第81話 絶望の女王現る
虹ヶ丘エンターテイメント感謝祭当日を迎え、事務所の所属タレントは全員準備に取り掛かる。。
最初のオープニングセレモニーはPhantomとなり、アーティストのライブの間にお笑い芸人のコントを挟むセットリストだ。
ここ日本武道館で感謝祭は行われ、各タレントたちのファンが全国から集まり規模の大きさがうかがえる。
「なんだか緊張するね……」
「なんせ俺たちのオールスターだからな」
「だけど白銀さんは世界の舞台に立ってるんだ。そう弱気なことを言ってられないよ」
「そうね。今頃彼女はどうしているかしら?」
「今日がコンクール当日だったね。3ヶ月間ずっと滝川先生の現地レッスンで大変だったと聞くよ」
「はい。それでも雪子ちゃんは夢の大舞台で羽ばたいていくと思います」
「そうですね、白銀さんの歌声でしたらきっと感動を呼ぶことでしょう」
今頃世界に羽ばたいている雪子の話題が上がり、先輩として雪子に負けないくらい熱い感謝祭にしようと話し合う。
とくにさくらは仲がいい雪子の世界での活躍が刺激になっていて、同じく兄の晃一郎がプロデューサーとして世界に行っている暁子も燃えていた。
「皆さーん! 注目してくださーい! 社長から皆さんに激励の言葉を贈りますよ!」
澄香が声をかけて静かにさせ、この感謝祭の監督を務める純子が激励の言葉を贈る。
タレントたちは純子を信じ、何があっても支え続けてこの事務所を大きな事務所に作り上げた。
そんな凄腕社長の純子を慕ってここまで来たタレントたちの胸は熱くなっている。
「みんな、よくここまでたくさんの仕事をこなしながら感謝祭に向けて頑張ったわ。今日が本番で日本全国からたくさんのファンが集まってきたわ。紅白歌合戦と重なって出場は残念だったけど、今日が最高のお祭りになって今年最後の大一番を締めくくりましょう! 声かけはそうね……黄瀬さん、お願いね!」
「はーい! それじゃあみんな! 今年で一番の笑顔をみんなに! 届け!」
「「「「虹ヶ丘!」」」」
「よっしゃあ! 最初は俺たちが盛大に盛り上げていくぜ!」
「赤城さんといきなりコラボでオープニングじゃあ!」
「ロックにいこうぜ!」
「赤城さん! 準備はいいか?」
「もちろんです! アタシも皆さんに負けません!」
最初はPhantomとほむらのコラボによるオープニングで始まり、赤いサイリウムが熱くさせていた。
ボーカルの稲葉マサトシ、リードギターの松本ヒデトシ、リズムギターの飯塚タクヤさん、ベースの寺沢イクオさん、そしてドラムのTOSHIKIがロックに響き渡りる。
同じくロック好きでPhantomに憧れていたほむらはいつも以上に熱く歌い上げ、稲葉も驚くロックな魂に観客を震わせた。
続いて双子デュエットアーティストの栗山真希と沙希で、双子ならではの息がピッタリのきれいなハーモニーを生み出した。
合間のコントでは通天んがいつも通りキレのある漫才で観客を笑いの渦に巻き込み、観客の笑顔で千秋も嬉しそうに見守っていた。
合間を挟んで外国人お笑い芸人コンビのジョーカーズの国際ネタや国を使った国民性ジョークで笑いを取る。
さくらたちは徐々に出番が回るのが近づき、緊張と楽しみが混ざり合って早く舞台に立ちたいと思った。
ファッションショーではギャルから大人の魅力が増した小野愛梨が新たに清楚系ギャルを演じ、たくさんのモデルさんがそれぞれの自慢のブランドを紹介した。
声優の大山奈緒主演の朗読『ドリームクエスト』という夢の世界で悪夢を見せようとする魔王と、それを阻止する勇者の冒険の物語を朗読で読み聞かせた。
そして今回のメインイベントで俳優全員によるミュージカル『レ・ミゼラブル』が発表され、会場は拍手喝采に見舞われた。
さらにラストはアイドル枠である茶山と暁子が歌い、観客を大いに盛り上げる。
そしてついに最後の出演者であるアルコバレーノの出番になる。
「みんな! いつもの掛け声をやろう!」
「いいよ! やろう!」
「よーし!」
「今日はゆかりさんが掛け声をお願いします♪」
「なっ……!? 私がだと……!?」
「いいじゃない、明日が誕生日でしょ?」
「むむむ……仕方あるまい。私が声をかけよう!」
「いいぞーゆかりー!」
「コホン……希望を導く七つの光! 輝け!」
「「「アルコバレーノ!」」」
(みんな驚くだろうなぁ。私からのサプライズに)
ゆかりが掛け声を発し、アルコバレーノは気合を入れてステージへ向かう。
しかしさくらは何やらサプライズを用意していて、登場しながら少しだけ微笑んでいた。
その秘密を隠しながら1曲目である『魔法少女アルコバレーノ』を歌い、いつもの攻撃魔法を舞台用にアレンジして殺陣をしたりで盛り上げる。
2曲目に新曲であるハロウィン曲『妖怪パレード』を歌い、最後の音楽ゲームの主題歌である『メロディー』を歌う。
「実は皆さんに、スペシャルゲストがやってきます!」
「「「「「おお!?」」」」」
全曲を歌い終えるとさくらがマイクを取り、このタイミングでサプライズを出す。
「えっ!? そんなのボク聞いてないよ!?」
「私も聞いてないわ……?」
「それを早く言ってくれよー!」
「それじゃあ中継を繋ぎます! 雪子ちゃん!」
さくらが雪子を呼び、モニターにはドイツのベルリンからの中継が映る。
「はい。白銀雪子です」
「ええっ!? 白銀さん!?」
「いつの間にコンタクトを取ったのだ!?」
「実はLINEで感謝祭の様子とコンクールの結果を連絡しあってたんだ。雪子ちゃん、コンクールはどうだった?」
「はい。私はグランプリを逃してしまいました」
「残念……」
雪子の結果が残念に終わったことが報告され、会場は落胆してしまう。
それでも雪子の顔は曇っておらず、まだ何か発表を控えていた。
「しかし、私はベルリン国際声楽コンクール150年の歴史上初の10代歌手ということで、審査員特別賞である『ジュニアソプラノ賞』をいただきました! 世界的ソプラノ歌手でグランプリ受賞者のエルマ・マルチェロさんが審査員に特別推薦したそうです」
「マジか! 大人の人と張り合えたとはやるな!」
「あなたは私たちよりも立派になって世界を驚かせたのよ。日本に戻ったらまた聴かせてね」
「はい!」
雪子はグランプリを受賞したソプラノ歌手から推薦を受け、審査員が特別賞を受賞させたことを報告する。
世界一にはなれなかったが、中学生ながらオトナ顔負けの歌声を披露したことで高い将来性とポテンシャルが評価され受賞をしたことを話す。
雪子の受賞に会場は大喜びし、雪子も嬉しそうにしたがだんだん表情が曇り始める。
「ところで先程から照明から黒い霧が浮かんでいますが……? ライブの演出ですか?」
「はて……? そのような演出なんてわたくしは――」
「待って……もしかして!? みんな! ステージから離れてください!」
雪子の不穏な発言に会場は戸惑い、ステージが暗くなっていくのが確認される。
しかし証明スタッフのミスではなく、いくら照明をマックスにしても暗いままだった。
するとさくらは黒い霧から膨大なマイナスエネルギーを察知し、その霧がステージの上に移動して集まる。
会場の観客はさくらの言う通りに武道館から出て避難し、観客の安全が確保された。
すると突然アルコバレーノを目掛けて雷が落ち、逃げ遅れた観客の悲鳴が響き渡る。
「「「きゃぁーーーーーっ!」」」
「ふははは! 宴が盛り上がってる中ですまぬな!」
「誰だてめえ!?」
「まさかあなたは……!?」
「そうだ。妾は絶望の魔女アンゴル・モア。地獄からこの世界を絶望に落としに来た者なり」
アンゴル・モアの登場にさくらたちはかつてないほどに真剣な表情でアンゴル・モアを睨む。
逃げ遅れた観客たちはさくらたちの様子を見るために足が止まり、アンゴル・モアの襲撃に恐怖する。
「何だあれは……!?」
「まだ彼女たちの戦いは終わってないの……!?」
「そんな……! 桃井さん……!」
「あなたが絶望の魔女……!」
「ついに現れたんだな!」
「ほう、妾の存在を知っていたというのか。さすがモノクローヌの洗脳を解き、裏切り者がいたとはいえ高飛車の野望を砕いただけのことはある」
「答えよ! 貴様の目的は何だ!」
「妾は人間共の絶望が喜びなり。人間共の怒りや悲しみこそ世界の真理なり。貴様らの希望とやらを絶望の黒に染め、妾の理想の世界を創り出すのだ。アルコバレーノ、妾と戦いたくばいつでも東京湾の中心部を訪れよ。妾はそなたたちの絶望に苦しむ姿を拝むのを期待しているぞ。ふははははははは!」
アンゴル・モアは自分の目的を話し、高笑いしてそのまま消えていった。
感謝祭は途中で中断され、最後を飾るグランドフィナーレは中止にするかの検討が出始めた。
ファンの間でも中止になるんじゃないかと騒がれたが、一人のファンがステージ前に駆け出してさくらたちを応援する。
「モノクロ団をたぶらかした絶望の魔女が何だ!」
「私たちのアルコバレーノは負けないんだから!」
「頑張れ! アルコバレーノ!」
「そうだ! 僕たちには何もできないけど、みんなが無事に帰ってくることを願っているよ!」
「ワイら虹ヶ丘は君たちを全力で支援したるわ!」
「みんな……! ありがとうございます!」
「グランドフィナーレはやりまショウ! ワタシたちが弱気になったらファンが不安になりマス!」
「そうだね! てかマジであたしたちも負けてらんないんだけど!」
「桃井さん、グランドフィナーレをしましょう!」
「社長……みんな……! みんな! 予想外な出来事が起っちゃったけど、やっぱりグランドフィナーレをやります! 虹ヶ丘エンターテイメントは……永久に不滅です!」
「「「「いえーーーーーーーーーーい!」」」」
ファンだけでなくさくらたち以外の出演タレントもステージに立ち、アルコバレーノはアンゴル・モアに負けないと宣言する。
その言葉に励まされたさくらたちはグランドフィナーレを行うことを決意し、希望を持たせるためにステージへ向かう。
純子がグランドフィナーレを行う判断を下し、さくらたちは全力でグランドフィナーレを迎えるのだった。
「いいんですか社長。こんな事が起きたのに……」
「これでいいの。あの子たちが弱気になったら、もう誰も絶望の魔女を止められないわ」
「それもそうですね。あの子たちは世界の絶望を救った魔法少女ですから……」
スタッフの人に心配されるも純子はアルコバレーノを信じ、自分は見守ることに徹して希望を失わないようにする。
中継が切れたことで雪子は何が起きたかわからないので、純子は晃一郎に連絡を入れて今起こったことを伝える。
「社長、念のためにシロンにも連絡を入れました」
「いつもありがとう水野さん。今度は私たちがあの子たちの心のケアをしましょう」
「そうですね、あの子たちばかり負担をかけるわけにはいきません。さぁ、グランドフィナーレですよ。私たち裏方もステージに立ちましょう!」
「そうね、行きましょう!」
アンゴル・モアの宣戦布告があった中でグランドフィナーレを終え、虹ヶ丘エンターテイメント感謝祭はアクシデントがあったものの無事に全て終える。
あれから中継が切れた雪子もまた繋がり、ベルリンのホテルでグランドフィナーレのテーマソングを歌う。
純子たち社員は裏方の仕事をし、タレントたちが安心して感謝祭を勧められるように立ち回った。
こうして虹ヶ丘エンターテイメント感謝祭を終演し、日本武道館を後にしてそれぞれ帰路に入った。
同時にアルコバレーノの戦いは終わってないことを実感し、さくらたちはより一層プラスエネルギーを磨くのだった。
つづく!




