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第86話 洗脳

 アンゴル・モアは第二形態へと変身し、まだ戦いは終わってないんだという事を知らされる。


 あまりのマイナスエネルギーにさくらたちは後ずさりする。


 それでも晃一郎はさくらたちを鼓舞するために自ら先頭に立つ。


「みんな! やっぱり怖いよな……。もしみんながダメなら俺も戦う。これでもプラスエネルギーを集めてきたんだ。だから……みんなならやれる! 俺は信じてるぞ!」


「「「はい!」」」


「まだ希望を捨ててないとはな……。人間の癖に抵抗するとは愚かな者よ!」


「黙れよ! この子たちはお前なんかに負けやしない! いけ! アルコバレーノ!」


「「「はい!」」」


「アンゴル・モア! 覚悟っ!」


 ほむらと橙子、ゆかりで特攻を仕掛け、海美はチャンスを伺って果敢に攻撃をする。


 みどりは短剣での戦闘は今の第二形態とは相性が悪いと判断し、弓での援護に切り替える。


 千秋は投げ技や受け止めるカウンターなどの肉弾戦はあまりの大きさと強さを考えて不可能と判断し、拳銃で連射をしつつマスケットで弱点らしき場所に一撃を込める。


 さくらと雪子は魔力が他のみんなより高く、狙われないように魔力をセーブしつつ会心の一撃まで粘り続ける。


「ふはははは! もっと我を楽しませるのだ! 人間のもがき苦しむ姿は我の希望ぞ! そのまま地獄に堕ちて永遠の絶望を味わうのだ!」


 アンゴル・モアは大きな手を地面に叩きつけて足場を揺らして不安定にさせる。


 床が大きく地割れを起こし、大きな振動はまるで火山の噴火や津波が起こる大地震のような揺れだった。


 アンゴル・モアは地獄から人間の絶望を呼ぶために地震や火山の噴火、津波に大嵐など世界中に災いを呼び起こし、人々の負の感情をコントロールし、犯罪や戦争などを引き起こすといわれている。


 それでもアルコバレーノはアンゴル・モアの力に屈しず果敢に立ち向かう。


「むむっ!? こやつ紫吹音速丸でも斬れぬ……!」


「このまま拳で戦ったら返り討ちだ……! 仕方ない! 朱雀三節棍(すざくさんせつこん)!」


「無駄だ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」」」


 アンゴル・モアの放った真空波に吹き飛ばされ、たくさんの切り傷を負い背中を壁に強打する。


 アンゴル・モアはあえてダメージを通らせて、いい気になったところで一気に突き落とすという絶望を与えるには条件が整う戦い方をしていた。


 するとアンゴル・モアは何かに気付き、晃一郎の方へと視線を向ける。


「待たせたな……! これが俺の……全力投球だぁーっ!」


「ぐふぅっ…!」


「水野さん……!」


「わたくしたちでさえダメージを負わせられなかったアンゴル・モアから大ダメージを与えられるなんて!」


「すげぇ! さすがアタシたちの社長だぜ!」


「代理だけどな……。けどさすがに疲れたな……慣れないことはするもんじゃないね……」


「はぁ……はぁ……! その魔力はモノクロ族の得意な闇魔法だったはず……!?」


「俺にはモノクロ族の血は引いてねえが、モノクロ族の血を引く尊敬する先輩に一応魔法の使い方を学んでたのさ! アンゴル・モア! これでもくらうがいいっ!」


「ぐはぁっ……!」


「あの技はモノクローヌの必殺技の……!」


「それだけではないわ。モノクローヌの技をコピーしただけでなくアレンジしたわ……!」


「あの技は相手の技を利用して跳ね返す魔法だが、社長は晃一郎さんにあらかじめモノクローヌの魔法を伝授し、そして相手の魔法属性を利用して今まで見た魔法攻撃を模倣(もほう)し収縮させ、投球にすべての一撃を加えるという荒業を……!」


 晃一郎は不器用ではあるが、他人に習ったことを自己流にアレンジしてコツを掴むことでモノクローヌの必殺技をコピーしてアンゴル・モアに一矢報いる。


 アンゴル・モアも予想外の伏兵に驚き、晃一郎は疲れながらもプラスエネルギーを使って魔法を使いこなしていた。


「私がモノクローヌに伝えた技を越えるとは……! 貴様何者だっ!?」


「水野晃一郎、ただの人間の男だ。そして……モノクロ族の血を引く黒田純子の一番弟子だ!」


「なるほど……。あのモノクロ族の血を引く者の弟子か。そしてその闇魔法の使い方……。貴様はやはり……。水野晃一郎と言ったな? 貴様ほどの闇魔法使いは今まで出会った者以上だ。あのモノクローヌを越える逸材だと私は見込んだ。我の忠実なしもべとして働く気はないか?」


 アンゴル・モアは晃一郎の隠された無属性の魔力、そして今まで培った経験と頭の回転のよさを見込んでスカウトする。


 普通の人なら恐怖のあまりにアンゴル・モアの下につき、自分さえ助かればそれでいいと思いスカウトを受けるだろう。


 さくらたちはアンゴル・モアの誘いには一切乗らなかったが、晃一郎は普通の人間なので保身に回らないかさくらたちは心配だった。


 晃一郎はアンゴル・モアの誘いに頷き、少し考え込んでから答える。


「そうだな、普通ならお前の下について力を得る方が安全だな。本当に悪い話じゃないのはわかるぜ。もし学生の頃の俺なら簡単に乗ってただろうな」


「まさか……!?」


「そうか、思い出したぞ。貴様は10年前、我が見込んだ闇に呑まれた少年だったな」


「なんだ、学生時代の俺のことをあんたも見込んでたのか。嬉しい話だな」


 過去の晃一郎は当時総理大臣だった祖父にクーデターを起こし、祖父が失脚して家族や幼なじみを巻き込んでしまい、それを引きずっていじめを受けていた。


 家族や幼なじみ、仲のいい後輩たちが味方に付いていたからよかったが、もし味方がいなかったら晃一郎はマイナスエネルギーに呑まれて魔物になっていただろう。


 晃一郎は中学時代のことを思い出し、悲しむさくらたちを無視してアンゴル・モアに歩み寄って契約を結ぼうとした。


「ならば我と契約を――」


「だけどそれで誰かを犠牲にして自分だけ生き残ったとしても、俺は後悔と自責で苦しむことになるんだよな。あんたの下についても、いずれは闇に落ちた自分に絶望を感じ、結局は同じ運命を辿るだろう。残念だがあんたの誘惑には乗らない。それに俺には――水野澄香という愛する人がいる。その愛する人を裏切ってまで、目先の希望なんかにすがりはしない!」


「晃一郎さん……!」


「へへっ……やっぱり晃一郎さんはアタシが見込んだ男だぜ! あの時からちっとも変ってねえ!」


「上げて落とす作戦のお返しといったところだな!」


 晃一郎はアンゴル・モアの気持ちを上げてから一気に突き落とすという絶望に陥らせる方法を逆手に取り、アンゴル・モアの誘いには乗らなかった。


 澄香という愛する人がいたからこそマイナスエネルギーの誘惑を乗り越えたのだ。


 アンゴル・モアは10年前からのマイナスエネルギーに期待していたが、断ってアルコバレーノ希望に生きることを選んだ。


 もう引きずって絶望に染まった晃一郎は、どこにもいなかったのだ。


「そうか……残念だな。だが……これならどうだ!」


「うっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「晃一郎さんっ! きゃぁっ!」


 アンゴル・モアは断られることも計算に入れていたのか、指を鳴らして晃一郎のプラスエネルギーを無理やりマイナスエネルギーに変える。


 晃一郎の隠されたマイナスエネルギーに大きく反応し、晃一郎はもだえ苦しみ悲鳴を上げる。


 千秋が助けに行くもマイナスエネルギーに弾かれ、完全にアンゴル・モアの術中にはまってしまった。


「何だ……!? このとてつもない禍々しくて近づくだけで支配されそうな魔力は……!」


「これが水野さんの隠されたマイナスエネルギー……!」


「クソッ! どうやって助けるんだ!」


「これでは近づけないですね……!」


 晃一郎の胸からたくさんの黒い魔力が暴走し、目は徐々に光を失っていった。


 激しくも苦しみが限界を超えている悲鳴は、まるで晃一郎自身の魂の叫びにも聞こえた。


 中学の時に助けてもらえないどころか陥れられたことで世の中に絶望し、様々な人から裏切られた心の傷は今も残っていて、それを今までずっと引きずっていたのだ。


 それでも明るく振る舞い、高校時代に陥れた組織に打ち勝つほどの力を得た。


 そんな心の闇が暴走し、隠れたマイナスエネルギーをアンゴル・モアによって強引に解き放たれた。


「嫌です! 晃一郎さんがこのまま悪に染まるなんて見たくないです! わたくしはまだあなたに恩返しをしていません!」


「ボクだって! 本当ならボクはまだ男のような生活を送って、女の子らしい事しないはずだった! それなのにあなたが社長と一緒にボクを見つけて新しい自分を見つける事が出来たんだ!」


「私も晃一郎さんや社長たちに出会うまで融通が利かずに頑固なままだった! 私はあなたがいたからこそ己自身をさらに高める事ができたのだ!  あなたほどの人間が奴の洗脳に負けるはずがない!」


「みんな……!」


 みどりと橙子、ゆかりは危険を顧みずに晃一郎に抱きつき、マイナスエネルギーを一緒に浴びて浄化しようとする。


 晃一郎はアンゴル・モアによって目覚めたマイナスエネルギーに今も抵抗していて、何度も心が折れそうになるも立ち直ろうとしている。


 晃一郎の心が限界を迎えて倒れ込むと、ポケットから写真がポロリと落ちる。


「澄……香……!」


「あの写真は結婚式の時の……!」


「ずっと大事に持っていたのだな……」


「頑張って晃一郎さんっ! あなたには愛する人が舞っているはずですっ!」


「そうだな……。愛する妻が……俺たちの帰りを待っているんだ……! 社長だって出産に備えて準備しているんだ……! そんな新しい命の誕生と……俺の新婚生活を奪われてまで……絶望なんかに負けたくないっ! うおぉーーーーーーっ!」


「何っ!?」


 晃一郎は学生時代から付き合っていた澄香のことを思い出し、愛の力であんごる・モアのマイナスエネルギーを弾き返す。


 内なるマイナスエネルギーに打ち勝った晃一郎は倒れ込み、みどりと橙子、ゆかりに抱きかかえられて安全な場所へ座らせる。


 晃一郎の膨大なマイナスエネルギーを呼び起こすのに力を使い果たしたアンゴル・モアは立ちくらみを起こし、さくらたちにチャンスが訪れる。


「今よ! あいつはもう予想外の瞬間で動けないわ!」


「水野社長! あなたの復活をボクたちは信じてましたよ! 覚悟しろ! ビッグバンシャイニングバスター!」


「よくも水野社長を苦しめましたね……もう許しません! グレートタイフーンアロー!」


「やはりあなたは私の尊敬する偉大な方です! さてと、洗脳するという事は……それなりの報いを受ける覚悟があるようだな! 成敗! 真・邪気退散斬(じゃきたいさんざん)邪気退散斬!」


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 アンゴル・モアはみどり、橙子、ゆかりの怒りの必殺技で立てないほどの大ダメージを負い、そのまま膝をついて倒れていった。


 晃一郎はみどりたちの雄姿を見て微笑み、グッドラックサインで勝利を称えた。


 まだ魔力の消費が大きくないさくらと雪子は晃一郎を介抱して起き上がらせる。


 さくらたちは先ほどの事を踏まえてまだ戦いは終わってないと身構える。


 するとアンゴル・モアは最後の抵抗なのか雄叫びを上げ、身体が崩れていった。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉっ! もう許さんぞ……アルコバレーノ! 貴様らの命を永遠の絶望に落とすまで……我は諦めぬぞぉっ! このまま城の下敷きになって永遠に眠れっ!」


 アンゴル・モアの大きな身体が灰になって崩れ去り、その瞬間に城が大きく揺れて崩れ始めた。


 アンゴル・モアに向かう時に通った道を進んで脱出を試み、力自慢のほむらが立てなくなった晃一郎を背負って走る。


 城から全員無事に脱出すると城は跡形もなく崩れ落ち、中心部から地獄を表現した黒い大きな球体がさらに高く昇っていった。


 空は完全に太陽から遮断(しゃだん)され、花や木々は枯れ果ててしまい、ほとんどの生き物は動けなくなっていった。


 球体が大きな爆発を起こし、アンゴル・モアは大きな宙を舞う大魔王へと変身した。


 姿としては人型で吸血鬼のように青白い肌、背中に大きなコウモリの翼が生え、頭には大きな牛の角があり、目は悪魔のように大きく釣り上げられ、唇は妖怪のように大きく上に裂けていて真っ赤だった。


 アンゴル・モアは全人類に告げるように叫ぶ。


「私を本気の姿にしたアルコバレーノには素直に敬意と健闘を称えよう。だが人間共よ、この姿になったからには最悪の絶望に落とされることを覚悟するといい。私にはどんな兵器も効かぬ。脆弱な魔法も効かぬ。このまま私の力で何も出来ずに地獄を味わい絶望するといい」


 あまりの大きな姿に驚愕(きょうがく)し、ここまで高く昇るとうやっても届かなかった。


 今見えているアンゴル・モアの姿はただの錯覚で、魔力を研ぎ澄まして見ると実態と肉体がないが魔力で見える形として具現化しただけのマイナスエネルギーそのものだった。


 さくらたちは今アンゴル・モアに立ち向かっても倒せないと判断し、晃一郎を連れてレインボーランドへと撤退した。


 つづく!

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