乗り越え、ついにレッドオーブを手に入れた。


 疲れ果てたほむらを男性がおぶって運んで町に戻り、町の人々に試練を乗り越えたと報告をする。


 レッドオーブを高々とかざし、町のみんなはほむらを英雄のように称えて胴上げをする。


 町長のご厚意でほむらは特別に無料で男性の温泉に入り、癒されて体をリフレッシュさせる。


 そして名物である南国風の果物をたくさん食べ、岩盤浴やリラクゼーション、全身マッサージというおもてなしをされた。


 レッドオーブを手に入れたと報告するために、さくらたちと合流する。。


「ほむらちゃんどこに行ってたのって思ってたけど、町の人から聞いたわ。あなたはご先祖様の試練を乗り越えたのね」


「おう! おかげで本当の炎とは何かを学べたぜ!」


「次はどこが近いのだ?」


「うーん……」


 次の行先が今は決まっていないので、さくらたちは頭を悩ませる。


 するとほむらが世話になった宿の男性が名残惜(なごりお)しそうに声をかける。


「もう君たちは行ってしまうのか?」


「はい、もうレッドオーブは手に入ったので。お世話になりました」


「それなら北東の方にヴァミリオの町があるよ。あそこは格闘が盛んで治安が若干悪いんだ。気を付けて向かってくれよ」


「ありがとうございます! では汽車に乗ってヴァミリオの町へ行きましょう♪」


 北東にあると聞いたほむらたちはヴァミリオの町へ向かい、新たな力を求めて旅立つ。


 少しだけ治安が悪いと聞き、どんな町なのかほむらたちは怖がりつつも少し気になった。


 汽車に乗ってヴァミリオの町に着く前に、千秋が警察である父仕込みの護身術を教えて準備をする。


 つづく!

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