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第84話 絶望VS希望

 羽田空港で雪子を迎えに行くとアンゴル・モアの手先が襲いかかり、その途中で雪子が覚醒して魔法少女となる。


 そこで作戦を立て直すために一度事務所に戻り、体勢を整えてからもう一度羽田空港へ向かう。


 純子の不在に不安を覚えた晃一郎は澄香に電話を入れる。


「もしもし、澄香? 社長が具合が悪いと聞いたんだが、今はどうなってるんだ? うん……うん……えっ!? それって本当か!? じゃあ社長はしばらくは……わかった。とにかくあの子たちに伝えておく」


 晃一郎は電話の内容に驚き、嬉しいような悲しいような顔でさくらたちに電話の結果を話す。


「みんな落ち着いて聞いてくれ。社長はしばらく戦いにも仕事にも姿を出せなくなった。代わりに俺がみんなをプロデュースし、同時に戦いの指令を任された。これが今のところ悪いお知らせだ」


「そんな、晃一郎さんは頭がいいし頼りになる人ですから」


「悪いお知らせってことは、もう一つはいいお知らせがあるってことですか?」


「なぜわかったんだ?」


「晃一郎さんに焦りを感じますが、どこか嬉しそうでしたので」


 純子が現場から離れることが悪いお知らせとなったが、まだいいお知らせがあるんじゃないかとみどりは信じていた。


 同時に晃一郎の顔つきを見てただの悪いお知らせだけではないことをみどりは察したのだ。


「葉山さんには敵わないな。そうだ、社長は夫との子を妊娠したんだ。これは本当におめでたいことだ」


「社長もついにお母さんになるんだね……!」


「だけど社長がいないのよ。私たちだけでしっかりしないといけないわ」


「そこで社長代理に俺が任命された。これからは俺がこの事務所を支える。よろしく頼む」


「「「よろしくお願いします!」」」


「さてと、シロン。この子たちはもう戦う準備ができている。羽田空港へ移動し、憎きアンゴル・モアを倒す。もちろん保護者として俺がついていく」


「わかりました。くれぐれも無茶はなさらないように」


 晃一郎が司令官になり、同時に事務所の社長代理としてアルコバレーノを導く役目を担うことになる。


 さくらたちの顔つきは戦う顔つきになっていて、もう既に戦う覚悟を決めていた。


 その顔つきを見た晃一郎は羽田空港へ向かう指示を出し、シロンの旅の扉によって移動する。


「着いたよ」


「飛行機が一機もなくここまで殺風景なのははじめてね……」


「日本軍の皆さんが少しいるくらいでしょうか……?」


「とにかく海の方へ行きましょう」


「「「うん!」」」


「最近懐妊した社長のためにも、絶対に世界を救わなきゃな」


「はい」


 純子の不在に不安を感じつつも、晃一郎の慎重かつ堅実な指示にさくらたちは安心感を覚える。


 羽田空港には人どころか飛行機が一機もなく、無人空港となっていた。


 さくらたちはアンゴル・モアのところへ向かうべく絶望の城のある所へ歩いていく。


「あっ、君たち! そっちは危ないよ! 絶望の女王がそこにいるんだ!」


「その絶望の魔女を討伐に来ました」


「しかし一般の女の子を危険に巻き込むにはいかないんだ。わかってくれ」


 さくらたちが絶望の城へ向かう途中、やはりというべきか日本軍が警備をしていて簡単には通れなかった。


 晃一郎がさくらたちがモノクロ団と戦った魔法少女だと説明をしようとすると、今度は大きな体格の男性がさくらたちの前に立つ。


「待ちなさい、君たちがモノクロ団の野望を食い止めたというアルコバレーノだね」


「はい」


「えっ、あのアルコバレーノですか?」


「我々としては君たちに負担をかけたくはないが、世界中の軍が集まっても勝てなかったあいつを倒してほしい。ただし、大人の人を必ず一人は同伴する事だ」


「それなら私が同伴します」


「やつ……じゃないな、今は水野だったな。お前ならこの子たちをサポートできるはずだ、信じてるぞ」


「悪いな郷田。次に会う時は焼き肉奢るからな」


「いや、それよりも全員無事に帰るっていう美味しい話にしてくれよ。じゃあ……頼んだぞ」


 郷田という男は晃一郎の高校の友人で、今は日本軍でもかなりの役職を持っている。


 その役職の権限でさくらたちは絶望の城へ向かう。


 しかし絶望の城には道も橋もなく、どうやっても中に入ることができなかった。


 すると雪子は突然前に出て深呼吸をする。


「白銀さん……?」


「えっ……? この曲は確か……!」


「見て! 橋が目の前に現れたよ!」


「白銀さん……君はどうしてその歌を……?」


「お母さまの子守唄で幼い頃からずっと聴いていました。」


「その歌は絶望の心を癒し、悪い心を改正させる歌なんだ。使い方を誤ればそれが逆に怒りに変わることもあるけど、そんな歌を歌いこなすなんて……!」


「それよりも早く行こう! このままだと世界があの時みたいにになっちゃう!」


「待て橙子! 特攻はアタシの十八番(おはこ)だろ!」


「まったく……。二人は行動的で世話が焼けるぞ。だがこれも皆のためだ、行くぞ!」


「みんなの笑顔のために……いきます!」


「絶望の女王アンゴル・モア……西暦時代の20世紀末に世界を驚かせた恐怖の大王……。ノストラダムスもまさか今だなんて思ってないでしょうね」


「そうですね……でも、このまま黙って絶望するわけにはいきません!」


「そうだな。シロンはここで待っててくれ!」


「はい!」


「みんな! いくよ!」


 覚悟を決めたさくらたちはシロンを残して城の中へ入り、不気味な雰囲気に負けることなく進んだ。


 中に入ると毒々しい沼地や灼熱(しゃくねつ)の温度の血の池、触るだけでも痛そうな針の山、振れただけでも肌が凍るほどの猛吹雪(もうふぶき)、あまりにも酷い刺激臭のする霧、悪い事をしたのに救いを求めようとしてもがき苦しみ、命乞いの悲鳴を上げる人々のうめき声など、まるで地獄界にいるような構造にさくらたちは気分が悪くなる。


 一番上にある奥の中心部にたどり着くと、王座に座って待ち構えている女性がいた。


 その女性は肌が青白く、目は無限の闇のように黒く、唇は灼熱の炎の様に紅かった。


 黒と赤のローブととがった耳、(ひたい)にもある目、頭蓋骨(ずがいこつ)を悪趣味にネックレスとしてかけているなど、地獄の女王を名乗っているのは本当だった。


 その女性は突然王座から立ち上がり、さくらたちの顔を見てニヤリと笑みを浮かべる。


「ついに現れたな、希望の魔法少女アルコバレーノ。(わらわ)は絶望の魔女アンゴル・モア。地獄の帝王であり、恐怖の大王だ。(なんじ)らがありのままの地獄を五感で感じながら逃げずにここまでたどり着いたことは褒めて差し上げようぞ。苦しみこそ至高、悲しみこそ美味、憎しみや怒りこそ世界の真理なのだ。現に人間共は今もこうして格差を開き、自分だけが幸せになるように行動し裏切り、快楽に溺れて過ごし、人間同士で自分勝手に殺し合う戦争をしているではないか。やはり人間共は2000年前の悲劇の頃から何も変わらぬな。汝らも既に気付いているであろう、人間の本当の心と姿に。今ならチャンスを与えよう……妾と共に人間共を支配し、絶望なる世界を作り上げようではないか」


 アンゴル・モアは人間の本当の姿と心を見抜き、さくらたちに心理戦を持ち込む。


 人類は昔から自分中心に生きる生き物で、何度も世界滅亡の危機に扮したこともあった。


 西暦時代には数多くの私利私欲のために戦争をし、何人もの人々を不幸に陥れ、最終的には人類絶滅寸前にまで世界を滅ぼしかけてしまった。


 それから新暦として人類は立ち上がり、終わりから新たな始まりとしてやり直し、現在の新暦2019年まで平和を築いてきた。


 レインボーランドの戦争は人間界でいうとちょうど第三次世界大戦が勃発したころと重なっていたのだ。


 その長い因縁を断ち切るべく、アルコバレーノはアンゴル・モアに挑む。


「うん、確かに人間はあなたの言う通り、かつては全世界で争い、今でも憎み合い傷つけ、自分だけがよければいいって思ってる人が多い、それが普通かもしれない。あなたの仲間になれば楽に世界を支配し、私たちは自由に過ごせるんだよね。だけど……本当にそれでいいのかな? そんな世界になれば、大切な人を守る事も、遊ぶことも、大好きな歌や絵、食べ物だって楽しく得る事が出来ないんだよ? あなたは奪う愛しか知らないかもしれないけど、人間が心をより鍛えて綺麗にすれば……与える愛や勇気、笑顔などを広める事だって出来る。綺麗事に思われたって私は構わないし、それはただの理想だって思われて嫌われたっていい。でも……私が不幸になっても、他のみんなまで不幸になるのは私は見たくない! だから……あなたを倒して、世界中に愛と平和と勇気、知恵、笑顔、優しい心などを与える!」


「せっかく忠告したのに。弱い奴ほど綺麗事をほざくものよ。いいだろう……汝らのその希望とやらを妾の手で永遠の闇に葬り去ってみせよう!」


 アンゴル・モアはマントを脱ぎ捨て戦闘体勢に入る。


 アンゴル・モアから放たれたマイナスエネルギーは洗脳されて闇に染まった真の姿のモノクローヌよりも大きく、すぐ近くにいたさくらたちは戦意喪失に陥るほどの圧力を受けた。


 それでも人々の悲しむ顔が浮かび、強い信念を持って怯むことなく武器を手に取って堪える。


 橙子は今までの経験を活かして様子を見るために三節棍(さんせつこん)を持ち構え、いざという時に格闘に変えてより素早く強い攻撃魔法にするというスタイルに変える。


 ほむらも特攻以外にも援護やリーチの長さを活かし、距離感を保った攻撃と防御で槍を自在に操る。


 みどりは弓で遠距離からの援護は変わらなず、高くなった魔力で連射や同時発射の数が増え、短剣での戦術もより多彩になって持ち方を変えたりするなど工夫する。


 海美の剣は世界中のあらゆる剣術を取り入れた戦法で、片手半剣の利点を生かした片手での突きと両手による防御と叩き斬り、左手の盾魔法でみんなを守るなど責任感を強く持つ。


 千秋は拳銃の使い方が安定し、肉弾戦が通用しない相手には拳銃と護身術で鍛えた気迫と心で対抗できるようになり、攻守ともにバランスのいい戦術を取る。


 ゆかりはより精神を鍛えることで追い込まれても絶対に揺るがない心を手に入れ、歴史上の日本の剣豪の戦い方や剣豪に対抗した達人たちの戦術を取り入れた動きでより素早く行動する。


 雪子も細氷(さいひょう)のサーベルに慣れ始め、今はシロンよりも光の使い方が上手くなり、氷魔法との組み合わせでより攻撃力が高まり、戦闘経験はこれからという将来性に期待できそうだ。


 そしてさくらは新体操以外でもあらゆる表現競技の動きと臨機応変に使い分けて戦う人の戦術を取り入れ、リボンで中距離と遠距離魔法、バトン棍棒で近距離と防御、リボンが千切られると杖で遠距離での牽制や攻撃をする。


 リボンが再生されると変幻自在の動きで攻撃態勢を整える。


 杖に比べて魔力の消費も激しいリボンにさくらは魔力消費を抑えながら全力で戦えるように心と技、そして体力と理性を一緒に鍛え、最小限の消費で最大限の威力を発揮できるようになった。


 アルコバレーノとアンゴル・モアの世界の平和をかけた戦いが今、始まったのだ。


 つづく!

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