第85話 決戦・絶望の女王
絶望の魔女アンゴル・モアはアルコバレーノを絶望に落とそうとするも、そのような誘いに乗らなかった。
今までに感じたどのマイナスエネルギーよりも膨大で、感じただけで肌が焼け付くように熱く、同時に凍えるように寒いと感じた。
アンゴル・モアは余裕の笑みを浮かべ、素手でさくらたちに魔法を放ち、誰に当たって負傷しようが構わない方法で攻撃を仕掛ける。
さくらたちはアンゴル・モアの攻撃に当たるも、橙子とゆかりだけは素早く避けてアンゴル・モアに立ち向かう。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「くらえっ!」
ゆかりと橙子が息の合ったコンビネーションで動こうとしないアンゴル・モアの顔に攻撃が当たる。
みどりと千秋の援護射撃も当たり、アンゴル。モアにダメージを与えることができた。
それでもアンゴル・モアは何故か顔に傷ひとつつかず、不敵な笑みを不気味に浮かべていた。
その笑みはアクマージと同じような自信にあふれている笑みで、違うところはダークナイトの持つカリスマ性、ヘルバトラーの持つ頑丈さ、アクマージ並みの無限の魔力、そしてデスカーンの持つ心理的なものがあった。
「「「zzz……」」」
「えっ……!? みんなどうしたの!?」
アンゴル・モアの額にある目が怪しく光り、直視してしまった海美、ほむら、千秋は眠ってしまう。
さくらたちが揺すって起こそうとするも起きる気配がなく、ほむらたちは深い眠りについてしまった。
「貴様……皆に何をしたのだ!」
「安心するのだ。厄介な者には少し眠っていただくだけだ。そして――」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ! やめろぉぉぉぉぉぉ! これ以上アタシの家族に手を出すなぁぁぁぁぁぁっ!」
「嫌……! お父さん! みんなが……街のみんなが殺されるなんて……! いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「どうして……? どうしてみんな苦しそうにしているの……? 私にこの人数を救えるの……? 怖い……助けて……! いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ほむら、千秋、海美は眠りながら徐々にうなされ、次第に悲鳴を上げるほどの悪夢を見る陽になる。
ほむらたちの悲鳴だけでも絶望を感じ、さくらたちはアンゴル・モアの力を思い知った。
「千秋! ほむら! 海美! なんてことを……!」
「アンゴル・モア……貴様ぁぁぁぁっ!」
「どうだ。汝らの心の弱さ故の悪夢を見た心境は。妾と戦う資格があるのは桃井さくら、白銀雪子、紫吹ゆかり、葉山みどり、柿沢橙子か。やつらが苦しんでいる中で、果たして汝らは妾と戦えるかな?」
アンゴル・モアは千秋とほむら、海美の心の弱点を見抜き、悪夢魚見せることで精神的な苦痛を味合わせる。
さくらたちは迂闊に近づけず、額にある目が開いた時が最後だと悟った。
みどりは去年にほむらと海美と一緒に一泊をした仲で、どうしても助けたいという気持ちが強い。
橙子とゆかりはアンゴル・モアを倒したいところだが、額の目を怖がって動けなくなっていた。
しかし圧倒的な力を前にしても絶望していない魔法少女が一人だけいた。
「私に任せてください! 私には状態異常を治し、精神の安定と回復をさせる新たな魔法があります!」
「それを早くみんなにやって! これ以上みんなが苦しむのは見たくないよ!」
「はい! 皆さん、もう大丈夫です。皆さんの心の弱さは弱さではありません。守りたい人がいるからこそ、不幸になる姿は見たくない……それが皆さんの優しくも強くたくましい心の持ち主なのですから……。オーロラビジョンリカバリー!」
雪子には絶望に負けない心の回復魔法が使えることを話し、すぐにほむらたちを悪夢から目覚めさせる。
雪子の左手からオーロラが浮かび、徐々にほむらたちの精神は落ち着き、三人は慌てるように目を覚ます。
「うう……! うわぁぁぁっ! はぁ……はぁ……! ここは……?」
「はぁ……はぁ……! わからない……。でも不思議……。このオーロラに包まれると心が安らぐわ……」
「それだけじゃない……。今まで抱え込んでいた悩みと苦しみが解放されていくようだ……!」
「そうだ……! 私たちがここで絶望したら街のみんなや大切なみんなの笑顔を守れない! 私はいつの間にかみんなに甘えていたって気付いたよ! もう私もみんなも不幸にさせない!」
「家族が大事だと言いながら、自分を疎かにしちまった自分が恥ずかしいぜ! 自分自身が弱気になって家族に依存しちまってるようじゃあ、大切な家族を守ることも出来ねぇよな! おかげで目が覚めたぜ!」
「助けられないのは私自身の愚かな心の弱さ……。その弱さをどこかで認めずに隠し込んで自分だけと思い込んでいたのかもしれないわね。だけど……自分を大切にできない人が他人を大切になんて出来ない! 優しさとは他人だけでなく自分自身にも与えるものだって思い出したわ!」
「みんな……!」
ほむらたちは雪子の魔法によって自分の弱さを実感し、同時にまた一歩踏み込んで精神的に成長をする。
雪子の魔法によって心に余裕が生まれ、自己犠牲だけでは自分が傷ついていることに気付かないんだと思い出した。
「諦めの悪い奴らだ。ならば強くなった心とやらを妾の前で見せてもらおう! もう一度眠るがいい!」
「私たちは絶対にあきらめない! みんなと……私自身の笑顔のために! はぁぁぁぁぁぁっ!」
「うぐぅっ!」
「おらぁっ! 休んでる暇はねぇぞ絶望の魔女!」
「ぐふっ! ぐはぁっ!」
「くらいなさい! はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐはぁっ……!」
精神的に成長したほむら、海美、千秋は先ほどの悪夢が嘘のように動きがよくなり、アンゴル・モアへ着実にダメージを与える。
同時に怪しい瞳にも誘惑されず、アンゴル・モアに一直線で攻撃を仕掛けた。
千秋は銃の弾丸を囮にしつつ自らの身体で攻撃を仕掛けてアンゴル・モアを投げ飛ばし、ほむらと海美は隙のない動きで連続で斬撃を繰り返す。
アンゴル・モアの動きが少しずつ鈍くなったのを感じた千秋たちは力を合わせて最大必殺技を唱えたる。
「スマイルサンダーブレイカー!」
「ビッグウェーブエクスカリバー!」
「アトミックファイヤーインパクト!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
千秋たちの必殺技が命中し、アンゴル・モアは姿を消してローブだけが残っていた。
雪子のアシストと千秋たちの復活からの活躍で絶望の女王を倒したと思った瞬間、どこからともなくアンゴル・モアの声がまた聞こえてくる。
「なかなかやるではないか。だがやはり人間の姿では失礼だったようだな。もう汝らを葬るのに手加減はせぬぞ……。ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
残されたローブが黒い炎に包まれて燃え盛り、最後には灰になっていった。
すると突風が吹き荒れて灰は宙に舞い魔物の形を作っていった。
灰から10メートル級の女魔人の姿に変わり、前よりもマイナスエネルギーが増していた。
「貴様らの肉体も魂も絶望の地獄に叩きのめし、我に逆らう人間共を駆逐してみせよう!」
今度は口調が荒々しくなり、力で相手をねじ伏せる戦闘スタイルとなった。
「またマイナスエネルギーが大きくなったか……! みんな! 頼りないかもしれないが、俺の魔力を受け取ってくれ!」
「かつて日本の高校野球を救った晃一郎さんのプラスエネルギーは頼もしいッスよ!」
「晃一郎さんのプラスエネルギーなら百人力だ! 感謝します!」
「あの男のプラスエネルギーが只者ではないな。まあいい、どのみち貴様らを葬ればいいだけの事!」
アンゴル・モア第二形態は両手に持っているサーベルを荒々しく振り回し、力で強引に絶望に陥れようとする攻撃型のスタイルに変わった。
晃一郎はありったけのプラスエネルギーをさくらたちに注いだので少しだけ座り込んで休む。
アンゴル・モアとの決戦はまだまだ続く。
つづく!




